ボス戦 後半

まえがき


久々の更新です。

読んでいただけるとありがたいです。


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ミツキの攻撃を受けて地面に膝をつく『グリーン・トロール』。

間違いなく、ダウン・・・のモーションだ。


ダメージを与えることで『ダウン値』が溜まり、一定以上になると発生する『ダウン』……その効果は、『およそ5~10秒の間、行動不可能になる』というものだ。


ダメージ量、弱点属性による補正、クリティカルなどの色々な要素からすると、感覚的には……



「大体7秒ぐらいだ。スキルも使ってガンガン攻めろ!」


「オッケー、【パワーレイド】!」



流石に初心者のミツキであっても、動かない相手に攻撃を外すことはない。

ミツキが放った輝くエフェクトを纏う刺突は、膝をついて的が下がったトロールの首へと吸い込まれ、激しくダメージエフェクトを散らす。


クリティカル発生。

弱点部分へのヒットによってダメージが倍増し、属性の相克と相まって本人でも驚くようなダメージが出ていた。


そんな様子を横目に見ながらトロールへと間合いを詰めつつ、俺はUIに表示された時間を確認する。もちろん、ダウンの時間を管理するためである。



「通常5回で離脱!」


「うん! はぁぁぁっ!」



俺の指示はミツキと事前に決めていたもので、『スキルを使わない通常の斬り付けを5回行い、トロールから離れる』というものだ。数秒しかないダウンの時間を、長い指示で使う訳にはいかないしね。



俺の指示を瞬時に把握したミツキは、さらに一歩踏み込んでトロールを斬りつける。

緑の輝きが宙を薙ぐ度に軌跡を描き、同時にトロールの身体に裂傷を刻んでいく。


俺も『アイアンバックラー』で殴ってはみるものの……ミツキが出すダメージと比べれば雀の涙ほど。うーん、次の街に行ったら自分の武器も作っておくか……。



「下がるねっ!」


「ん? あぁ、オッケー。ナイスタイミング」



時間を確認すると、ダウン解除まで2秒。

ミツキがトロールの攻撃範囲から逃れるには十分な時間だ。

俺もミツキにヘイトが向かない程度に間合いを開け、トロールの次の行動に備える。



「ウゥゥゥ———」



トロールが立ち上がった。

最初のボスということもあり、トロールのHPはそれほど多くない。

すでに半分を切っているトロールは、ここからが本領発揮となる!



『グリーン・トロール が真の力を解放する!』


「オォォォォッ!」



大地が震えるような咆哮を上げたトロールの身体の表面に、赤黒いエフェクトが走る。

そのエフェクトが全身へと広がっていくにつれて、トロールの筋肉が隆起して厚みを増し——



「いや、ごめん。ホントごめんだけど、今が一番隙だらけなんよ」


「えっ」


「ゥガッ?」



俺が発動した【パワーガード】が、力を解放している途中のトロールの足に叩き込まれる。


変身中に攻撃なんてマナー違反であることは分かってるんだよ!

でも隙だらけだし……何より相手がパワーアップしてこっちが不利になるのに黙って見ていられるわけないだろ!


ミツキどころか、トロールも呆気に取られた表情をしてるし……ええい、俺は効率を取る!



【パワーガード】は、盾によって相手を強く弾くスキルである。

相手の攻撃を防ぐだけでなく、能動的に盾をぶつけることによってノックバックを与えることができるのだ。


ダメージはほとんどないけど、相手のバランスを崩すには十分!



「ガァッ!」


「ふっ!」



片足を弾かれ腰から落ちるトロールが地面につこうとした手を蹴り飛ばし、そのまま回転しながら勢いを付け———



「おらぁぁっ!」



「ゴアッ!?」



アイアンバックラーによる殴打が、トロールの顔面を捉える。

クリティカル発生。

俺のアイアンバックラーにも風属性の付与があるから、それなりのダメージが出たようだ。



「センコウ……酷いことするのね……」


「そんな目で見ないでくれ……」



トロールに攻撃を与えた後、ミツキのところまで下がってきた俺に、彼女は若干引いたような目を向けてくる。


そう言えばミツキも、魔法少女的なアニメとか好きだったな……変身中に水を差したうえ、顔面を殴り飛ばすなんてことしたら、まぁそんな顔にもなるか……。



でもそのおかげで、トロールのHPは残り4割程度。もう一回ダウンさせれば勝負が決まる範囲内だ。


だが、真の力を解放したトロールの行動パターンは、さらに変化する!



「グオォォォッ!」


「っ!」



握った棍棒を高々と掲げたトロールの両手に、スキルエフェクトがまとわりつく。

これはグリーン・トロールの全体範囲攻撃スキル、『アースクエイク』だ。



「ミツキ、作戦通りに!」


「うん、ごめんねっ!」



少し申し訳なさそうな表情を浮かべたミツキは、盾を構える俺の背中に隠れる。

『アースクエイク』は全方位への攻撃のため、避けるのが非常に難しい。


初心者のミツキにそれを求めるのは酷なので、俺が肉壁となってミツキを守る作戦だ。


全方位攻撃の代わりに威力は低めに設定されており、VIT振りビルドの俺なら余裕をもって耐えられるというわけだ。



俺を盾にするのはミツキも躊躇ったようだけど……俺が許可してるし、ダメージを受けるよりは良いと作戦通りに動いてくれた。



「オォォォォォォッ!」


「っ……【カバー】!」



振り下ろされた棍棒が地面を砕き、それと同時に衝撃波が発生する。

地面を削りながら迫るそれは、バックラーに顔を隠しながらどっしりと構える俺に直撃する。


ガリガリとHPが削れ、赤いダメージエフェクトが体中から溢れる。


直径30cm程度のバックラーで完全に防げるとは思ってないから最初から覚悟はしていたけど……さすがに痛い。


が、大技を放った後は必ず隙が生まれる。



「ミツキ!」


「うん! 【マナ・バースト】!」



ここで遠距離攻撃を解禁する。

先ほどまでは『岩投げ』が来るから使わなかったが、発狂モードによって行動が変化したトロールは『アースクエイク』が使える代わりに『岩投げ』を使わなくなるのだ。


俺の後ろでミツキが剣を振り下ろし、その剣から放たれた魔力撃がトロールに襲いかかる。

【マナ・バースト】はMPを消費して相応の魔法攻撃を与えるスキルだ。


もちろんこの攻撃にも風属性が付与されており、直撃したトロールは少なくないダメージエフェクトを散らす。



「やることは一緒だ。俺が前に出るから後ろついて来い!」


「了解!」



振り下ろした棍棒を再び振り上げている隙に、俺は間合いを詰めてヘイトを受け持つ。

そして、振り下ろされる棍棒を目視で確認する。



「それじゃ最初の二の舞だぜ?」



一瞬だけバックステップを入れた俺の目の前を棍棒が通過し、地面に激突して砂埃を巻き上げる。バックステップも一瞬のみ、さらに肉薄し———



「ガァァァッ!」


「読めてんだよ! 【パリィ】!」



振り下ろした状態の棍棒で地面を払うように攻撃を繰り出すトロールに対し、俺は上から被せるようにバックラーをぶつける。


【パリィ】は、盾や武器などで相手の攻撃を受け流すスキルだ。

キンッ———を澄んだ音を響かせ、トラップされたサッカーボールのように俺の身体が回転しながら宙を舞う。



「センコウ!」


「問題ない!」



空中で足を蹴りだし、左手を振りながら回転を制御する。

右手には装備を解除した・・・・・・・アイアンバックラー、視線はトロールの顔面。


身体が地面と平行になるほどまで倒し、遠心力を利用して投擲する・・・・その動きは、ハンドボールの『ムササビシュート・・・・・・・・』だ———!



「飛びながら投げるのは得意なんでね!」


「ゴアァァァッ!?」



こちとらハンドボールの元日本代表だぞ。

どんなに体勢崩されても、トロールの顔ゴールの枠を外すわけないだろう!


見惚れるほど綺麗な回転で俺の手から放たれたアイアンバックラーは、吸い込まれるようにトロールの顔面へとめり込む。クリティカル判定と共に、赤いダメージエフェクトが弾けた。



「ミツキ、追撃!」


「あっ、そうだった……!」



俺が着地しながら声を上げると、ミツキはハッと我に返った様子でトロールの足を斬りつける。反応が遅かったようだけど、何かあったのだろうか。


まぁいいや。

バトルも大詰め、このまま攻め切る……!



ミツキを視界に入れつつ、急いでバックラーを拾い上げる。

振り下ろしを普通に避け、そのまま薙ぎ払いが来る前に腕にバックラーをぶつけて少しだけ遅らせ、ミツキが離れる時間を捻出する。


俺はと言うと、トロールの股下を抜けて薙ぎ払いをやり過ごし、ついでに膝に【パワーガード】をぶつけてダウン値を溜めておく。



俺が視界から消えたことと、DPSの差によってミツキにヘイトが向き、トロールは間合いを詰めようと足を踏み出す———



「【錬成】!」


「ガッ?」



ガクンッとトロールの膝が折れ、バランスを崩す。

トロールが足を踏み出す先の地面に俺が【錬成】で穴をあけ、上手くバランスを崩してくれたようだ。



「えいっ!」


「グオォォォッ!」


「ナイス! 今のタイミング完璧!」


「でしょ? 私も分かってきたもんね!」



トロールがバランスを崩した直後、ミツキの【ワイドスラッシュ】がトロールに直撃した。

だんだんミツキも慣れてきたのだろう、隙を狙うスキルのタイミングがかなり良くなってきてるようだ。


意外と本当に才能あるかもな?



「っ! センコウ!」



不意にミツキが声を上げる。

言いたいことは分かる。

棍棒を両手で握り、振り上げるトロールのモーションは『アースクエイク』だ。

範囲攻撃をもう一度放とうというのだろう。


俺とミツキの位置は現在離れており、一発目と同じように俺がミツキの壁となることができない。そういった心配からミツキは声を上げたのだろう。


だが……



「ミツキ、【パワーレイド】!」


「えっ……」


「信じろ!」


「う、うん……【パワーレイド】!」


俺の言葉に一瞬戸惑ったミツキであったが、そこは信頼関係の賜物。

すぐに剣を握り直して放ったミツキの【パワーレイド】は、トロールが『アースクエイク』を発動するよりも早く届く!



「っと、【パリィ】!」



ミツキの【パワーレイド】が俺の盾に当たり、軌道を僅かに逸らす。

【パリィ】によって調整・・された【パワーレイド】はトロールの眉間に吸い込まれ———


クリティカル発生。

それによってダウン値が溜まり、その場に崩れ落ちたトロールの姿を見れば、『アースクエイク』がキャンセルされたことが分かるだろう。



「これを狙ってたのね」


「そういうこと」



今回のダウンはたっぷり十秒ある。

後は攻め続ければ……これでチェックメイトだ!



        ♢♢♢♢



『ボスモンスター: グリーン・トロール が討伐されました!』


『【ヘリオール】への道が開かれた!』



ボス討伐を知らせるアナウンスが俺とミツキへと流れ、同時に新しい街へ行けるようになったことを知らせてくれる。


結局2度目のダウンをしたトロールは、俺とミツキの攻撃を無防備に受け、そのままあっけなくHPが0となったのだった。



「お疲れ、ミツキ。最後の方はちゃんと動けてて、初心者とは思えなかったぞ?」


「お疲れ様! なんて言うか……センコウが守ってくれるって分かったから、私も思いきってやってみたんだよ! 上手くいって良かった♪」


「その調子なら、割りと早く一人でも戦えるようにはなるかもなぁ」



実際、VRとはいえこれだけリアルなモンスター相手に臆することなく動けるだけでも十分だ。


「っし! じゃあ次の街に行ってとりあえずリスポーン地点を更新しておいて……この辺りで終わっとくか?」


「そうだねぇ……確かにちょっと疲れたから、昨日よりは早いけどここまでにしとこう?」


「オッケー」


「それじゃあ行こっか!」


「あっ、ちょっ……」



満面の笑顔を浮かべて、俺の手を引っ張るミツキ。AGIが低い俺は、ミツキに引っ張られるままに、新たなる街へと向かうのであった。



─────────────────────あとがき


思ったより長くなってしまった……

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