ボス戦 前半
スライムやゴブリンといった雑魚モンスターを倒しながら、【デュートの森】の奥へと進む俺とミツキ。
【デュートの森】の最深部に潜むボスは『グリーン・トロール』。
身長3mは超えていそうな巨体で、腕も足も、腹も太いモンスターである。その巨体通りのパワーを持っており、タンクビルドの俺はともかく、ミツキがクリーンヒットをもらったら、一発で瀕死だろう。
その代わり動きは緩慢で、初心者のミツキでも注意すれば有利に戦うことはできるはずだ。
ただ『グリーン・トロール』は植物系モンスターの特徴も兼ね備えており、時間を掛け過ぎると時間経過とともにHPが徐々に回復する特性を持っている。
また、属性は『土属性』と『水属性』の混成となっており、植物系だからと『火属性』で挑むと、水属性によって軽減され思ったよりダメージが出ない状況に陥る。だからこそ、『風属性』の武器やスキルで攻めるのが定石だ。
「で、相手の動きとしては棍棒の振り下ろし、横薙ぎ……あとは離れた場所にずっといると岩を投げつけてくる、って感じかな」
「うんうん」
「動きはそんなに速くないからミツキでも避けられるはず……一応俺がサポートするけどね」
「オッケー!」
「作戦としては……あんまりないな。とにかく間合いを詰めなきゃどうしようもない。タイミングは俺が指示するけど……離れすぎると守れないから、あんまり俺から離れるなよ?」
「あっ……うんっ」
「よしっ、じゃあ戦闘開始だ!」
『ボスモンスター: グリーン・トロール が出現!』
『ボスバトルが開始されます』
「オォォォォォッ!」
森の中に広がった円形に開けた場所に足を踏み入れると、そうアナウンスが流れる。
その中央にいた『グリーン・トロール』が俺とミツキへと視線を向け、咆哮を上げたところで戦闘が開始した。
「ミツキ、作戦通りに!」
「オッケー! 【アトリビュート・コンバート】! 【武具解放】!」
戦闘開始直後に俺がトロールに向けてダッシュし、ヘイトを一手に引き付ける。
その後ろではミツキがバフを盛り、【アトリビュート・コンバート】によって風属性が付与された『空の器』が緑色の輝きを放っていた。
「グオォォッ!」
「ここだろ」
声を上げながら棍棒を振り上げるトロールを見て、俺はスピードを調整。
直後に放たれる振り下ろしが、俺の目の前を通過し、地面に突き刺さった。
ズンッ———と鈍い音を立てて地面を陥没させたのを見ると、相当な威力があったのだろう。しかし、俺にとってはもう慣れたものだ。
間合いも完璧に把握している俺は、スキルを使わずとも避けることができる。
「お待たせ!」
「ナイス、そのまま接近!」
遅れてきたミツキが俺のすぐ側まで到着するのを確認し、俺は振り下ろしたトロールの腕を上から押さえつける。こうすることで次の行動を少しだけ遅らせ、ミツキが間合いを詰める時間を稼ぐのだ。
「一撃ずつ確実に入れていけばいいからな、焦るなよ?」
「大丈夫! 【パワーレイド】!」
「グオォッ!」
棍棒を振り下ろして隙だらけのトロールの脇腹に、ミツキのスキルが突き刺さる。
疾風を纏う刺突は真っすぐにトロールに吸い込まれ、少なくないダメージエフェクトを散らした。
クリティカルを取れていないのはまだまだ甘いけど、まぁ及第点だろう。
「おー、結構ダメージ出るね!」
「風属性強化
「ふわっ!?」
体勢を立て直したトロールが横薙ぎのモーションを見せたのをいち早く察知した俺は、ミツキの頭を押さえて下げさせる。
と同時に【パワーガード】を発動!
流石に正面からぶつかったら、体重が軽い俺が当たり負けするだろう。
だからこそ、下から突き上げるように斜めに当てる!
横薙ぎに振るわれたトロールの棍棒は、俺の【パワーガード】とぶつかってその軌道を変える。ものすごい風圧が、俺とミツキの頭の上を通り抜ける。俺とミツキはその下をくぐり、ノーダメージでやり過ごしたのだ。
「ちょっとぉ! ビックリするじゃん!」
「悪い悪い。言う暇がないと思って、ね!」
ミツキが声を荒げるが、その表情を見る限り本気で怒ってはないようだ。
断りもなしに頭を触るのは俺もどうかとは思うけど……反応が遅れて棍棒が直撃なんてことになったら目も当てられない。
後でしっかりと謝っておこう。
横薙ぎをやり過ごした俺は即座にその棍棒めがけてダッシュ、棍棒を握る手にアイアン・バックラーをぶつけ、再び振りかぶるのを遅らせる。
「あっ、隙を突かなきゃだった」
俺が次の行動に映ったのを見て、ミツキも喧嘩している場合じゃないと気付いたのだろう。
【パワーレイド】がクールタイム中のミツキは、踏み込んで剣を振るう。
狙いはトロールの膝だ。
モンスターの膝や脚に攻撃を集めることによって『ダウン値』が溜まり、それが一定以上になると『ダウン状態』となる。ダウン状態とは一定時間動けない状態であり、せいぜい5~10秒程度だけど一方的に攻撃できる時間が作れるのだ。
「そのまま攻め続けろ!」
「了解!」
「オォォォォッ!」
ミツキが振るう剣が幾閃もの軌跡を描き、それら全てがトロールの膝部へと吸い込まれていく。緑の輝きに赤いダメージエフェクトが混ざり、少しグロいけど美しい光景だ。
ダメージ量の差によって、ミツキへとヘイトが移る。
攻撃を受けつつも棍棒を振り上げたトロールは、ミツキへと棍棒を振り下ろし———
「【カバー】!」
その棍棒とミツキとの間に滑り込んだ俺が、棍棒を受け止める。
【カバー】は他のプレイヤーへの攻撃を代わりに受けるスキルで、その時に受けるダメージを軽減する効果を持つ。そのため、これだけの体格差があっても、俺が受けたダメージはほんの僅かなものだ。
「あっ、ありがとう!」
「俺が守るって言ったからな」
「っ~~、もうっ! 【ワイドスラッシュ】!」
なにやら若干顔を赤らめているミツキが、何かを振り払うように【ワイドスラッシュⅠ】を放つ。
……なんだか今日一で鋭い剣筋だったけど、何かあったのか?
「グオォォ———」
「いやでもナイス」
今のクリティカルを受けたトロールは、うなり声を上げながら膝をついた。ダウンのモーションだ。今のミツキの一撃で『ダウン値』が溜まったのだろう。
ここから数秒間の隙、一気に攻め込む!
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