で、でけぇ……

ふと意識を取り戻す。


ここは『Supremacyスプレマシー Worldワールド Onlineオンライン』の中であり、ゲームを始めたプレイヤーが最初に目を覚ます街【ハイドリナ】。


この時間帯は最もゲーム人口が多くなるタイミングだし、【ハイドリナ】もかなり賑わっているようだ。



とりあえず待ち合わせ場所の、街の中央にある噴水の場所まで来たけど……まだ燈瑠あかるは来てないか。まぁ俺も初めての時はアバター作成にかなり時間をかけたし、仕方ないか。


とりあえず、ステータスを確認……と言っても、各パラメータを一つ一つ見るのは面倒くさい。『ドワーフ』はVIT生命力DEX器用が上がりやすいと覚えておけば良い。


一応説明しておくなら、『パラメータの上がり易さ・上がりにくさ』は初期設定の段階で多少弄ることができる。俺はAGI素早さを捨てて、DEXをさらに上がり易くしておいた。


——————————————————

Name:センコウ

Species:ドワーフ

Job:鍛冶師

Skill:【パワーガード】

   【カバー】

   【付与術】

   【初級錬成】

   【初級鍛冶】


【パワーガード】

盾で相手の攻撃を強く弾く。


【カバー】

他のプレイヤーが狙われた攻撃を代わりに受ける。その際のダメージを軽減。


【付与術】

自分で作成した装備などに、特殊な効果を付与する。


【初級錬成】

任意の素材を消費し、簡単な錬成を行う。


【初級鍛冶】

任意の素材を消費し、簡単な鍛冶を行う。


Manny:10,000G

——————————————————



このゲームを開始した際、選んだ種族特有のスキルを一つ、選んだ職業ジョブ特有のスキルを二つ、自分で選択するスキルを二つの、合計五つのスキルを習得することができる。


俺の場合は、【パワーガード】が種族スキル、【初級錬金】と【初級鍛冶】が職業ジョブスキル、【カバー】と【付与術】が選択スキルだ。


もちろん、ゲームを続けていけばもっと多くのスキルを習得することもできるし、習得済みスキルもどんどん強くなっていく。だから初期の段階で強いとか弱いとか判断はできず、『とにかくゲームを進めてみろ』ってところだ。



しかし……さすがはSWOだ。

サービス開始から3年経った今も、プレイ人口は減らないどころか、【ハイドリナ】を見る限り今も増えているようだ。


辺りを見渡せば、獣人にエルフ、吸血鬼……珍しい所では鱗人種リザードマンも居る。

流石にみんなアバターだから、見た目は美男美女ばかりだ。



そんな風に道行くプレイヤーを眺めていると、人ごみの中からこちらに向かって走ってくるプレイヤーが一人。間違いない、燈瑠あかるだ。



「おう、やっと来た———」


千紘ちひろぉっ!!」


「ングッふっ!?」



走ってきた勢いをそのままに、思いっきり飛びつかれた俺は、僅かにダメージエフェクトを散らしながらなんとか燈瑠あかるを受け止めた。



「おまっ、ダメージ受けたんだが!? どんな勢いで抱き着いて———」


本当ホント千紘ちひろが立ってるよぉ……ゲームって分かってるけど、私感動しちゃって……この感じ、久しぶりだぁ」



俺の胸元にグリグリと顔を押し付けながら、震えた声でそう漏らす燈瑠あかるの姿に、俺は思わず口を閉ざす。ふんわりといい匂いが鼻腔を擽り、柔らかさと温かさが俺の身体を包む。


で、でけぇ……ここまでリアルに再現する必要あったんですかね、運営さん。

でもナイス。



そのまま十秒ほど、お互いに何も喋らない時間が流れ———周囲から聞こえた舌打ちや、にやにやと生暖かい視線に、ハッと意識を取り戻す。



「周りで他のプレイヤーが見てるから離れようぜ? それと、ゲーム内ではPNで呼ぶのがマナーだ。えっと……ミツキ?」


「あっ、ご、ごめんねっ」


「とりあえず移動しようか」



周りから見られてることに気付いたのか、バッと離れる『ミツキ』。

バクバクと早鐘を撃つ心臓を落ち着かせつつ、ミツキの手を引いてその場所を後にする。

ひとまず【ハイドリナ】から出て、すぐ目の前の【始まりの草原】で話の続きだ。



「えっと千紘ちひろのPNは……センコウ? あー、センコウ、ね」


「そういうこと、分かりやすいだろ? そっちはなんでミツキ?」


「えっと、私の名前を決めるときに、燈瑠あかる光月ミツキかで悩んで燈瑠あかるにしたんだって。だから、選ばれなかった光月ミツキは、ゲームを始めたときに使おうって決めてたんだ!」


「そっか。燈瑠あかるもそうだけど、ミツキもいい名前だな」


「えへへ、そうでしょ?」



照れくさそうにはにかむミツキに、俺も笑顔を浮かべる。

夜桜よざくら 光月みつき』か……なんか日本の風流を詰め込んだみたいな名前だな……。



「よし、じゃあ先に色々と確認しておこう! ミツキは『エルフ』だよな? 職業ジョブは?」


「聞いて! 私、魔法を使いたい思ってたんだけど、剣も捨てがたくて! やっぱりゲームやるんだったら敵をバンバン倒すの憧れるよね。どっちにしようかって悩んでたらね! 『魔法剣士』なんて職業見つけちゃったんだ! すごくない!?」


「ビンゴぉ!」


「え、何?」


「いやごめんこっちの話。ステータスも確認していいか?」


「うん、どーぞ!」


——————————————————

Name:ミツキ

Species:エルフ

Job:魔法剣士

Skill:【アトリビュート・コンバート】

   【ヒール】

   【パワーレイド】

   【武具解放Ⅰ】

   【ワイドスラッシュⅠ】


【アトリビュート・コンバート】

四代元素(火・水・土・風)の中から一つを選択し、武器に付与する。


【ヒール】

対象のHPを少し回復する。


【パワーレイド】

STRを少し上昇し、敵に強い刺突を放つ


【武具解放Ⅰ】

INTの30%をSTRに加算し、装備している武器によって攻撃に様々な追加効果を付与する。


【ワイドスラッシュⅠ】

攻撃を溜め、横薙ぎに範囲攻撃の斬撃を放つ。


Manny:10,000G

——————————————————



【ヒール】以外はバフか攻撃スキル……そしてパラメータの上昇値振りはSTRとINTの上昇率アップか……。



「なんというか、脳筋エルフだな」


「馬鹿にしてる?」


「褒めてんだよ。ちなみに俺は『ドワーフ』で、今回は『鍛冶師』にしてある」


「鍛冶師? 戦う職業じゃないよね?」


「そう。俺はミツキのサポートをするつもりだったし、装備とか作れたら便利だろ?」


「確かに……センコウって色々考えてるのね」


「このゲームに関しちゃ3年先輩だからな」


「じゃあ先輩! 最初は何をするんですか?」


「まずは、『武器ガチャ』だ」


「『武器ガチャ』?」



このゲームを初めてプレイした際に、一人につき一枚だけ『武器解放チケット』が配付される。このチケットを消費することで、選択した武器種の中からランダムに一つ獲得できるのだ。


バランスを考えて、このチケットでしか入手できない武器や、レア度が高い武器は排出されない。せいぜい、プレイを開始した序盤で活躍するか、といった程度だ。



そんな説明をしつつ、俺も『武器解放チケット』を使用する。

眩い光に包まれながら現れたのは———



「『アイアン・バックラー』か……ちょっと小さいが、まぁ悪くないか」



早速装備しつつ、性能を確認する。

直径30cm程度のバックラーは、攻撃を受け止められる面積は小さいが片手に装着でき、比較的軽いため機動性も損なわない。


まぁ、AGI捨ててるからあんまり意味ないけどな。



「センコウ、武器のコストってどれぐらいなら強いの?」



俺が『アイアン・バックラー』を確認していると、ミツキからそんな声が聞こえてきた?



「んー、80から100あれば序盤は問題ないって感じか?」



このゲームは、武器やアイテムなどに『コスト』が設定されている。

コストはその武器の『潜在能力』と言っても過言ではなく、攻撃力、性能、特殊効果、見た目に至るまで、全てコストに比例して強くなっていくのだ。


当然コストが高いほど、鍛冶や錬成で扱う際の難易度は高くなる。



ちなみに最弱モンスターの角ウサギやスライムから採れる素材は、コスト1~3ぐらい。

最初のエリアボスで20程度、今のところ発見されている最高値で3500ぐらいだ。



「『武器解放チケット』で出るのは最高でもコスト500までだし、それも滅多に出ないから一喜一憂してもしょうがないんだけどね」


「あ、じゃあこれって最高値の武器引いたんだ」


「えっ」

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