第11話.熱を帯びた記憶

「機関課飯島さん、航行課穴峰さん、至急三番会議室へ」

葵はMP3プレイヤーで音楽を聴きながら5階研究区画を歩いていた。

研究区画は誰も居ないかのような静けさ。

スピーカーから流れる、チャチナBGMが響き、何か変な場所だ。

廊下の左右にある扉の向こうに居る人たちは白衣を着こんで何か実験器具とにらめっこしている。

葵の聴いていた曲がトラック25になった頃、研究区画の奥の奥にある扉の前に来る。

第152個人研究室。

葵は扉のノブに手をかけ、ドアを開ける。

目の前に居たのは志桜里だった。

志桜里は白衣を着て、机の前にある椅子に腰を掛けていた。

机には今入れましたと言わんばかりに湯気が出ているマグカップ。

志桜里は煙草を吹かせながら、体を机の上のにノートPCに向けたまま顔を軽くこちらに向け、葵を見る。

白衣の前の部分の隙間から、白色のあまり目立たないブラが顔を覗かせる。

色白の肌になじんでいて一瞬気づかない。

「やぁ、葵さん」

志桜里は銜えていた煙草を手に取り、灰皿に火を消さないように置く。

「こんにちは」

葵は煙草の匂いに少々むせながら言う。

志桜里は手を伸ばし、壁に付いている小型の換気扇を回し、葵の方にしっかり向く。

白衣から白い太ももが見える。

「どうして、下着なんですか?」

そう葵が言うと、志桜里は静かに、少し小ばかにした声で

「逆に、いつも下着姿だと思いましたか?」

そういった

葵は顔をしかめ

「まさか」

そう言う

「そのまさかです、いつもは裸に白衣ですよ?」

そう当たり前の事を子供に教えるみたいに言った。

「何でですか?」

そう葵があきれて言う。


「涼しいしトイレラクだから」

「なんですか、その変な理由。人が来たらどうするのさ」

「こんな奥の奥の個人研究室、誰もこないさ」

「そんなもんですか?」

そう葵が言う。

「それで、本題だが」

そう志桜里が言う。

葵がここに来た理由は志桜里に頼みたいことがあると言われたためだ。

「それで、頼みってなに?」

そう葵は言う。

「担当直入に言おう。」

そう志桜里さんはさっきまでと違い、真剣なしっかり目を見て言った。

そのさっきまでとのギャップに葵は息を飲む。

「ここ、そうだな、少なくともこの軍事拠点”学校”がある範囲を囲えるギアを作ってほしい。」

「はい!」

葵は驚いた。

この人はギアの製作がどれだけ大変で、頭の使う作業化を理解しているのか?そう葵は思った。

「もちろん、私には見当のつかないほど大変で技量がいる作業だとは重々承知だ」

そう志桜里は言うと、座っていた言うから立ち上がり、膝を床に着く。

「本当に、お願いだ」

そう言い志桜里は頭を深々と床にあてる。土下座だ。

「もちろん、作成にかかる費用、手間賃は惜しまない」

葵はこれまで、人にここまでされたことはない。

少し考えたあと、葵はめんどくさそうな顔で、少し声のテンションが低い状態で

「しかたない、やりますよ」

そう言った。

「ありがとう、助かるよ!」

そう志桜里は顔を上げ、少し涙を流しながら、言う。

ここまでするか。

志桜里はそれを言い終わると、立ち上がり、机の棚の中に入っていた、マル秘と記載のある、計画書?をだし葵に渡す。

葵はそれに目を通すと。

「これって」

そう呟いた。


葵はQCの置いてある部屋の片隅に白衣をかけている。

葵はここに住む家賃はタダだし光熱費も国持、さらに給料も発生している。

代わりにギアやこの世界について分かったことがあると報告しないといけない。

その時の正装として白衣を着なくてはならないためかけている。

そんな白衣もこの部屋の尋常じゃない寒さに縮こまって固まっている。

相変わらず液体窒素は漏れ出していて、そこから白い霧がモクモクと出ている。

葵は厚着をして電気ストーブの前で暖まりながら作業をしている。

そうでもしないと寒さで死んでしまう。

葵がPCと格闘していると館内放送が鳴る。

「緊急、緊急、汚染区域出現予想発令、第三次警戒態勢、持ち場に着け」

第三次警戒態勢、コンピューターのシュミレーション上で汚染区域が出現する可能性があると発令される。

この場合葵やイロ、桜は4階待機室に行く必要がある。

「はぁ、めんどうだなぁ~」

そう葵はため息をつき、MP3プレイヤーとスマホ、まだアップグレード中のプランカルキュールを持ち、壁に掛けてある白衣を着て、部屋を出る。

待機室には桜とイロが先に居て、部屋にあるソファーに対面で座っていた。

「君、おそいですよ」

そうイロが言う。

「まぁ、部屋遠いからね~」

そう桜はニコニコ笑顔で言う。

桜は足をバタつかせあんまり緊張感がない。

「ごめんって、」

そう葵は言い、イロの横に腰を掛け、改造途中のプランカルキュールを左腕にはめる。

見た目としては金色の細い針金が腕を一周くるっと囲っていて、そこのてっぺんに真珠のような色をしたパーツが三つ肩を並べてついている。

特に真ん中のパーツが一回りでかい。

「あ、それが言ってた新しいやつ?」

そう桜が言う。

「そうだよ、まぁまだ作りかけで見た目が変わっただけ、って感じだけどね」

そう葵は言うとギアのスイッチを入れる



「おね~ちゃん」



葵の耳元でどこか懐かしい声がする。

葵はいきなりのことに体が固まる、

「葵?」

そう桜が心配して言うが聞こえていない。

葵の脳に何か断片的で、夢みたいなでもやけにリアルなイメージが浮かぶ。

悲しみや憎悪、屈辱そういう負の感情が葵の脳にどんどんあふれてくる。

体は震え、変な汗が毛穴という毛穴から出てくる。

イロはその葵を見て何かに気づき、急いで葵の付けていたギアの電源を切り、葵を抱きしめ、

「私がいます」

そう葵の耳元で優しく何か母を感じる声色でささやく。

葵は涙を流しながら、体の力が抜けうなだれる。

「ちょ、イロどういうこと?」

そう状況が飲めない桜が言う。

イロは口の前に人差し指を持ってきて

「シー」

といった。

少しして、救護班が来て葵を医務室へ運ぶ。

志桜里と小夏も来ていた。

「何があったかは分からない、葵なしでも行けるのか?」

そう小夏は冷たく言う。

「いけると思います」

そうイロ、桜は言う。

志桜里さんが心配の感情が顔に出ている桜に向かって、

「安心してください、私が見てますから」

そう優しく言った。


「汚染区域発生、第一種警戒態勢、戦闘要員は直ちに出動してください」

そう放送が流れる。

「私は指令室に行く、君らは第四ヘリ格納庫でヘリに乗って汚染区域まで行くように」

そう小夏が冷静にいう

桜は状況がいまいち呑み込めないままイロの背中を見ながら格納庫へ足を進める。

ヘリ格納庫にはミサイルポットや機関銃が着いたヘリがあった。

ヘリのエンジンがすでについているようでとても耳障りな音をは発している。

ヘリなどの手入れをしているエンジニアの人に桜、イロはヘットセットを渡される。

そのヘットセットをつけ、桜達はヘリに乗り込んだ。

ヘリは汚染区域に一直線で進む。

「つくばの電子科学研究所よりスーパーコンピューター、雷神の使用許可下りました」

そうオペレーターの人が言う。

指令室の指揮官専用の席にもたれ掛かる小夏はそれを聞くと、

「直通回線でつなげ」

そう命令した。

これまでと違い桜のギアのホストPCは無い。

そのため国の研究機関が使用しているスパコンをホストとする。

「現在汚染区域とギア使用者を乗せた25式戦闘ヘリとの直線距離900メートル」

そうオペレーターが言う。

ヘリにのった桜、イロはギアの準備をする。

「葵、」

そう呟く桜をイロは、

「死なないように集中を」

そう静かに言った。

その冷たさに少し桜はむかついたが、逆にそれがスパイスとなり落ち着けた。

汚染区域特有の腐った色をした台地が見えてくる。

今回街中では無いので結構派手に戦える。

イロは上空のヘリから飛び降りる

桜はそれを見て、少し唖然としたが、ヘリ運転手の早よ降りろ、という目さんがきつく、渋々パラシュートなしで飛び降りた。

「ギァ~~~~」

桜の叫び声が、雲のない綺麗な青空に響く。

それを無視してイロは懐から鉄パイプのように見える大斧になる、機械を取り出し、スイッチを付ける。

一瞬イロは白い光に包まれ、晴れると戦闘用のメイド服を着こみ大きな斧を持ったヤル気満々のイロの姿があった。

桜は急いでギア横のダイアルを回し、出てきたメニュー画面から起動を選択した。

桜も白い光に包まれ、晴れると日本の甲冑をスタイリッシュにしてサイバーパンク要素を混ぜ込んだいつものギア着用時のすがただ。

桜、イロは各自のギアに付いているスラスターを点火して着地した。

「ふぅ」

そうイロが息を吐き、少し乱れた髪を整える中桜は。

「こわかったぁぁ」

そう言っていた。

ちびったのは秘密である。

汚染区域は広く、でもまだバグは汚染区域から出てきていない。

「こいつらを倒せばよいですね」

そうイロが言うと

「そうだけど、量が多いいぞ」

「約152体です」

そう指令室に居る小夏とオペレーターの人の声が無線越しに聞こえた。

桜は鞘から刀を抜き、バグに切りかかる。

今回のバグは生まれたてな上、あまり元が強くないのか豆腐のように簡単に切れ、ヒーターの前に置いたアイスみたいに溶けてゆく。

「今回は楽ですね」

そうイロが言う。

「だね」

そう桜も答える。

イロは斧をその場に置き、太もものホルスターからナイフを取り出す。

ナイフをバグに向かって投げていく。

イロの投球はとても綺麗で、神絵師のイラストのようだった。

桜は鼻歌を歌いながら1,2,3と次々にバグを倒してゆく。

半分のバグを倒したころで、バグが中心へ向かっている。

バグたちは中心で混ざり合う。

気持ちの悪い構図に少々吐き気をも様子。

「バグの内部熱量上昇!」

そうオペレーターは大きな声で言う。

「これは、まさか、イロ!桜!逃げろ!!」

そう小夏は叫ぶ。

だが逃げる暇もなく。

バグは大きく膨張し破裂。

大きな爆音とともに高熱を発するバグの破片が四方に飛び散る。

桜達は腕を顔の前でクロスしてガードしていた。

「いた」

そうイロがつぶやく

そのイロの腕は着ていた服を貫通し腕が赤くただれている。

「イロ!」

そう桜は叫びイロに近づく。

「すいませんコレでは武器が持ち上げられません」

そうイロは言う。

腕は痛々しく骨が少し見えている。

「あの人はこんな内臓までしっかり再現してるんですね」

そうイロは言う。あの人とは葵の事だろう

「葵は妙にこだわるからな」

そう桜が言う。

桜がイロを遠くの木の陰まで運び寝かせる。

「後で必ず来るから」

「私はコードです簡単に治るのでご安心を」

そうイロは力がない声で言った。

「負傷者一名」

そうオペレーターが叫ぶ。

小夏は

「桜!一旦引けお前のアーマーも少々まずい、持ってあと一回だ」

そう無線で桜に伝える。

小さくてこまごましていた貧弱そうなバグは大きくて如何にも強そうな一個体へ進化していた

熱い体液でも流れているのは所々赤くなっている。

「わかりました」

そう桜は呟くと、手を上から下に振り下げる

そうすると目の前にメニューが表示される。

そのメニューには中破と書かれてた。

よく体を見ると所々アーマーが欠けていて肌が露出している。

メニュー右下の赤いボタンを押し、メニューを閉じる。

「雷神処理性能上昇!温度がどんどん上がっています」

そうオペレーターが言う。

巨大液晶に110°と表示されている。

「おい、桜何をする気だ、下がれといっただろ」

そう小夏が荒々しい口調で叫ぶ。

「オーバークロック」

そう桜がつぶやくと、アーマーの背中部分の排熱管から蒸気が出ている。

「熱出ますけど私は介護できそうにないですから」

そうイロが言う。

「わかってる」

そう桜が言うと、思いっきり床を蹴り上げ、高く飛び跳ねる。

バグに一直線に飛び掛かった。

するとまたバグは大きく膨れる。

「バグ内部が再度温度上昇しています」

それを聞いた小夏が

「下がれ、命令だ!!!!」

そう叫ぶ。

バン

轟音と共にバグがはじける、バグの破片は桜の体に飛んでくる、

肉の焼ける音が桜の体の色んな部位から聞こえる、

でも桜は逆に背中のスラスターを点火。

生き良いを付けてバグを切る。

バグに大きな切り傷が付き破裂。

バグは消滅した。

「バグ消滅!!」

そうオペレーターが言う。

桜はギアをとき、

元に戻る、体のあちこちが焼けている。

桜はその場に倒れこんだ。

「急いで救護班を!」

小夏が叫ぶ。


桜が目を開けるとそこは白を基調とした部屋。

10階医療区。

そこのベットの上だ。

個室の一角そこにあるソファーの上に染鞠が寝ている。

スマホの電源をつけ時間を見る

三日後の朝の8時。

体を見ると腕や足に包帯が巻かれ、点滴で何かの薬を入れられていた。

「ん~」

染鞠が声を出し目を覚ます。

「桜!」

そう言うと桜に飛び掛かり抱き着く。

「もう危ないことして、心配したのよ!」

そう染鞠が涙を浮かべ言う。

「ごめん、ねーさん」

~~~続く~~~




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