第10話.とある研究所の日常
量子コンピューターのある肌寒い31階肉体電子接続器研究部。
と言っても葵の自室なわけだが。
相変わらずコイル鳴きはうるさく、電気メーターは吹っ切れていて、少し傷の入ったパイプから漏れ出る液体窒素が水たまりとなっている。
PC98の横に置いた熱々のコーヒーカップ、その中に入っている砂糖たっぷりのコーヒーもキンキンに冷え、少し凍っている。
その凍ったコーヒーを口にする。
古代の遺産であるブラウン管モニターにはギアのプログラム。
葵がキーボードを叩いていると、どこからか独特な歌詞をした曲が聞こえてくる。
男性が歌っているようで、声は美声。
「もしもし?」
葵のスマホだった。
「ちょっと、貴方に見せたいものがありまして、よいかな?」
そう電話先で志桜里が言う。
「いいけど?見せたいものって?」
「とにかく、3階の管制区画来てくれるかな。」
「わかった」
「あと、呼吸何分止められる?」
「なんで?」
葵はエレベーターに乗っている。
エレベーターについている液晶には21階の広場にある液晶に表示されている情報を簡易的に表示している。
葵はそれを見ながらボート待っている。
如何せん地下31階もある施設、さらにはそれぞれの階の大きさもバラバラ、正直言って長い。
葵はエレベーターに流れている曲に耳を傾ける。
ネットに上がってそうなチャチナBGMがループ再生されており、イライラする。
もう時間も忘れかけたころ、ピーンポーン
目的の地下3階管理区画に着く。
地下3階となっているが残りの2,1は厚い壁と水が入っているだけの空間らしく人は入れない。
ここの水はこの施設全体に飲み水として提供されるらしい。
エレベーターのドアが開く。
「ウグ」
後頭部を鈍器で殴られるような強烈なにおいが鼻を通る。
気持ちが悪い。
「こんにちは」
そう志桜里が葵に向かって言う。
「こんにちはじゃないですよ、何ですかこの匂い」
鼻をつまみ、曲げた腕を顔の前に持ってきている葵が言う。
「ここで働いてる人たちは風呂に入らないでエナドリキメて働く人と、冷静が重要ていってぐっすり寝る人の0か1の人間しかいないからね」
「理由になってないですよ」
葵はエレベーターの扉から顔を覗かせ周りを見る。
体育館二つ分くらいの広さの場所。
大きなモニターが壁にたくさんある。
部屋は青色のライトで薄暗く照らされている。
PCが沢山あり、ここにいる人たちはモニターとにらめっこ。
部屋の隅には机があり、その横に冷蔵庫。
机の上には甘いものが沢山。
そしてチョコは一日3個まで、と書かれた紙が貼られている。
冷蔵庫はいかにもな旧式。
そんなおんぼろにエナドリは2日1本そう書かれた紙を張り出している。
葵はこの場所の正体を何か理解した。
管制室、指令室だ。
「ここはこの電子災害対策課の戦術指令室。鍛え上げられた
そう志桜里は葵に言う。
葵は一度エレベーターのまだ空気がきれいな端っこの方で深呼吸し志桜里に言う。
「これのためだけに頭痛が残りそうなここへ私をつれてきたの?」
そう葵が言うと、志桜里は笑って話を続ける。
「さすがに違うよ、こっちへ」
そう志桜里は言い、管制室の奥の方へ消えていく。
葵は後ろを追いかける。
頭の痛くなる匂いの中を平然と歩く志桜里さんに恐怖を覚えつつ付いていく。
部屋の中はPCの稼働音、人のしゃべり声、コップや缶の音で結構にぎわっている。
志桜里さんが止まる。
そこには一つのドア。
そのドアを開ける。
そこには一人の女性がいた。
長い髪、凛々しい顔立ち。誰が見ても美人さんだ。
「指揮官、お久しぶりです」
そう志桜里が言う。
「やぁ、君が白機 葵君だね、よろしく」
そう言うと指揮官と呼ばれた女性はこちらに手を差し出した。
女性の服はくすんだ赤を基調とした軍服なのだが、やけにボディーラインを強調するつくりをしている。
正直言ってエッチだ。
葵は別に女性が好きというわけでは無いがその服は何か感じるものがあった。
「よろしくです。」
そう葵が言い差し出された手をつかみ握手をする。
彼女からは、先ほどまでの激臭もあってか、やさしい匂いがする。
「彼女がここで一番偉い指揮官をしている、
そう志桜里がいう。
「よろしく、私と仲の良い者は私をこなちゃんと呼ぶ。君にもそう呼んでほしい」
こなちゃん!かわいいニックネームそう葵は思いつつうなずく。
小夏は葵がうなずいたのを見て少し笑った。
その笑顔はここで一番偉い者の顔とは思えないくらい優しくかわいかった。
葵は31階の部屋へと戻り、QC003でやっている作業の続きを始める。
QC003にPC98経由で接続されたギア。
ギアに新たな機能を付ける。
自己変化:イロのAIを元に自分で考え自己を最適化し続ける機能。
ギアの武器例えばイロの大斧あれも元はただのコード、文字だ。
その文字列を変化させさらなる高みへと押し上げる機能。
それと見た目も変えようと思っている。
これまで葵のギアは桜の見たいにアクセサリーとしては見えなかった。
桜のは黒色のシンプルなチョーカーの横にペットボトルキャップくらいの大きさのダイヤルが付いていて。
そこから金色の細いパイプがチョーカーをくるっと囲っている感じで、まぁ中二病患者がつくったアクセサリーっといた感じでまだ救いがあった。
それに比べ葵のは、黒色の鉄の骨格に大量のコードテープで固定された小さいボタンに、結束バンドで固定されたバッテリー、中身の基盤も丸出しで水にめっぽう弱い。
ダメなところを上げたらきりがない。
今回新機能の追加や、QC003の入手と良い機会なのでいっその事ギアも作り直そうそう考えたのだ。
桜のチョーカー型のギアのお陰で葵のデザイン技術、そして何よりギアの小型化のノウハウを手に入れたので、今回実用的でかわいい腕輪に仕上げようと考えている。
そうと決まれば話は早い。
葵はPC98の横にある棚から外観のスケッチ、回路図、工具箱を取り出す。
次に部屋の反対側にある、葵の身長位あるキャスター付きの棚をPC98を置いている机の横まで持ってくる。
小さな収納がたくさんついたこの棚は葵が昔から使っている部品入れだ。
珍しいコンデンサーから、一センチにも満たない銅線までそろっている。
葵はまず小さなアンテナの付いた基盤を取り出す。
これはギアとホストPCが通信するための基板だ。
葵は鼻歌を歌いながら作っていく。
基盤にコンデンサーを付け、
実験で起動してみたり。
少し飽きて回路図の隅に目を描いてみたりなどしていると、葵は一つ重要なことに気づく。
部品が足りない。
ここのとこ部品を買い足していなかったので部品が足りないらしい。
葵は回路図の隅を黒く塗りつぶしながら悩んだ。
これは葵の考え事をしているときの癖だ。
隅が真っ黒になり、鉛筆の黒鉛のテカリがすごい。
葵はそのテカリを見ていて一つのことを思い出した。
15階商業区に小さな電気部品専門店があることを。
それを思い出した葵はすぐに用意を始める。
全部の引き出しを開け、足りない部品をリストアップする。
すると予想以上に足りない部品がある。
ついでに外観を作るために金属を加工してくれるところを探さないといけないこともわかった。
葵はすべてをスマホのメモにまとめ、部屋を出る。
エレベーターまで走っていき、呼び出しボタンを押す。
葵はネックストラップを首に掛け、持っていた無地のトートバッグからワイヤレスイヤホンを取り出す。
少し青みかかった白色のワイヤレスイヤホンを耳に着け、今となっては化石なMP3プレイヤーを使いお気に入りの曲を再生する。
これは葵が初めて作った電子機器だ。
少し悪い音質のイヤホンから音楽が再生される。
やけに高音が強い。
なれると逆にこれくらいがちょうどよい。
サビに入った位にエレベーターが来る。
葵は15階を押す。
音楽はサビの後のギターソロに入っていた。
葵の好きなアーティスト、丁度今再生されている曲を作り歌っている人はアンチギタリストとして有名だ。
ギター嫌いな癖してめっちゃうまい。
曰く指が痛くなるし、物理配線がうざったらしいとか何とか。
少ししているとエレベーターが止まり目的の商業区へ着く。
この商業区は、生活区にある店と違い、専門的なものが多い。
実験道具だとか、薬品だとか、コンピューターだとか。
正確に言うと商業区は実験に必要なものを取り扱う区画だ。
生活区の方がよっぽど商業区している。
ここ商業区の壁は金属丸出しで、何か空気がよどんでいる。
あんまり人が来ないこともあり、空調がしっかり働いていない。
薬品の刺激臭が少々漂っている。
葵はそんな商業区を歩いている。
よく商業施設とかにある木造ベンチが壁に沿って等間隔にある。
ここのスピーカーからは不釣り合いなPOPSが流れているのが少し面白い。
電信堂、そう書かれた店がある。
店の前はこんな場所とは不釣り合いな和風のデザイン。
全体的にここ商業区は不釣り合いなものが多い。
混沌としていて、葵は自分の書いたコードを思い出す。
あんまり汚いもんだから、おじいさんに怒られたものだ。
最終的に動いてるからヨシというプログラマーの適当精神が働いて葵が勝ったが。
店の扉を開け、中に入る。
中は乱雑に電気部品やジャンクなPC、他にも何に使うのかわからないものまで。
無駄にだだっ広い店内には、テクノポップが小さく流れていて、店の外観とのギャップがすごい。
店の奥の方にある電子パーツコーナーに行く。
「うお!」
あまりの品ぞろえに声が出る。
欠陥で販売中止になった部品。
優秀なのに企業間のいざこざで姿を消したバッテリー。
あと、なぜか携帯電話の付いた電子レンジ。
下にブラウン管テレビ。
葵は思い当たる節があったがそっとしておいた。
「ここの店主ぜってーオタクだ」
葵はそう呟き、必要なパーツを集める。
集めたパーツを持ち、店舗奥のレジへと持っていく。
棚の配置に法則性が無く。めっちゃ迷った。
「はいいらしゃーい」
そう雑誌を読んでいた店主が言い、目を雑誌から葵に向ける。
店主さんは意外にも女性。
ぼさぼさの髪の毛に、クマのしみついた目、整っている顔が台無しだ。
女性は葵を見て目をかっぴらき少しした後目がしらをつまみ瞬きし、言う
「じょーちゃん、ここにどうやって入って来た」
「はい?」
葵はそう言う。
「ここはじょーちゃんみたいな、子供が入っていいばしょじゃねぇ」
「はい?」
葵は強めにそういった。
「大体こんなパーツ買っても使い方分かんねーだろ、見た感じ小学生くれーだし」
葵は無言でレジに名札を叩きつけ、しゃべる。
「私最近ここに入ってきました、白機 葵と言います」
女性は名札を手に取り、少し、目をぱちぱちさせしゃべる。
「え?君があの最近は言った、バグ倒しの天才!」
「そんな風によばれてんの?」
女性は少し笑った後
「すまないすまない、まさかじょーちゃんが、あの白機だとは、思わなくて。」
葵は、ため息を付き
「お会計良いですか?」
そう言った。
女性は慣れた手つきでレジを打ち、値段を出す。
「2万一千七百円」
そう言われた。
「高いですね、、、」
~~~続く~~~
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