電子災害対策課

第9話.日常

県外にある古びた学校、昔使われていた学校らしい、インフラは整っておりまだ施設としては機能している。

陸上自衛隊電子災害対策課その本部になる施設。

その地下31階最下層の部分。

パイプライン、下水管、沸かしたお湯が通っているパイプ。

正直言って蒸し暑い。

そんな31階の奥の奥そこに一つの部屋があった。

「暑い」

その部屋に向かう人影 葵がそこにいた。

葵の新しい部屋、

時は戻って数時間。

志桜里さんが葵を雇ったその時。

葵は引っ越すことになった。

というのも葵は言ってしまえば世界をひっくり返るレベルの発明品を作った人だった。

ギアは世界にデータを追加し閲覧できるこれを使えば、死んだものを生き返らせたり、何なら人類を消せる発明だ。

そんな物が世に出回れば戦争待ったなし。

それを作った発明家も誘拐、拉致、監禁、何があるかわからない。

国としてもそんな優秀な発明家を自分の目の届くところに置いておきたいはず。

少なくとも、社員2名のベンチャー企業においてよい人材ではないだろう。

葵は部屋のドアを開ける。

「またドア?」

重厚な生暖かい金属のドアを開けると今度は木目調のドアが出てくる。

そのドアに手をかける。

ここの蒸し暑さで生暖かくなっている一枚目のドアと違いドアノブが冷たかった。

葵はドアの先の部屋に目を移す。

マンションの部屋。

一番初めに思ったのがそれだ。

よくあるマンションの構造。

入って直ぐ右横にキッチン、その逆側には扉が二つあり、玄関に近い扉がトイレ。

トイレは旧式の物なのか少し黄ばんではいるが綺麗で変な汚れや傷もない。

大切に使用されている....いやこの場合使う人がいなかっただけだな。

トイレ横の扉を開けると脱衣所があった。洗濯機を置くスペースが入ってすぐ左にあり、すでにドラム式のが置かれている。

右側には白色のフレームに白っぽいすりガラスのはまったドア。

ドアを開け、中を見るこれまた綺麗な風呂だ、バスタブは少し青い。

多分、陶磁器?のバスタブ。

何時の時代?そう葵は考えながら風呂場を出て、玄関を入ってすぐ真ん前に見えていた扉を開ける。

大体六畳の広さの部屋。

この部屋の面白いところが入ってすぐ真ん前にもう一つ扉があることと、すでに置かれているベットが置かれているところが、ベットのサイズピッタリに穴というかくぼみがあって、如何にもベット専用です、って場所があった。

部屋にはもちろんのことだがPCはない。

ところでこう思わないか?元の家はどうするのか、と。

桜、染鞠、イロもここに住むことになった。

さすがに葵と同じく31階ではなく、23階居住区に部屋を設けてもらっている。

じゃあ、なんで葵がこの31階、通称パイプライン 正式名称 配管等生活必需設備管理区画に部屋があるのか。

その理由がこの部屋の異質な鉄製のドアの先にある。

葵は扉を開ける。

とびらを開けた先は不格好な鋼鉄の壁が目立つ鋼鉄の階段のある場所。

この葵の新たな部屋は白色の壁紙が貼られているのに対して、ここは鋼鉄あからさまに用途が違う。

やけに寒い階段を降り、電気をつける。

バチンという、音を立てて明かりが着き、目の前に見えたのはやけにだだっ広い部屋のほとんどを埋める異質な形をした機械。

そこからは白い煙が出ている。

それもその筈中に液体窒素を供給して極限まで機械の中を冷やしているからだ。

その機械には付箋が貼られていた。

葵さんへ、この機械壊したら殺す、阿野岩より。

葵はその付箋を丸め投げ捨てる。

葵は部屋の端っこにポツンとある、レトロPCを起動する。

ピポ

起動音が鳴り、いまは亡きブラウン管モニターが点灯する。

このPCはブラウン管モニターの下にあり、もう見ることのないフロッピーディスクドライブが二つ付いている。

そのPCにはかろうじて読める文字でPC9801VMと書かれている。

葵は呟く

「じーちゃんのお陰で私は強くなれるね」

そう呟いた。

葵のおじいさん、白機しらき 雄一ゆういちは葵にコンピューターのすべてを教えた言わば師匠であった。

雄一は生涯をひとつの物のためにささげた。

量子コンピューター。

葵のギアはこの量子コンピュータをホストとすることを前提に作られていた。

これまでの力は半分しか出せていなかった。

これまで雄一の作った最高傑作の量子コンピューター、試作QC003を探しつ図けていた。

因みにQCは量子コンピューターを英語に直訳して頭文字を取っただけなので意味はない。

雄一は生涯で13機作ったのにこの3号機の試作品が一番優秀。

この三号機は2031年現在のコンピューターの3倍の処理性能がある、が如何せん誰も使えない。

理由がこのコンピューターは一つのコードしか扱えない。

そのプログラミング言語の名前それがPlan Calculusプランカルキュールである。

葵のギアの名前の由はここである。

因みに今この言語を扱えるのは葵と雄一だけである。

因みにこの量子コンピューターが完成したのは1989年じゃぁなぜこのコンピューターが世に出回っていないのか。

理由は二つ、1にプランカルキュールを当時使えたのが雄一と雄一の居た大学の研究室のLABメンのみ、さらにLABメン全員プランカルキュールを使えることを隠していて実質誰も扱えない状態だったため。

2に構造の複雑さである。

中身は個人製作でいろんな機械の部品を切り貼りしたりさらには基盤なしの空中配線ときたもんだ。

今でもリバースエンジニアリングできていない。

結果こんなところに放置という始末。

葵はPC98を使ってQC003のOSにアクセスする。

少しすると量子コンピューターについているアクセスランプが点灯しこの部屋の出入り口上についているこの部屋の使用電力計の針が吹っ切れる。

天井に張り巡らされている液体窒素供給用のパイプが音を立てて勢いよく液体窒素をQC003に送る。

PC98の冷却ファンも生き良い良く回る。

少しして画面の表示が変わり、QCOSと表示される。

葵は昔雄一に言われた、QCOSの操作方法を記憶から掘り起こし、コードを入力する。

QCOSはQC003に搭載された専用OSでCUIという文字ですべて操作するタイプ。

現在のQC003の使用可能なリソースを表示させる。

QPU1 0.1%使用中

QPU2 0%使用

そう表示される。

QPUと聞いてCPUじゃないのと思ったと思うがこれは量子プロセッサのこと。

「よし」

そう葵は呟き、ギアのホストサーバーにするために必要な作業を始めた。

部屋は漏れ出した液体窒素のお陰で肌寒く

量子コンピューターから聞こえるコイル鳴きが静かな部屋に響く。

情人ならうるさくて居られたものでは無いが、葵はこの感じが肌に合ったのか逆に居心地がよかった。

この部屋はQC003に特化したつくりになっている。

出入り口の上には電力計があり、大きなメーターの下に三つのメーターがある形をしている。

大きなメーターは下の小さなメーターすべてを足した数。

小さいのは右から順に、液体窒素供給ポンプ、量子コンピューター本体、窒素冷却器の並び。

入口右手の壁にはポンプの操作盤とブレーカーがある。

そして左手にはPC98を置いた机と、その上に換気扇がある。


何時間か経った頃。

「ふ~ん終わった~」

葵は体を伸ばして呟く。

画面にはこれまでと違い簡易的なUIが表示されていた。

そう葵は呟き、部屋を出る。

生活用の部屋を抜け、蒸し暑い廊下に出る。

さっきまで肌寒かったせいか余計に熱く感じる。

廊下をひたすら進んでいくとエレベーターが見える。

葵はエレベーターの呼び出しボタンを押す。

ここは一番下の誰も入らないような階層、そのせいなのか中々エレベーターは来ない。

その間に葵はポケットからネックストラップのついた物を取り出す。

先には、第一電子肉体接続器研究部/第一電子突撃隊と葵の名前が書かれた証明書がついている。

葵は首にそれをぶら下げる。

これは志桜里さんからもらったものである。

「これがないと、知らない人が国家機関の基地に侵入したって大騒ぎになるから部屋から出るときは身に着けなさい」

と言われて渡された。

あと白衣も、速攻で脱ぎ捨てたけど。

第一電子肉体接続器研究部、所属は葵だけの部署。

ギアの研究開発をする部署とのこと。

なを、志桜里さんはバグの研究をしているらしい。

5,6分待ってやっとエレベーターが来る。

葵は21階を押す。

生活区画。

葵がここには某ピエロのファーストフード店や某お値段以上の家具屋、他にもCDショップや普通の社食なんかもある。

ここは陸自の施設というよりも研究所の側面が強い。

この施設で一番広いのがここ、21階である。

なんか、豪華客船の中見たい、そう葵は考えた。

観光ついでに歩き中心の広場に着く、地下のはずなのに何の木かわからない大木が中心にそびえ立っている。

その木を囲むように大きな液晶ディスプレーや、ベンチがある。

ディスプレーには発電状況、今日の天候、消灯時間などが書かれていた。

「葵~~」

桜の声がして振り返る。

そこには桜、染鞠、イロがいた。

今日は葵が半ば強制でこんな山中に引っ越しさせたお詫びとして葵が飯を奢ることになっていた。

3人の首にもストラップがかかっていて、イロ、桜が第一電子突撃隊、染鞠は料理人と書かれていた。

突撃隊はバグに対して初動の素早い作戦展開を目的とした部隊らしい。

イロが木の周りにあるディスプレーを見て

「テレスクリーン」

そう呟いた。

葵はボソッと

「二分間憎悪」

そう呟いた。

染鞠は少し苦笑して、桜はポカンとしていた。

外国小説を読んでいるかそうでないかの差だな、そう葵は思いつつ、この居住区で一番うまいと聞いたレストランへ足を運んだ。

日常は変わったが変わらない。

~~~続く~~~

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