ヤンデレで支配欲が強い敬語妹に軟禁されています

やまなみ

ヤンデレな敬語妹は僕を軟禁してくる



「兄さん、これは何ですか?」



聞きなれた声で目を覚ました時、僕は妹のユイの部屋にいた。



それだけならいつものことだ。

僕は妹の部屋で寝泊まりしているのだから。



だが、いつもと明らかに違うことが二つある。




一つは、僕が椅子に縛り付けられていること。



僕は今、全身を紐で拘束されているのだ。



それも、『絶対に逃すまい』という恐ろしいほどの執念のこもった、念入りな縛り方で。



もう一つは…。



「兄さん。

聞こえているでしょう?


私を、無視するんですか?

また私を、裏切るんですか?

私を、愛していないのですか?」



妹のユイが、怒っていることだ。



ユイの声は静かで、透き通るように美しい。



だが、その美しさでも隠せないほどに、その声色は怒りをにじませている。



「兄さん。

私の兄さん。


私を無視しないでください。



これは、何ですか?


はやく答えてくれないと、イタくしちゃいますよ」



ユイは僕の喉元に包丁を突きつけ、脅しをかける。


そして、その反対側の手にスマートフォンを持ち、僕に画面を見せつける。



僕は目覚めた直後で困惑していた。

なぜ?



ここ最近は、ユイの機嫌を損ねるようなことはしていないはず。



ユイが僕に与えた『禁則事項』を犯さないように、ずっと細心の注意を払って生活してきたのだから。



その疑問が先行するがあまり、僕はユイの質問に答える前に、彼女に疑問をぶつけてしまった。


それこそが、ユイの『禁足事項44番:ユイの質問に質問を被せないこと』を破ってしまっているというのに。


「ユイ…。


なんでこんなことを……っっう!」



ズルッ…という鈍い音が聞こえる。



僕が言葉を言い切る前に、喉元に痛みが走ったのだ。




下を向くと、僕の喉元から血が床に滴っている。



そして、ユイの手元の包丁には、真っ赤な血がべっとりと付いている。



ユイは、僕のノドを切ったのだ。



「う、うあ……あ」



僕は極限の恐怖にさらされて、声にならない悲鳴を上げる。



喉が切られた痛みもあるが、それ以上に、ユイが初手で僕のノドを切ったという事実が恐ろしかったのだ。



これは、ほんの始まりにすぎない。


それが分かったのだから。



「安心してください。

血は出ていますが、見た目ほど危険じゃありません。



兄さんにきちんと『学習』してもらうために、兄さんに効率よく恐怖を与える部位を選んでいるんですよ。



常日頃から、私は兄さんの身体をじっくり観察しているんですから、このくらいは朝飯前です」



ユイは僕の首筋を優しく撫でて、傷口をいたわるような仕草をする。

その顔は、ぞっとするほどに綺麗な微笑みだった。



思わず心を奪われそうになるが、油断してはならない。



ユイは、まだお仕置きに満足していない。



このまま何もしなければ…二度、三度、いや、数えきれないほどの切り傷が僕を襲うことになる。



僕は、焦りで変なかすれ方をした声で、ユイの怒りを鎮めるための言葉を並べる。




「『き、禁足事項44番!ユイの質問に質問を被せないこと!!』



も、申し訳ありません!

私は最愛のユイを悲しませるようなことをしてしまいました!



兄はユイを何よりも愛しています!

ユイのために命のすべてを捧げ、ユイを最愛の妻として生涯愛すると誓います!



二度と、このような失態は犯しません!!」




先手必勝。

ユイがさらなるお仕置きを仕掛ける前に、僕は全力で妹へのゆがんだ愛を誓う。



我ながら、狂気の沙汰だと思う。



知らぬ間に実の妹に縛られて、その妹を畏れるがゆえに、こんな絶対服従を叫ぶなんて。



しかしその狂気は、ユイにとっては何よりも嬉しく、心地よいもののようだ。



「ふふっ。

兄さんは、本当に可愛いですね。



そんなに必死になって私への愛を叫んでくれるなんて。



自己保身の意図が見え隠れして、純粋な私への愛だけで言っているわけではないのは気に入りませんが…。

…まあ、この件に関しては大目に見てあげましょう。



私は、兄さんに甘い女ですから。



…それで、兄さんの愛の告白への返事ですが。



もちろん、私も愛していますよ……兄さん」




そう言って、ユイは僕の唇を奪った。



口の中に、もう何度味わったか分からないユイの味が広がる。




もう、僕とユイは、取り返しのつかないところまで、深くただれた関係になってしまっている。



血のつながった兄と妹であるという世間体の壁は、とっくに崩れてしまった。



「ん、ちゅるっ。

……ちゅるっ。

んふ……んちゅっ………はあっ」



僕とユイは、しばらく舌を貪るようなキスにふけった後、唇を離す。



「ふふふ…。

やはり、兄さんの体液はどれも素晴らしいものですね…」



そう言いながらユイは、口元に残った僕とユイの唾液の混合液を指でなぞり、なまめかしい仕草で舐める。


おぞましいほどに美しい微笑みを浮かべるユイを見て、僕は心の底から震えた。



その震えは、恐怖からくるものなのか。

愛情からくるものなのか。

崇拝の念からくるものなのか。



あるいは、その全てなのかもしれない。



「さて、兄さん。



先ほど禁足事項44番を破った件は、これ以降は不問にします。


ノド切り一回。

兄さんからの愛の告白。

兄さんと私との蕩けるような接吻。



これだけあれば、流石の私も許さざるを得ませんからね」



ユイは、先ほど僕のノドを切った包丁を丁寧にふき取ってから、近くの棚に置く。



よし、これで一安心…。


…とはならないのが、僕の妹だ。



ぐっ…ぐりぐりぐり……。



ユイは僕のノドの切り傷に人差し指をあて、あと少し力を入れたら傷口に入り込みそうなほどの力をかける。


「いっ…!」



僕は当然、痛みに顔をゆがませる。



だけどユイは、そんな僕を愛おしげに見つめるだけで、全く力を緩める気配がない。



「しかし、ですね。

まだ、話は終わっていないんです。



さっきのはあくまでも、禁足事項44番を違反したことについてですから。



本題は、これです」



ユイはそう言って、スマートフォンの画面を、僕の目に触れそうなほどに寄せて見せてきた。



さっきは寝起きの混乱でよく見えなかったが、今はノドの痛みで完全に目が覚めたからよく見える。



スマートフォンに写っているのは、街に出かけている僕の写真だった。



「この写真……。

昨日出かけた時の?」


「そうです。


一週間に一度、私が兄さんに付与している外出許可日に撮ったものです」



僕はユイに、週に一度だけ外出を許可されている。



僕がユイ以外の人間と関わりを持つことを、ユイはひどく嫌う。


特に僕が女性と関わった日は、もう手のつけられないくらいにユイは荒れる。



そのため、僕はほとんど毎日自宅から出ず、外部との接触を絶って生活しているのだ。



そんな生活をこの二年ほど送っていたら、だんだんと僕も心身ともに滅入ってしまい、病気がちになってしまった。


そんな僕を見て、さすがにユイも、週に一度の外出は許可してくれるようになったのだ。



この日だけは、僕一人で外に出ても良いことになっている。


もちろん、数多くあるユイとの禁則事項を破らないことが条件だが。



「兄さんはこの写真の中で、何をしていますか?」


ユイはスマートフォンの画面を指さして、僕に詰問する。


「…おばあさんの荷物を代わりに持ってあげています…」


僕は、見たままを答えた。



すでに、これからユイが何を言ってくるか、察しがついてしまった。


下手な誤魔化しは逆効果だ。



「なぜ、そんな事をしているのですか?


この方は、兄さんの知り合いではないですよね?」


ユイの声がやや険しくなる。

胃がキリキリする。


「し、知らない人だよ。


ただ…このおばあさんが階段を登るときに荷物が重くて辛そうだったから。


僕が荷物を持って、手伝ってあげたんだ」



「…なるほど、理由は分かりました。


兄さんは、やはり優しく責任感のあるお方ですね。


その優しさと社会貢献精神は、血の繋がった唯一の妹として、心から誇らしいと思います。


また兄さんへの愛が深まっていくのを感じますよ」



ユイは『血の繋がった』の部分を強調して言った。


僕らの両親はすでに亡くなっている。

他に親族の繋がりもない。



だからこそ、ユイは僕と『血の繋がりのある唯一の肉親』であることに執着するのだ。


何よりも濃く、絶対に取り消すことのできない僕との繋がりとして。



「しかし。

兄さんは致命的な間違いを犯しています。


この日の兄さんの優しさを全部帳消しにして、マイナスにしてしまうほどの失態です。


…ここまで言えば、私の聡明で忠実な兄さんであれば分かりますよね?」


僕は何も言わず、ただユイの言葉にうなずいた。


「流石です、兄さん。


では、この写真のどこに間違いがあるのか、言ってみてください」



僕がおばあさんの荷物を運んで、階段を登るのを手伝った。


写真の内容を一言で言えば、ただこれだけのことだ。



一般的な感覚で言えばなんの間違いもないが、ユイにとって見れば、特大の地雷を踏んでしまっているのだろう。


仮に間違えがあるとしたら……。



「その……『禁則事項6番:ユイ以外の女性と関わりを持たないこと』を破っています…」


僕は、震える声でユイにそう告げた。

ユイはその言葉に満足そうにうなずき、こう答える。


「その通りです。



相手がいくら高齢の方であろうとも、人間のメスであることには変わりません。



人間のメスとの接触は危険です。


私の兄さんは大変に魅力的な男性なのですから、この老女から関係を迫られる可能性も皆無ではないのです。


ほんの僅かでも兄さんを取られるリスクは解消したい。


そのための禁則事項6番です。




…よく覚えていただきましたね、兄さん。


お利口な兄さんは大好きですよ」



そう言ってユイは僕の頭を優しく撫でた。




しかし、そうかと思えば包丁を手に持って僕に見せつけてきた。


「では、なぜこのような間違いを犯したのか、反省も兼ねて説明してください。



兄さんは私との禁則事項を忘れるほど、愚かではない。


それなのに、兄さんは間違いを犯しました。



考えたくもないことですが、兄さんは私との約束を覚えているにも関わらず、意図的に禁則事項を破ったことになる。


これは重大な裏切りになり得ますよ」


表情は妙に穏やかだが、声音にはかなりの圧力がある。



これは相当気をつけて回答しないと、ユイのお仕置きがとんでもなく重いものになりかねない。



「…放っておけなかったんだ。


ユイの兄として、そんな状況で知らない顔をできるわけがないから」


「ほう……。

まあ、兄さんらしいと言えばらしいですね。


それで?」


ユイは、僕を追い詰めるように先を促す。


僕はユイの機嫌を損ねないよう、細心の注意を払って答える。



「…ご、ごめんなさい。


ユイとの約束は覚えていたんだけど、どうしても目の前の苦しそうなお年寄りを放っおけなくて…。



…僕は永遠にユイのモノです。


それなのに、ユイの信頼を裏切ることをしてしまいました。


どんな罰も甘んじて受け入れます」



「ふむ…」


僕が慎重に言葉を選んで返答すると、ユイは少し考えるような仕草をした。


そして、ふうっとため息を吐くとこう続ける。


「…実を言うと、今回の件は私も判断に迷ってます」


「えっ…?」


「私との禁則事項を破ったことには大きな憤りを感じますし、私への重大な裏切り行為であるのは間違いありません。


本来であれば、わざわざ縛り付けて質問などしないで、問答無用で心中を図りたいくらいです」



さらっととんでもないことを言っていることに、僕は冷や汗をかく。


ユイなら、本当に心中してきてもおかしくない。


僕はすんでのところで、命拾いしていたことを実感した。



「しかし、困っている老人を見過ごせなかった心根も大変に尊いものです。


もともと、私が兄さんへの愛を自覚したのは、兄さんのつい人助けをしてしまうような優しさや善性に惹かれたからでもあります。


そして、兄さんの優しさは本来万人に向けられてしかるべきものだと思ってはいるのです。


私の兄さんは、誰かのために必死に頑張っているときの笑顔が、何よりも尊いのですから」


ユイはそう言って、僕に顔を近づける。



「私はそんなあなたを、心の底から愛しています。


だからこそ、兄さんを縛り付けることは間違っている。


それは自覚しています。


自覚…しているのです」



ユイはうつむいて、自身の内の感情を語る。


「しかし、私は自分の感情を制御できない。


私の兄さんへの愛が深まるにつれて、兄さんが私以外の人間に笑顔を向けたり、私以上に親密な関わりを見せるのが耐え難い苦痛になっているのです。



兄さんと私の間に入り込む邪魔者への敵意、排除欲求、憎悪。


そういった真っ黒な感情が日に日に増大して私の心を焦がし、気を狂わせてくるのです」


「ユイ…」


「私は今の生活をとても気に入っています。


兄さんが私を愛してくれて、ずっと側にいてくれる。


本当は外に出て、様々な人と関わりを持っていきたいのを我慢して、私だけを愛してくれる。


私が無茶を言って、禁則事項をどんどん増やして兄さんを支配することにも、私のことを第一に考えて従ってくれる。



そういった兄さんの愛を実感するたびに、私の心はこの上なく満たされるのです」


ユイは顔を上げて、僕に抱き着いてきた。


「あぁ……兄さん……。

私はどうすればよいのでしょうか?


私は、兄さんが私のことを最優先に考えてくれる今の生活が大好きです。


しかし、私が兄さんを縛り付けるせいで、兄さんの笑顔の輝きが損なわれてしまうのも分かっているのです。


私が兄さんの可能性を摘んでしまっている。


私は兄さんを縛り付けるべきではない。




…分かっています。

そんなこと、とっくに分かっています。




ですが、実際に兄さんが私以外の人畜生どもに笑顔や優しさを振りまいているのを見ると、煮えたぎるような怒りと嫉妬が止まらないのです。


兄さんと私以外の人間を皆殺しにして、地上に残された最後のアダムとイブになりたい。

そう思うほどです」


「………」


僕は、ユイがとても寂しがり屋で、僕のことを何よりも好きなのを知っていた。


知っていたはずのに、最近ユイに支配されている恐怖がノイズとなり、ユイの葛藤に気づいてやれなかった。


それがユイにとってどれだけ辛いことなのか、兄である僕が気づいてやれなかったことに不甲斐なさを感じる。



だからこそ、この時から、ユイのお仕置きや責め苦を恐れず、すべてを受け入れようと思ったのだ。



「…ねえ、兄さん。

私の兄さん。


私は、この感情にどう折り合いをつければよいのでしょうか?


私はどうしたら、兄さんの輝きを損ねずに、兄さんと愛し合うことができるのでしょうか?」


ユイは僕を抱きしめる腕に力を込める。


ユイの美しい声が、僕に向けられた愛の言葉が、僕の脳髄に染み渡る。




ユイが僕をここまで想ってくれることが嬉しい。


やはり僕たちは、血の繋がった似た者同士だと実感する。



僕たちはお互いに狂っている。


もう、どうしょうもないほどに。




僕は世界の誰よりも大切な、たった一人の妹に、ささやくように話しかける。


「……ユイ。


僕はユイのことを、世界中の誰よりも大切に想っているよ。

他の誰より、君のことを第一に考えている自信がある。


……けど、それでも自分の感情を抑えきれないなら……」


ユイが僕に抱き着いたまま、うるんだ目で僕を見つめてくる。


「僕の身体に傷をつけて欲しい。


僕がユイだけのものだという証を。


僕が誰にも取られないように」



ユイの憎悪や嫉妬で傷つくのは、僕だけでいい。

僕はユイのすべてを受け入れ、生涯愛していく。



妹としても、女としても。


両親が死んだあと、僕にすがるように愛情を求めてきたユイを受け入れたときから、ずっと決心していたことじゃないか。



ユイは僕の言葉を聞くと、僕の首元に顔をうずめてきた。



「兄さん…。


ほんとうに、兄さんはずるいです…。



誰にも優しさや親切心を忘れないお人好しなのに、あえて私だけを愛してくれる。


私のわがままを、何でも聞いてくれる。


私のことを最優先に考えてくれる。


私を愛してくれる。



そんな兄さんだからこそ、私はまた溺れてしまう。



……でも、そんな溺れていくところさえ楽しんでいるのだから、私もつくづく度し難い女ですね」


ユイはそう言うと、僕の首元から顔を離した。



「割れ鍋に綴じ蓋ってやつだよ。


僕たち兄妹は、どっちも度し難いんだ。

でも、それでお似合いなんだからいいじゃないか」


「ふふっ……。

確かにそうですね。


私は兄さんがいなければ生きていけないし、兄さんも私なしでは生きられない。


美しく、醜い共依存。

私たちにぴったりな、素晴らしい関係ですね」


ユイはそう言って微笑むと、また僕の首筋に顔をうずめてきた。


「兄さん……。

愛しています」


ユイはそう言うと、僕の首筋に歯を突き立てた。


「い゛っ…!」


ユイの歯が皮膚を突き破り、血が出たのが分かる。

じわっとした痛みか広がる。


ユイはそのまま、僕の血を舐める。


「兄さん……。


お望み通り、私の証をたくさん刻んであげますよ。


兄さんが誰を見ていても、私だけしか愛せないように。

永遠に私だけのモノであるように」


ユイはそう言うと、再び僕の身体に噛みつき、僕の血を舐めた。




その後も包丁や拷問器具で、身体中にユイの証を刻み込まれる。


ユイが与えた傷跡は、まるで僕の身体に呪いの刻印のように刻まれた。


思わず叫び声を上げそうになるほどの痛みが続いたが、ユイのためを思えば平気だった。



ひとしきり僕を傷つけてユイは満足したあと、僕を縛っていた拘束を解き、僕に優しくキスをした。



「兄さん……。


こんな卑しい妹で申し訳ありません。

兄さんを傷つけるばかりで、私はひどい女です。


でも、私は兄さんのことが大好きなんです。

もう、自分でもどうにもできないんです。



兄さんをたくさん傷つけて、壊してでも私のモノにしたい。

私のそばに留めておきたい。


そうでもしないと、この胸が恋慕と嫉妬の炎で焼けただれ、この身を焦がしてしまいそうです。



…だからこそ、卑しいと知りつつもお願いがあります。


おそらく兄さんは私の願いを受け入れてくれるでしょう。


それを分かっていて、兄さんの愛を確かめるために、あえてお願いをします。




…ずっと一緒にいてください。


私のすべてを愛してください。


私を、おいて行かないでください」



ユイはそう言って、僕に抱き着いてきた。


僕はユイの頭を撫で、抱きしめ返す。



「…もちろんさ。


僕も、ユイのことを一生離すつもりはないよ」



僕がそう答えると、ユイは嬉しそうに微笑んだあと、僕に口づけをした。



それが始まりの合図となり、僕たちはベッドの上で一晩中愛し合った。




兄と妹ではなく、ただお互いを求め合う男と女として。




ーーーーーー


それから先はどうなったか?



基本的に僕がユイに軟禁されて、外部との接触を絶った生活を送っているのは変わらない。



だけど、ほんの少しだけ変わったところがある。



ユイが僕の外出を許可してくれる頻度が増えたのだ。


僕は相変わらず外出先で人助けをしたりして、ユイとの禁則事項を破ってしまう。



そんなときでもユイは以前のように怒らなくなったし、あまり不安そうな素振りを見せなくなった。



ただその代わり、僕が外出した日の夜は、ユイは僕との交わりで激しく求めてくるようになった。


行為で繋がっている最中も、強めに首を絞めたり、爪で背中を引っ搔いたり、噛んできたりする。



『それは怒っているのでは?』と思うかもしれないが、ユイの様子を見る限りは違うようだ。




ユイは、ただ僕に甘えたいだけなのだ。



ユイは僕にわざとわがままを言って、僕に痛みを与えてくる。


僕もユイに甘いから、そんなことをされても笑顔で受け入れるようにしている。


それが、ユイにはとても満たされることのようらしい。



だから最近はむしろ、ユイのほうが僕の外出を楽しみにしている節すらある。




そんなことを続けていたから、僕の身体はユイにつけられた傷跡だらけだ。


とても人に見せられる身体ではないが、ユイ以外に見せることは絶対ないし、ユイ自身は喜んでいるのだから問題はない。



もちろん、他人から見ればおぞましいほどに歪な関係だが、僕たちはそれで幸せなのだからしょうがない。



僕はユイのことを愛しているし、ユイも僕のことを同じかそれ以上に愛してくれている。




この狂った関係に未来があるかは分からない。


いつかは破綻するかもしれないし、そうならないかも知れない。



それでも、僕たちは止まることができない。

止まろうとも思わない。




僕たちは、この上なく歪んだ関係のまま愛し合い、爛れた地獄に突き進んでいくのだから。



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ヤンデレで支配欲が強い敬語妹に軟禁されています やまなみ @yamanami_yandere

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