第8話

結局、残っていた人たちも、自分のコテージに戻ることにした。本当は、なるべく被害者を増やさないように、ある程度はメインコテージに残したかったのだが、そんなことを言い出せるような気分ではなかった。重い足取りのまま、私も自分のコテージへ戻った。


戻ってからも、しばらくは何もしなかった。気持ちが落ち着かないせいで、何かをしようと思えなかった。どうせ殺人は終わらないという悲観的なことばかり考えてしまった。


少し落ち着いたところで、コテージの中を調べてみた。装飾は全く違うが、建物の作りは蠍火さんのコテージと同じだから、事件のヒントが得られると期待していた。


大きなヒントは特になかった。一応、気になったところはある。一人で入るにはやたら広い浴槽、何も置かれていないクローゼット、暗号すら分からない金庫。怪しいものはあったのだが、これだけで何かが分かるなんて都合のいい結果にはたどり着けなかった。


調べたところで、早乙女さんから呼び出された。今から昼食にするらしい。そういえば朝食を食べていなかったな。人の死体を見た後に飯を食えるほど、私の体は人の死に慣れていないのだと思いたい。


私が着いたころには、何人かがメインコテージに集まっていた。とは言っても、バイトぐらいしか集まっていなかった。先に作らせようと集めたのだろう。


一織ちゃんの「もったいないですし、せっかく作ったんだから、朝ごはんをお昼ご飯にスライドさせてもいいのでは?」という発言によって、それすらも意味が無くなってしまったようだが。


そういうわけで、今度は一織ちゃんと愛香ちゃんが呼びに行くことになった。その間、私と計さん、早乙女さんの三人で、朝食を温め直すことにした。


作業中に、私はあることを二人に尋ねた。


響「お二人は、あのサークルの人たちとは知り合いなんですか?」


一輝「いえ全く」


早乙女さんは何も言わずに黙っていた。


他愛もない話をしていたところに、慌てて一織ちゃんたちが戻ってきた。いくら何でもそんなに早くフラグ回収をされるわけが…


一織「コテージが、開かないんです!」


…された。


一旦平静を装って質問をした。


響「どこのコテージ?」


一織「えっと、確か、アクエリアスって書いてありました」


アクエリアスは、水田さんの泊まっているコテージだ。


そうして、私たちは、アクエリアスのコテージへ向かった。鍵は当然開いてないし、窓も閉まっていた。呼んだところで、返事はなかった。入ったところで、何が起こったのかはぼんやりと想像ができた。


鍵を開けてもらって、中に入った。ここも内装を荒らされた形跡はなかった。しかし、水田さんの姿も見当たらない。部屋で気になったのは、金庫が開いていたことぐらいだ。しかも、中には何もなかった。その時だった。


一織「水田さん!水田さん!」


確かにそう聞こえた。浴室からだ。私は急いで浴室へ向かった。そこで見たものは、予想していた通りだが、決して見たくなかったものだった。


水田 花、彼女は水でギリギリまで満たされた浴槽の中で死体となっていた。これを見て、ある発言を思い出した。計さんの「十二星座に見立てた殺人の可能性があるのですよ」という言葉が当たっているという事実に気づいてしまった。


今回の犯行なら、アクエリアスが水瓶座を意味するから、浴槽に水を満たして、水瓶の代わりにしたのだろう。


彼女の死体を一度浴槽から出して、詳しく観察した。死体を見つけた段階でわかっていたが、全身が縄で拘束されていた。また、首にも縄の跡が着いていた。


このことから、私は、彼女の死因が溺死ではなく、絞殺の可能性もあると考えた。いずれにしても、他殺として間違いないだろう。

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