第4話

この七人の情報を一度まとめよう。


一人目、蟹江 正治(かにえ まさはる)。とある総合病院の医者をやっているそうだ。専門は内科で、その手術の腕から、内科医の中でも有名人らしい。


二人目は、水田 花(みずた はな)。とある大手文具メーカーの社長だそうだ。彼女の会社は、こっちの世界では日本有数の大企業であり、その名前を聞いたことがある人も多い。


三人目は、魚川 航平(うおかわ こうへい)。漁師をやっているそうだ。本人が「こん中じゃ、俺に力で勝てるやつはおらんな」と言うほど、力には自信があるらしい。実際に、とても鍛え抜かれていた。


四人目は、牛飼 紗英(うしかい さえ)。占い師らしい。しかし、当の本人がほとんど話さないため、真偽はわからなかった。


五人目は、弓木 智恵(ゆみき ちえ)。世界中で評価を受けているほど有名な画家らしい。彼女の最高傑作「女と矢」は、とある富豪から数億円で交渉されたらしい。


六人目は、蠍火 冬二(さそりび とうじ)。舞台監督とのことだ。私も見たことがあるが、彼の劇は細かい演出まで考えられた、とても素晴らしい劇だった。


七人目は、日辻 慶太郎(ひつじ けいたろう)。普段はプログラマーとしてはたらいているそうだ。どうやら有名な大学を卒業しているそうで、どんなプログラムもこなす高い技術もあるらしい。


ここまで職業が違うと、どんな集まりなのかが想像もつかないだろう。そのことはあとで分かるので一旦置いといて、昼食後の話から始めよう。昼食を食べるような時間に客が来た、すなわち私たちの仕事も本格的にスタートしたのだが、そこから精神的な負担が大きくなっていった。


題名通り殺人事件が起きたのもあるが、仕事の忙しさもあった。というか、殺人事件が都合よく起こるとは思わない。


まずは昼食からだ。そこはもともと用意していたので問題ない。昼食を食べ終わって、その片付けをして、それで一旦終わりかと思っていたのだが、また早乙女さんに振り回されることになった。


忙しすぎないか、などと言っても、彼女は「バイトのくせに、余計なことを言わないでください」と一言で済ませてくる。バイト初日から本当に心を折ろうとしてくる。


結局、バイトだからと割り切って、大人しく仕事をすることにした。そのとき、みんな決意を固めたはずだ。二度とこの人の下で働くものか、と。


任された仕事も全て終わり、今度こそ休憩だ。私は、一度自分のコテージへ戻ることにした。そういえば、自分のコテージがどこなのか、この時はまだ把握していなかった。


私のコテージの名前は「カプリコーン」、つまり「山羊座」だった。その部屋の中には、山羊の像と、どこかの牧場から持ってきたようなものがいくつか飾ってあった。


一人で休憩していて、私は、ある事が気になり始めていた。このツアーにおいて、どのような基準で客を選んだのかだ。特に基準がないと言われたらそれまでだが、それにしては客同士の仲が良すぎた気もする。


しかし、もっと疑わしいのは、応募の締切だ。バイトの募集と客の抽選締切が同じ日だったのだ。そんなことはないと思う一方で、私は、ある嫌な予感がしていた。一般人より死体を見る機会が恵まれてるだけなのだが(当然望んでなどいない)、なんとなくそんな気がしていた。


もしかすると、このツアーは誰かが事件を起こすために仕組んだ計画の一端なのかもしれないと。

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