第3話

星座山先行体験ツアーの一日目。私たちは、夜の暗さが残るほど朝早くのバスに乗って星座山へ向かった。あとから来るツアー客のコテージの掃除やら食事の用意やら、色々することがあるらしい。


私は、行きのバスで計さんの隣になった。そこでこんな会話をした。


一輝「あなた、日野 響というお名前でしたっけ?」


響「はい。そうですけど…」


一輝「ならば、蜘蛛屋敷の事件も解決したのでしょうか?」


響「はい。解決しました。……なんでそんなことを知ってるんですか?」


「まぁ、友人の方から色々と。彼、好きなんですよねぇ、そういう殺人事件のことを調べるの。なんでも、ほんの数時間で事件を解決したあなたのことが気になっているようで」


確かに事件は解決した。しかし、私は自ら名前を出したりしない。一体、どこからその情報が漏れたのだろう?


それに、蜘蛛屋敷殺人事件(第一作)に至っては、被害者と加害者の名前しか報道されていない。尚更おかしなことになる。


この計 一樹という男、想像を遥かに上回る程に危険な人物かもしれない。いきなりこんなことを言われると想定していなかったのもあるが。


彼に怯えながらバスに揺られること一時間、私たちは星座山へと到着した。ただし、バスが停まったのは星座山の麓で、そこからさらに一時間ほど歩くことになった。


星座山のコテージまでの道のりはやや険しかった。道は舗装されていて歩きにくいことはなかった。では何がキツいのかというと、寄りにもよって急斜面なのである。そこを一時間、疲れないわけがない。


それに、道のすぐそばには草木が生い茂っていた。今はなんともないが、もし台風でも来たら降りられなくなるのは確実だろう。そうなると、夜空など楽しめたものではない。


星座山のコテージに着くころには、日は昇りきっていた。随分長かったが、私たちにとっての本題はここからだ。なぜなら、バイトだからである。


そして、早乙女さんから指示を出されて、いよいよ仕事開始だ。最初の仕事の内容は、私と計さんが宿泊用のコテージの掃除、一織ちゃんと唐獅子さんが料理の準備だ。


タイムリミットは午後一時、客が星座山に来る頃だ。私は余裕があるだろうと思って油断していたが、そう甘いものでもなかった。


二人で十二個のコテージを掃除しなければならない。コテージの広さもワンルームのアパートぐらいはあるし、いざ掃除をするとなると、星座モチーフの飾りが邪魔なことこの上ない。そういうものだと割り切ったが、それを考慮しても邪魔だと感じる。


そもそも、コテージまで登って疲れてるのに、すぐに仕事だと言う早乙女さんも大概どうかしている。私たちに「皆さんはアルバイトでもありますが、同時にツアーの参加者でもあります」とか言っておいてこの扱いはないだろう。何よりも仕事のことしか考えていないのだろうか。


私は、心の中で早乙女さんのことを散々愚痴りつつ、計さんとも協力して、午後一時になる前に全てのコテージの掃除を終えた。すごく疲れたと思う。


星座山には十三個のコテージがあった。十二個の宿泊用のコテージで周りを囲み、中央にメインコテージがある感じだ。もっとも、さほど距離もないので、メインコテージにはすぐに行けるのだが。


仕事を終えてメインコテージに着くと、料理の準備も終わっていたようだった。そこに早乙女さんがやってきて、それぞれに紙を一枚渡して、こう言った。


奈緒子「最初の仕事、お疲れ様でした。こちらは、皆さんが宿泊するコテージの場所を示した地図です。指定されたコテージに荷物を置いてきてください。もうすぐ客の皆様も着きますので、なるべく早く」


とんでもない上司だ。実際に時間は昼食を食べるような時間になっていたが、もう少しじっくり休憩させてほしい。そんな風に思って自分のコテージへ向かったところに、何人かの団体がやってきた。今回のツアーの参加者だ。


これで揃った。星座山殺人事件の容疑者たちだ。

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