真夜中

なんだか瞼が重いな。

眠気というのはまったく天邪鬼だ。こうして寝たくないと思ったとたんに訪れるのだから。

ああ。そうだ。

朝、目覚めたら最初にコーヒーを淹れようか。

けちけちせずに、ミルで豆をたっぷり挽いて、苦くて真っ黒なコーヒーを淹れよう。

挽いた粉にゆっくりと湯を注いで、ドリップする。

ぽたぽたと、硝子のサーバーの中に広がる黒い滴。はじめは、小さな水たまり。それから湖、深い海。最後に宇宙が現れる。

真っ黒なコーヒーが落ちていくさまを見ていると、何だか世界を創っている気分になるから面白い。

神さまとやらも、こんな風に我々を眺めているのかもしれない。

そうして、コーヒーがすっかり落ちきったら、とびきり気に入っている翡翠色のマグカップに、出来たばかりの宇宙を注ごう。

行儀や品がと、誰がなんと言おうとも、カップに中身を九割満たす。すこし揺らせば、こぼれそうな量。これが一等好きなのだ。

では、冷める前にいただこうか。

一口目はそのまま何も混ぜずに。とても苦い。うん、理想どおりだ。

その後、すぐに牛乳を入れる。

コーヒーミルクではなく、低脂肪牛乳を入れるのが、こだわりだ。

見た目で言うなら、断然コーヒーミルクを選ぶところだ。そろりそろりとマグカップの端から注いでいくと、暗い宇宙に天の川を創るようで美しい。

ただし、年と共に胃が弱くなってしまったので、たっぷりの牛乳を注がなければ、コーヒーを一杯飲み干すことができない。

年はとりたくないものだ。

もっとも、こんな年になったからこそ、こうして何にも縛られない、ゆったりとした時間を手に入れることが出来たのだが。

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