ある日

はるむら さき

深夜

なんだか今日は眠れない。

仕方がないから、布団から出てしまおうか。

冷えた床をペタリと踏んで、机に向かう。

気前のいい友人から譲られた木彫の机だ。彼によれば、とても高価なアンティークの品らしいが、僕にとっては机なんて、紙と鉛筆を広げられさえすれば、そこらへんの木箱でも構わない。

ただ、机と揃いの椅子の座り心地が大変よいので、けっきょくのところ、この机を愛用している。

びろうどの張られた椅子に腰掛け、机の上のランプを灯す。

とろりととけたオレンジ色の下で、眠れない夜を文字にしよう。

ああ、そうだ。

ずっとこうして文章をしたためていたい。

他人に見せられないような拙いものでも構わない。

昔の誰かが夜空の星を線で結んで、むちゃくちゃな絵を描いたように、僕も僕とておなじくらい滑稽な駄文を綴ろう。

それでも、いつかやってくる眠気にのまれてしまったら、このままここで寝てしまおうか。

夢の中の僕はいつだって、傑作を生み出す。しかし、困ったことに朝起きるとその傑作も、夢の中に置き忘れてきてしまう。

それが机の上でペンを握って眠ってしまえば、朝起きた時には、きっとここにある原稿用紙にびっしりと、分厚い辞書の一冊くらいの名作が書き上がっていることだろう。

…なんてな。

そんなうまい話があれば、世界中の文豪がみんな実行していることだろう。

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