最終話

 ピピピピ……ピピピピ……。

「ああ……」

 スマホの目覚まし時計はうるさいな。

 ああ、またソファで寝ちゃった。

 覚えてないけど、なんだか変な夢を見ていた気がする。大事な……大事な夢……。夢……?

 変な感覚だ。

 あれ、泣いてる。何故か頬を涙が伝う。悲しい事なんてあったっけ。ハルトが交通事故で死んだこと? いやいや、それは一ヶ月前の事だよ。悲しいのは悲しいけど、最近ようやく心を入れ替えられたんだから。

 とりあえず顔でも洗おう。

 洗面台……洗面台……。

 蛇口をひねって水をだして……。水冷たっ。

 うわ、鏡でみたら目が赤い……いや、赤くない……いや赤いよ。目は青いけど、充血してる。目の周りも少し腫れてるし。泣き腫らしたみたい。夢の中でそんなに悲しい事でもあったのかな。

 ピコン……。

 ん、スマホのリマインダー。今日の予定は何かあったっけ。

『ミドリとカラオケ』

 あ……やべ。急いで支度して出ないと。


 ***


「ごめーん。待たせちゃったー」

 はあ……はあ……せっかくの約束を遅刻してしまった。

「遅いよヨイちゃん。二十分も遅刻するなんて」

「ごめんごめん悪かったよ。でもゲームのプレイヤーネームで呼ぶのはやめてほしいかな……」

「『ユズカ』より『ヨイちゃん』の方が呼びやすいんだもん。……ていうかどしたん。泣いちゃった?」

「え……いやー私もよくわかんなくてさ。起きたらこんな感じ。多分夢でも見たんだと思うんだけど」

「えーユズカも?」

「……も?」

「いやーウチもなんかの夢見てさー。何かはわからないんだけど、なんというか死んだ気がした」

「死ぬのは怖いね」

「ってそんな話はいいんだよ。早く行こ?」

「そうだね。でもどうして鈴霧台? 初めてきたんだけど」

「そりゃあとっても安いカラオケ屋さんがあるからね」

「でも交通費考えたら……」

「めっ、そういうのは無し」

「わ、わかった」

 ここからは歩くしかないのか。いやー、最近歩いてなかったから体力が心配だなー。しんどくなったら休憩させてもらおう。

「初めてきたけど、いい雰囲気だね」

「え、ミドリも初めてなの?」

「うん。なんかあった?」

「いや、地図もなしに……」

「ウチ、記憶力は良いから。ほら、あの公園を曲がって……」

 大丈夫ならいいか。

 それにしてもなんだろう。

 ここにはなんだか来たことがあるような感じがする。

 鈴霧台って名前もどこかで……。

 あの家とか、この道のカーブの感じとか。

 あ、あの喫茶店、なんだかいい雰囲気。

 中はどんな感じだろう。あ、店員さんかな。楽しそうにおしゃべりしてる。

 茶髪のポニーテールの人と、白髪の、ショートカットの人と……ピンクで、長い、綺麗な髪……。

「おーい、ユズカ。どうしたの、店の中覗いちゃって」

「ごめん! ちょっと寄り道!」

「えっ、ちょっ」

 絶対知ってる。知ってるんじゃない。思い出した。全部! そう、全部!

 ナツ! フユ! ミカ! 全部思い出した!

 ドアを思いきり開けよう。そして中のみんなをびっくりさせるんだ。

 三、二、一、突撃!

「いらっしゃいませーってえええええええ?!」

「どうしたのナツ……え、うそ……」

「あなた、まさか」

 みんな驚いてる。そしてみんなが私の元に来て、強く抱きしめてくれた。だから私はこう言うんだ。


「もう、私だけ置いて行かないでよ!」



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喫茶ミスト 時雨澪 @shimotsuki0723

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