9月21日 記録

小雨の中、レインコートと長靴を装備し、山に分け入る。幼いころは楽に登れたのに、整備された道ばかり歩きなれてしまった私には、藪に分け入って進むという行動は非常にハードだった。30分ほどかかって、ようやく道路の成れの果てにたどり着いた。

西へ向かう。懐かしい道、変わらない風景。懐かしさに浸りながらただただ西へ。


雨が地面を打つ音に加えて、川のせせらぎが聞こえてきた。少し曲がったところに、あの日の小屋が現れる。初めて来た時のように、埃まみれの草まみれだった。数年ぶりの小屋への帰還。

小屋の中には机があった。今も変わらず机はあった。あの机で、湊はよく絵を描いていた。

机の上に、赤く錆びた金属製の小さな箱が埃をかぶっていた。あの日湊がここにきておいていったのだと思った。振っても特に音はしない。力に任せて無理やりこじ開ける。

中には何か萎れた花のようなものが入っていた。これが何なのかはわからない。湊はこれを渡して、何を話したかったのだろうか。中身からは残念ながら何もわからなかった。

なんだか泣けてきた。私は何もできなかった。結局何もわからない。ただ泣いた。ひたすらに泣いた。いつの間にか強くなった雨の音にもかき消されないほど、大声を出してただ泣いた。雨がやみ、日が暮れるまで泣き続けた。


「さんずいのついた名前って、縁起が悪いんだってさ」

ちょっと変わった元同級生が、前会った時言っていた。


山小屋の外、小川の近くで眺める夕日はひどく綺麗で。雨上がりの澄んだ空を真っ赤に染めていた。


道の成れの果てを、東に進んだ。ただただ東に。

行きついた先には、あの日と同じように塞がれた石のトンネルがあった。

板張りの隙間から、奥を覗く。

夕日が崩落したトンネルの残骸を赤く照らした。

向こうの側に行けたのならば、湊に会えたりしないだろうか。

むこうがわにはいけないけれど。

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