すまねぇ。家が壊れる。

 天井がゆれる。ショーテルの横で名前もわからない小柄な女性が震えている。

 トラのスキルは意味がわからない。真偽不明な割には当たるときにはぴったり当たる。今のところ予言せずの来客は1人も見たことがない。ただ俺で遊んでいるだけなのか…?

「…おい。トラ。」

「…」

「無視かよ…。」


 天井は揺れ続ける。天井から砂埃が舞い落ちる。

 ふと、天井の揺れが収まった。ホッと息をつく少女っぽい19歳児。

 地下室への扉は床にカモフラージュされている。なのでそう簡単に見つかるわけがない。そう思っていた。


 ガチャッ


 扉の音が聞こえ、地下室に光が差し込む。

「見つけたァ…」

 若い男の声が聞こえ、ショーテルとトラは警戒態勢に入る。護衛対象を死なせてしまってはあとの評判がだだ下がりだ。「初仕事」という重い荷物を背負い、相手が来るのを待つ。


「俺の愛しぃ天使ちゅあん…」

 ネッチョリとした言葉を撒き散らしながらゆっくりと歩いてくる。

「おい。19歳児。こいつがなにもんか知ってるか?」

 ショーテルは尋ねる。

「…私の害悪リスナーです…。」

「んあ…?害悪…リスナー…?19歳児。お前の職業は?」

「ショーテル様。19歳児と呼ばないでください。私には『フティ』という名前がありますので…。」

「ちょっと。2人とも。害悪リスナーが寂しそうにこっちを見ているぞ。」

「何だよそのモンスターが仲間になりたそうに見ている的な感じは。」

「だって実際そうなんだもん!!」


 2人はどうあがいてもぶつかってしまうのだろう。作者的にはいいぞ。もっと続けろとは思うが…この状況で争うのはちょこっと危ないのではないか?

「ラフちゅあーん…俺の目の前に居る男達はだぁれぇ〜?」

「ヒッ…」

 フティは震える。「ラフ」この名前はフティのネットでの名前だ。

 まぁまぁ人気の配信者で、顔は出しおらず、キャラクターを使ってゲーム配信などをするらしい。

「ラフちゅあんは一生おりぇのものだよぉ〜」

 そう言うとフティの細い腕を掴み、強引に地下室から出そうとする。

 言い争いに熱が入っていた2人は、男の様子に気づき、顔を見合わせ一斉に飛びかかる。


 横に長い男を背後から取り押さえる。だが、小柄な成人男性と、平均だけど細い体格の成人男性でも殆ど意味がなかった。

 ここは岩に囲まれた地下室。

 ショーテルのスキルは『岩に囲まれると身体能力がバク上がりする』というもの。

 脚力、腕力、体力諸々あがる、使おうと思えば戦闘系に使える能力だ。

「やーっと俺の出番だな!」


 トラ、離れろ。と、目線で伝えると素早く男から飛び降りた。

「おりぇのラフちゅあんを危ない目に合わせりゅなァァ!!」

 高みの見物をしているトラがつぶやく。

「危ない目に合わせているのはどっちだか。」

 今にも振り落とされそうになりながら必死にしがみつく。家が壊れるかもしれないと心配しながらもショーテルはニヤリと笑う。

 いつの間にか腕を離されていたフティはトラの後ろに隠れ、オドオドしながら見ている。


 害悪リスナーが重い体を持ち上げたとき…

 バタン!

 ものすごい音がして害悪リスナーが倒れる。

「グハァ…」

 フティは何が起こったのか分からずトラの後ろに隠れる。

 動体視力がとてつもなくいいトラでも見えなく、目を見開いている。

 ショーテルは害悪リスナーが立ったあと、思い切り背中を蹴った。それだけだ。

「おじさんよぉ…ストーカーは良くないぜぇ?ましてや拐おうとしていたよな?流石にここまでくれば法に触るぜ?」

「グッ…うるしゃい…」


 トラが近づく。

「ねぇねぇおじさん。僕たち護衛隊って仕事をやってて、今回が初仕事なんだ〜。」

 トラは知っていた。害悪リスナーには精神的なダメージが一番効くと。

「でね、流石に初仕事をやらかしたら社会的に死んじゃうからさ、捕まってくんね?」

「嫌だ…ラフちゅあんはおりぇと結婚すリュンだ…。」

 どんどん酷く、醜い言い分にトラはまた言う。

「結婚…?ハッ。フティ…君の言うラフちゃんに散々な目に合わせといて何を言うか。」

「トラ。お前もパーレさんに散々な目に合わせた張本人だよな…特大ブーメラン突き刺さってるぞ…」

「うるせぇ。」

「えっ…トラさんってストーカーだったんですか…?」

「ショーテル。お前のせいで変なレッテルが貼られたじゃないか。」

「いや、事実…ムグッ」


 トラがショーテルの口をふさぐ。

 あーだこーだやっているうちにフティが害悪リスナーに近づく。

「ラフちゅあん…結婚しよ…?」

「私にこんなに迷惑をかけてそれが最初に言う言葉ですか…。」

 言い争いにキリがついた2人は静かにその様子を見守る。

「最初は純粋に推してくれて嬉しかった…」

「じゃぁ…!」

「けど、ここまで来ると貴方のこと…」

 そこまで言うとニヤリと不吉な笑みを浮かべる。

「嫌いになります。もう私に顔を見せないでください。」


 まくしたてて言うと、害悪リスナーはヘナヘナと力なく地面に座り、

「もう…だみぇだ…お願いだ…おりぇをけいしゃつに突き出してくりぇ。」

 満足そうにうなずいたトラはどこからか手錠を取り出して、

「んじゃ、僕はこいつを警察まで送り届けるから。ショーテルは少し時間が経ったらこの町の警察署にフティさんと一緒に来てね。」

 と、言い姿を消した。


呆気ない終わり方に2人で顔を見合わせ、同時に

「「はぁ…」」

と、盛大なため息をついた。

どこからか、

「―お仕事お疲れ様。」

パーレの声が聞こえた気がした。

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