③
◆◆◆
気が付けばあっという間に夜になっていました。
温かな電光飾に照らされて、本来であれば凍えそうな寒さに満ちている町中が雪の白と白光に彩られます。私はミニかまくらの中に小さな灯りを燈した、お祭り限定の伝統的な光が好きになりました。
他の町では竹やガラスを用いるようですが、雪花町では雪で囲いや筒を造るのだとか。そういえば氷女の里にも同じようなものがありましたね。やっぱりご近所さんだと似通うところがあるのでしょう。
「綺麗です」
「この光景を見るたびに、雪花祭りになったんだなって気がするよ」
「昔からこんな感じなのですか?」
「そうだね。少なくとも、俺が子供の頃から変わらないと思う」
そう言いつつ何かに気付いたのか。
公園前のベンチで隣り合って座る零斗様が、じっと私の方を見つめてきます。
「ううん、やっぱり違うな。俺にとっては随分変わったよ」
「そうなのですね。どこが変わったのでしょうか」
「伝説の氷女さんがすぐ傍にいるところ」
「そんなので随分変わるのですか」
「変わるさ。ずっとお伽噺としか思ってなかったキミが、こんなに近くにいる。その存在を感じさせてくれている。俺と一緒に居てくれる。それが嬉しいんだ」
「ふふふっ、こんなので良ければずっとお傍におりますよ」
でも、と意味ありげに間を作る。
「嬉しさに関しては、私の方が上です。ずーっとずーーーっと上ですから」
「そんなに?」
「はい! それだけお慕いしておりますので」
零斗様は知らない。
私がどれだけの時間、あなたと会える日を待ち続けていたのかを。
いつか、いつかと。あの御恩を返せる時が来るのを待ち侘びていたのを。
「……セツカ」
「はい」
「その……今回も本当にありがとう。キミのおかげだよ」
「勿体ない言葉です。なので、もっと褒めて勿体なくしてください♪」
愛おしさがこみあげて、じゃれつく体を装いながら零斗様の胸にしがみつく。
彼は押し返すこともせずに、腕を背中に回してくれた。
「嫌だったら言ってね」
「嫌じゃないのでずっと言いません」
「……やっぱりもう少ししたら離れてもらってもいいかい」
「嫌です♪」
「なんでもいう事を聞く権利をここで使うというのは……」
「今のセツカは我儘なので、無効化します」
「それは……参ったね」
「はい、参っちゃってください♡」
許される限り、ずっとこうしていたい。
……けれどそうも言ってられませんね。
何よりも零斗様を想えば、私は行動しなければなりません。
「零斗様。ひとつよろしいですか」
「いくつでもどうぞ」
「――何をお悩みになられているのか。どうか私にお話してみてください」
表情の変わらない彼から、驚きの波を感じ取る。
あまりやりすぎると気味悪がられるのが怖いけれど、そんな心配を余所に零斗様は冷たい空気をいっぱい吸い込んでから息を吐いた。
「どうして?」
分かったの? そう問われたら答えはいつもと同じものを。
「私だけには零斗様の心が伝わるからですよ。愛の力です」
「……すごいな」
「そんなこと言って、零斗様はイケズです。困っているならすぐにでもセツカに教えて欲しかったです」
「うーん、困ってるわけじゃないんだ。ただ、なんて伝えればいいのかなって」
「それが困ってるのではないですか!」
「ごめんごめん」
「もう……私はそんなに頼り甲斐がありませんか」
「むくれてるセツカも可愛くて、つい」
「半分嘘ですね。でも半分は本当のようなので許せます♪」
適わないなぁと零斗様がぼやく。
私は、彼が落ち着いて話せるまで幾らでも待つ構えです。でもあまり意味はありません。だってすぐに話してくれると、伝わっているのですから。
「あのね、セツカ」
ゆっくりと、慎重に。
零斗様が打ち明けていきます。
「昨日、キミじゃない氷女の女の子と会ったんだ」
少しだけ驚きはしたものの、おくびにもださず。
頷いて、先を促しました。
そのタイミングで、空からは雪がちらちらと舞い降りてきたのです。
◆◆◆
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