②
◆◆◆
==サイド:セツカ==
雪花祭り二日目のデートは、たくさんのお店を見て回りました。
零斗様のご迷惑になっていたらイヤだな……。そう思っていたのですが、手を握ってくれたこの方は嫌な顔ひとつしません。
たとえ周りから見て表情が乏しくとも、セツカにだけは分かります。零斗様はこのお祭りを大変楽しんでいらっしゃるようです。自分が運営に関わっているのも関係しているのでしょうが、温かく賑わう町の光景に胸を熱くしております。
私も同じ気持ちです。
なんて温かい熱なのでしょう。
そこかしこが良い命の熱であふれているようです。お祭りというのはこんなにも素晴らしい物なのだと実感する次第で、あっちこっちがキラキラと輝いています。実際に飾りつけも煌めいてしているし、普段よりもずっと多くの明かりが灯っているのですが、とにかくキラッキラです。魅力いっぱいなのです。
家族だけではなく恋人同士で来訪されている者も多いです。
手を繋ぐだけでは足らず、腕を組む方もしばしば。アレでは雪と氷で転んだら大変なことになりそうですが……うらやましいです。
「こら」って怒られちゃうでしょうか。
そう思いつつも、ちょっとだけのつもりですれ違った恋人達の真似をして、腕を組んでみたところ――――。
「今日は寒いかな」
そう口にした零斗様は「しょうがない」といったご様子で、特に私を諫めることもなく身体を寄せてくださいました。
ソレが彼の照れ隠しであると、もちろん分かっています。何の理由もなく続けるには少々照れちゃうんですよね。だから「くっついた方が寒くない」と、暗におっしゃっていると。
そうとくれば、私はこの好機を最大限利用します。
人目も憚らずにくっつきます。ベタベタです。イチャイチャです。頭だって預けちゃいますよ、せっかくですからね♪
「ふふふ♪」
「そんなに寒いかい」
「はい、そんなにです」
「……なら仕方ないね」
「うんうん、仕方ないんです。仕方ないので、もっと近くに寄ってもいいですか?」
「これ以上どうやって?」
「零斗様のコートの中に入るというのはどうでしょう。こう、すっぽりと!」
さすがに了承されませんでした。
ちょっと残念です。
さておき。
大通りに始まり、裏道や商店街、この日のために用意された出店の特設スペース等。色んな場所を見て回っていると、あることに気が付きます。
一般的なお店に交じって、この町や地域の特色が色濃いものがあるのです。
雪や冬を象徴する雑貨。氷女をイメージした小物やアクセサリーが多く、お土産として親しまれているようでした。
その中には可愛らしさを誇張された商品も含まれており、人間からすると氷女はこんな風に見えるのかな~? と思った瞬間に笑いがこみ上げてきました。
里のみんなが知ったらどんな反応をするでしょうか。あまりにも似てないので怒るかもしれませんが、果てさて……それはそれで私には望ましい物です。
「やっぱり気になるかな」
零斗様は私の興味がどれに向いているか理解しているのでそう聞いてくれましたが、悪く感じていたわけではないのです。
こんな形で伝わっているのなら、それはそれで良いのではないかと。
だって、余りにも生々しく伝わっていたら多少なりともイヤになってしまうかもしれないので。これぐらい緩く穏やかな方が私は好きです。
だから私はその気持ちを一纏めにして返しました。
「いえいえ、こんな感じなんだなぁと思っただけです。この氷女の雑貨は、皆さんに愛されているのかなーと」
「愛されてないなんて事はないよ。雪花町の名物商品として認識されていて、お祭りじゃなくとも結構な数が売れてる。そう聞いてるよ」
「それは良かったです。ならば、私もいくつかお土産に買ってみるのがよろしいですかね」
里のみんなに。
変化の切っ掛けになることを願って。
◆◆◆
ぽてぽて歩き回っていると、見覚えのある会場が近づいてきました。
零斗様が企画した雪像のメイン会場です。
「わっ、人がたっくさんいますね」
「閑古鳥が鳴かなくて一安心だ」
「零斗様があんなに頑張ったのですから当然です!」
「スタッフが頑張ってくれた成果だよ。それに、セツカが力を貸してくれなかったら絶対に見れなかった光景でもある」
「お力になれたなら何よりです」
「キミには、本当にいつも助けられてるよ」
真正面から純真無垢に感謝されると、面はゆいです。
もう、零斗様の氷女たらし♪
胸がポカポカして大変なことになっちゃうじゃないですかッ。
「少し見ていってもいいかい?」
「もちろんです」
二人一緒に設置されたゲートをくぐると、会場は雪像を見に来てくれた観光客で昨日以上に熱であふれていました。
いっぱいお写真を撮っておられる方もいます。とても高そうなキャメラでパシャパシャしてます。あの写真はどこかで掲載されたりするのでしょうか、機会があれば見てみたいですね。
「あっ」
「子供達も大喜びだ」
会場の一部エリアには、かまくらと高さのある斜面による滑り台が作られているのですが小さな子供達が大はしゃぎで楽しんでいました。実はアレ、私が氷女の力を使って集めすぎた雪の固まりに手を加えたものが原型だったりします。
何もかもが失敗せず上手くいくことはないを体現したものですが、職人の源蔵さんがちょっと力を貸してくれたので有効活用されたのです。
「セツカが意見を出した滑り台。喜んでもらえて良かったじゃないか」
「はい♪」
「せっかくだから滑ってみたら?」
「もうっ零斗様? 私はそこまで子供じゃないですよ」
「ごめんごめ――」
「なので一回だけにします♪ 零斗様も一緒に滑りましょう」
強引に零斗様を引っ張っていった滑り台は、会場全体を見まわせる高さもあって良い景色であり、滑り心地も大変よろしいものでした。
せっかくなので零斗様には私を背中から抱きしめるような形で滑ってもらったのですが、アレはいいものですね! テレビに映っていた光景を真似たのですが悪くありません。
「…………うっ」
「どうかされましたか? 落ち着きがないようですが」
「俺達、すごい目立ってたみたいでね。子供達から大注目されてたんだけど……セツカは気にならなかった?」
「いえまったく」
きっとらぶらぶな私達に対する祝福と憧れの視線でしょう。
どうぞ皆さんも真似してくださって大丈夫ですよと言いたいです。
「セツカは強いなぁ」
「零斗様の方がお強いですよ。昨夜も私は喘がされてばかりだったではないですか」
「…………トランプゲームの話だよね?」
「他に何があると?」
「……ううん、ごめん。今のは俺が良くなかった」
「???」
何故かはわかりませんが零斗様は「良く分からなくていいから、さっきのような発言は外ではあまりしないように」と念を押されました。何故?
――そんな一幕もありつつ、雪像会場をぐるりと見て回り終えて、別の場所に移動する直前。
零斗様の視線と足が、ひとつの雪像の前でピタリと止まりました。
しばらくそのまま眺めているその雪像は『氷女』と『英雄』がこらしめている場面を象った大きなものです。
零斗様から聞いてはいましたが、コレが人里に強く伝わる伝説なんですよね。
何がどうしてこうなったのか。いくつかの不思議さを感じずにはいられないのですが……昔のことですしね。
ただ、何やら今の零斗様はその雪像がかなり気になるご様子。
そういえば車が突っ込んだのもこの雪像でしたっけ。……はっ、もしかして私の修復作業に気付かぬところで重大なミスがあったのでは!?
「零斗様」
「ん」
「どこを直しますか!? ご命令してくだされば、どうとでもやってみますよ!」
「何の話だい」
「修復作業のどこかにお気に召さないところがあるのでしょう!?」
「いやいや、無いよそんなところは。むしろセツカが手を貸してくれたおかげで前より立派になったくらいだ」
「……そうですか?」
「うんうん。えーと、ほら、あまりにもちゃんとしてるから凄いなーって思ってね。これならきっと勝手に崩れるなんてことはないし、きっと車が突っ込んできても耐えられるよ」
穏やかな気持ちで口にする零斗様。
この時の私は、そんな零斗様に対してそれ以上お声をかけることはありませんでした。
それよりも楽しいおデートを続ける方が重要だったので!
後回しにしたのです。
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