デート・デート・デート♪
「それでは零斗様♪」
「うん、行こう」
しっかり現代人の若者風に服を着こんだセツカを連れて、家から出発する。
今日は雪花祭りの二日目。
一日目に雪像が壊れるトラブルがあったが、雪像は直したし、その後の各種連絡や処理もなんとか終わらせることができた。
なので事前に予定していたとおり、本日はセツカと一緒にお祭りを楽しむことが出来るようになったのだ。
まだ開催時間から間もないというのに、表通りに出た途端にたくさんの人達がワクワクしながら出歩いている。普段は閑散気味の商店街も賑わっており、飾りつけに彩られて華やかだ。積もった雪はそこら中に残っているし、気温が上がったわけでもない。それでも、寒さの白よりも温かさや熱気の暖色があふれている。
「今日はセツカの行きたいところに行こう。どこがいいかな」
「零斗様が行きたい場所に行きたいです!」
「遠慮しなくていいよ」
「いえ! 心から思っています」
「……本当に?」
「はいッ」
「…………」
なんともセツカらしい発言に対して内心気持ちをふにゃふにゃ緩めつつ、じーっと彼女の綺麗な顔を見つめる。しばらくそうしていると少なからず照れた表情を覗かせながら、気恥ずかしそうにおねだりが出てきてくれた。
「あの……少しだけしてみたい事はあります。零斗様のご迷惑でなければ、ですが」
「迷惑なんて何一つないよ。言ってみて」
「お祭りのお店を全部、見て回ってみたい……です」
「たくさん歩かないとだね」
「手、手を……繋ぎながら」
「転ばないようにしないとだ」
「そこはあのっ、私の力で覆って安心安全に絶対転ばないようにするので!」
「そこまで気合いを入れなくても大丈夫だよ」
長袖の先から出ている可愛い手を握る。
セツカの顔がパァァと明るくなったが、ほんの少しだけ残念そうでもあった。
あれ? と不思議に感じつつ、すぐに原因に気付いた。
付けていた手袋を外して、毛糸ではなく素肌で触れ合い、指を絡ませる。
氷女であるはずの彼女の手は、俺よりもずっと温かいようだ。
「え、えへへへ♪ あったかいですね」
ギュッ、ぎゅっと何度も握ってくるセツカの頬が赤い。
嬉しさと照れが同居しているのだろう。
……おねだりに応えておいてなんだけれど、俺はそれどころじゃない。
もしこの顔が普通の人のように機能していたのなら、今頃はセツカの何倍も赤いリンゴ――いや、トマトのようになっていると思う。しかもひどく焦げ付いてるヤツで。
「まずは近いところから順番に見て行こう。人がたくさんいるから気をつけて。もし気になるお店や物があったらすぐに言って――」
「ふふふっ、零斗様。そんなに早口でおっしゃらなくても大丈夫ですよ」
「ん」
「照れてる零斗様も素敵です。可愛いです♪」
「まさか、セツカからそんな風にからかわれるとは……」
「私だってやる時はやりますよ~、いっぱい攻めちゃいます♪」
お茶目に肯定されると、なんと返したらいいかわからない。
「お手柔らかに」
そう返すのが、今の俺には精一杯の反撃だった。
◆◆◆
いい匂いのする屋台。
特産品や自慢の一品を売り込むお店。
見慣れない珍しい物から実用的な商品が並ぶ雑貨屋、等々。
何かしらを販売しているお店ですら、かなりの数がある。さすがに夏のお祭りでよく見かける金魚すくいやカキ氷と冷たいドリンクを売る半被のあんちゃんはいないが、その分温かい飲み物や食べ物の出店はよく出ていた。
「おぉ~~~」
遊び盛りの男の子みたいな声をあげながら、隣にいるセツカが興味津々にひとつひとつを見て回っている。昔の自分がこうだったかは上手く思い出せないが、きっとお祭りというものを初めて目の当たりにした日はこんなだったのではないか。
とにかくセツカは楽しくて仕方ないといったご様子だ。
やっぱり新鮮さが違うのだろう。行き慣れている人にとってはよく見かける定番の物であろうと、氷女のセツカにとっては聞いたことはあっても体験なんてしたことのない人間のイベントなのだ。
ここで物怖じしないであっちへこっちへ嬉しそうに闊歩する辺りが、この子らしいといえばこの子らしいが。
「零斗様零斗様。この前食べた熱々たこ焼きのでっかいのがありますよ」
「ジャンボたこ焼きってヤツじゃ――あ、違った。コレはボムボム焼きだ」
「ボムボム焼き……? よく弾むんですか?」
「ぼむんぼむんみたいな? あったら面白いだろうけど、えーとなんて言えばいいかな。タコ焼きよりもずっと色々たくさんの具材が入った丸い揚げ物みたいな」
「タコだけではなくイカも入っていると?」
「海産物だけじゃないと思うよ。ほら、メニューにたくさん種類があって、それぞれ味付けやトッピングが違うみたいだ」
ぱっと見でもキッチンカーの掲げられているメニュー表には、約十種類のボムボム焼きが表記されていた。ベースになる『レギュラー』から始まり、和風の味付け、洋風の味付け、チーズ山盛りに辛みたっぷり、中にはカレー味なんてものまである。
「…………美味しそう」
「食べてみようか。どの味がいい?」
「え、ええと、ええと…………たぬきか旨辛がイイのですが、二つは多いですよね。うぅ、どっちにしましょう」
「じゃあ二つ頼んで俺とシェアしよう。それならどっちも味わえるから」
「お、お願いします! すいません、注文いいでしょうか」
「あいよぉ!」
威勢のいい声で若い店員さんが接客してくれる。
最近のセツカは大分人里慣れしてきており、食べ物の注文も普通に出来るようになっている。最初はあせあせしながら頼んでいたのですごい進歩だ。
なので安心しきって後ろから見守っていたらのだけど、ここでセツカの面白いところが飛び出た。
「あの、たぬき味と旨辛を1個ずつください! たぬきはたっぷり臭みを抜いたので」
「……へい、たぬき味と旨辛を一個ずつっとぉ! ……ん? お嬢ちゃん、今なんつったんだい?」
「たぬき味と旨辛を」
「その後は?」
「たぬきはたっぷり臭みを抜いてくださいと」
「くさ……?」
きょとん顔の店員と「あれ??」と首をかしげるセツカのミスマッチ。
そのすれ違いに気付くのに時間がかかった。
「セツカセツカ」
「はい、零斗様」
「セツカが注文しようとしてるたぬき味は、正確にはたぬきレギュラーなんだけど。狸レギュラーじゃなくてたぬき(揚げ玉)レギュラーでね。カラッとした揚げ玉がトッピングされてる物で、別に動物の狸が入っているわけじゃないんだ」
「………………ふえぁ!?」
自身の勘違いに気付いたセツカが可愛い悲鳴をあげると、ボムボム焼きの店員さんが「なるほど」と豪快に笑った。
「だっはっはっは! お嬢ちゃん、ワイルドに天然だねぇ! よっしゃ、特別イイヤツを用意してやっからちょっと待ってな!」
「ち、違います違いますから! 別に、私は狸が食べたかったわけではなく、狸味ってどんなのかなぁって気になって――」
「大丈夫、尻尾は付いてないよ」
「れ、零斗様ぁ~~~」
店員と俺に挟まれて、セツカがその場でちっこくなってしまう。
その様子があまりにも可愛くて何度か狸ネタでからかっていると、
「むぅ~~~~」
ポコポコと何度も叩かれてしまった。
けれど、店員さんが作ってくれたボムボム焼きを食べるとすぐに、
「トロトロ! カリカリ! お、美味しい~~!!」
ものすごくご機嫌になった。
うん、可愛い。
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