④
◆◆◆
「それじゃココで待ってて。すぐに買ってくるから」
「はい♪」
セツカを野外のベンチで休ませている間に、屋台の食べ物を買ってこようと人混みに入っていく。
そこで。
俺の視界の奥に、白い着物を着た少女が一瞬映った。
「え」
セツカではない。
そもそも彼女はベンチに座っているはずだし、今見えた少女はセツカよりもずっと背が低い。おそらく小学生ぐらいではないか。
明らかに別人だ。
だというのに、俺はその子がひどく気になっている。
何故か。
だってその子は、セツカと同じような白い着物姿で、セツカと似た色の髪をしていたのだ。
不思議なことにあんなに目立つ格好をしているのに、周囲にいる人々は誰も彼女の存在に気付いていないかのようだ。
無視しているわけではない。ただ、そこにいると認識出来ていないかのように。
まさか俺にしか見えていない……なんて事はないと思うが。
その子がいる方向をじっと見つめていると、
――目が合った。
ほんの刹那の時間。少女がわずかに口端を釣り上げて、不敵に笑ったように見えた。その笑みを目の当たりにした途端、ぞくりと氷のような冷たさが背筋を伝う。
セツカとよく似た子。
けれど、その中身はまったく似ていない。
「ねえ、あなた」
「ッ」
多少距離は離れているはずなのに、少女の声がクリアに耳に響く。
声を張りあげるわけでもなく、ただ淡々と呟いているだけのように見えるのにも関わらずだ。
空気が張りつめて体が強張る。
周囲の人混みによる喧騒が遠く感じた。セツカに似た少女が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。まるで人々が彼女に道を譲るように左右に分かれてできた道を、悠々と進んでくる。
俺の身体は凍ってしまったかのように、固まって動けない。
「ひとつだけ答えて?」
「……な、なにを」
「セツカはどうしてる」
「!?」
初対面の子からその名が出てきた。
その意味がわからない俺じゃない。
「…………ああ、ごめんなさ――ううん、ごめんねお兄ちゃん。いきなり変なこと聞いちゃって」
「え、あ……ッ」
にこりと少女が笑いながら指で俺に触れると、身体が動いた。
どっと汗がでて冷えてしまったのか。背中はまだ冷たい。
「突然聞かれても答えられないよね。でも、同郷の身としてはセツカちゃんが人里でどうしてるかはやっぱり気になるから」
「……セツカの知り合い――ってだけじゃないな。キミは、あの子と同じ――」
「話が早くて助かるなぁ。もしかしなくても、セツカちゃんとけっこう色んなお話をしてたりするのかな? 本当はイケないんだけど、セツカちゃんだしね」
「……セツカを連れ戻しに来たのかい?」
「ううん、今日は少しお祭りを覗きに来ただけ。せっかくだしね」
「雪花祭りに……」
「いつもより人が多いみたいだね。悪くない。ムッとするところもあったからあんまり長居はしないけど」
「そう、なんだ」
「うん。今日はこのぐらいでバイバイだね、また会う機会も――あるかはわからないけれど、この町に居る限りはありえない話じゃないか」
「セツカに会っていかないのか?」
「別に、会いたいわけじゃないから」
ドライだ。
ただ、無性にその言動がしっくりきてしまう。本来あるべき姿で、ただそのままココにあるかのように思える。
「じゃあね、お兄ちゃん」
「う、うん」
「…………ねえ、一個だけ忠告してあげる」
すっと距離をとった少女が、するすると人混みの間を移動していく。
姿が見えなくなっても、その声は俺に届いた。
「セツカちゃんとは早くお別れした方がイイよ」
一際冷たく感じる抑揚で、こともなげに彼女は告げる。
「死にたくないならね」
「!?」
投げられた不吉な言葉に驚愕しながら、少女の後を追おうとする。
しかし、もうどこにもあの子の姿はない。
ただ、嫌な感じがする冷たさと言葉だけが胸に残り続け、先に買っていた温かい食べ物はすっかり冷えてしまっていた。
◆◆◆
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