壁を越えて⑧

最終ポイントに到達するのには時間はさほどかからなかった。その間1度も振り返らなかったけど、ドラゴンはちゃんと付いてきていた。この状況でも、自分がこんなちっぽけなアライフに負けるなんて事は考える事すら出来ないのだろう。おそらく生まれてからこの瞬間まで、彼の生命を脅かすアライフは存在しなかったのだろう。到底理解出来ないそれが現れた今日、彼は初めて負け、そして死ぬんだ。


最終ポイントの上を通過。その約50メートル先の赤いバツ印まで駆け寄る。そして踵で思いっきり踏む。同時に小さな瓦礫の山が吹き飛ぶ。その中からは固定式のガトリングガンと、今日のボクの相棒の弾丸が現れた。

まずは相棒のランチャーに弾丸を装填。その後すぐにガトリングガンの動作確認。どちらも問題無い。

そうこうしているうちに、ドラゴンが間もなく設置した罠の上に到達する。もう何も焦る事は無い。後は罠で動きを封じ、ありったけの弾丸を撃ち込んむだけだ。もし先に弾丸が尽きたら……その時は一目散に撤退。もしそうなったとしても、ドラゴンに追いつかれることは確実に無い。

つまり、ボクには勝利はあっても敗北は無い。

まぁ大量のゲノムは無駄に失ってしまうけど。


とにかく完璧だ。


よし、来た。


こめかみに指を当て罠を遠隔操作で発動。


四方八方からワイヤーの付いたアンカーがドラゴンの体に突き刺さる。


驚きと衝撃、苛立ちがごちゃ混ぜになったドラゴンはのたうち回るが、アンカーは外れない。弱り切ったドラゴンでは振り払う事も出来るはずもなく、ただただジタバタするばかり。


後はもう、狙いなんてどこでも良さげだな。


固定式のガトリングガンをドラゴンの体のど真ん中に照準を合わせ、引き金を引く。

反動がすごい。銃身がブレる。その都度ドラゴンの体の中心辺りに照準を戻す。

ガトリングガンの弾を全弾撃ち尽くすのには数分もあれば十分だった。


ランチャーと違い爆煙が上がらないため、弾丸がドラゴンの体が徐々に吹き飛んで行くのが見えた。ガトリングガンを撃ち終えると、ドラゴンは大きく頭を上下させるだけで動かない。正確には動けない様だ。


もう決まるな。


ボクは地面に置いてあったランチャーを拾い、構える。後はこれを全弾撃ち込むだけだ。6発入のマガジンが6つ。おそらくドラゴンを倒すにはお釣りが来る程の数だろう。


ランチャーを6発。そして爆発。


噴煙が消えないまま次の弾丸を装填。


続けてまた6発。狙いはさっきと同じ。おそらくドラゴンはもうアンカーを振りほどく力は無いはず。最早正確に狙いをつける必要も無いだろう。どこで爆発が起こっても、そのダメージを防ぐ程の装甲はもうドラゴンには無い。


立て続けにランチャーを撃つ。次々とマガジンを取り替え、あっという間にマガジンを4つ撃ち切った。


残りマガジン2つ。つまり後12発。噴煙が風に流されるのを少しだけ待つ。


噴煙の中からゆっくりとドラゴンが姿を現す。


それは最早、あの悠然たる王者の風格は微塵も無い。


ランチャーの爆発によりワイヤーのほとんどが切れているにも関わらず、ドラゴンは歩く事すら、羽ばたく事すら出来ないようだ。


そして何より、頭部はその左半分がほとんど吹き飛んでいる。辛うじて残っている右目はどこを見ているかも分からない。


これなら……後は頭部を狙えば行けるな。


ランチャーを構える。照準は頭部、さらに右半分だ。

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