壁を越えて⑦

次のポイントにはすぐに到達出来た。ここは最終ポイントから約200メートル。振り返ると約50メートル程先にドラゴンが確認出来た。


よし、十分な距離を稼げているぞ。


落ち着いて地面に隠してあるスイッチを探す。瓦礫で覆って隠したそれは、分かりやすいように瓦礫に赤いペンキでバツ印を付けてある。その瓦礫を退かすと下から直径30cm程の赤いスイッチが出てきた。

ここの装置は同期するタイプじゃなく手動で動かすタイプにした。まぁ足でスイッチ押すから手動じゃないけど。


右足の踵で勢いよくスイッチを踏む。


踏むのとほぼ同時に、瓦礫が崩れ軽く吹き飛ぶ音がした。それは地面に隠れていた3枚の板状の防護壁が起き上がった音だった。

3枚の防護壁は1枚を先頭に、残り2枚はやや斜め後ろに配置してある。そして前の1枚と後ろの2枚は少し離れて配置してあるため、その間から銃身を出して打ち出す事が出来る。安全に、かつ一方的に攻撃を仕掛ける仕掛けだ。


そして足元には予備の弾丸が入ったケースがせり上がってきた。

素早くケースを開け、弾丸を補充。すぐさま後方左の防護壁に身を隠し、先頭の防護壁との間から銃身と顔を覗かせた。


ドラゴンは起き上がってきたちっぽけな板など気にも止めていないようだ。そのままボクと一緒に蹴散らすつもりなんだろう。

まだドラゴンに遠距離攻撃の手段が残っていた時のために用意した物だったから大して役に立っている訳じゃないんだろうけど、それでもボクの気持ちを落ち着かせるには十分だ。


「さて……いよいよ大詰めだなぁ……」


思わず口のスピーカーから声として漏れ出ていたけど、それを聞く生物は近くには誰も居ない。いわゆる独り言と呼ばれるやつだ。


そう、この戦闘も大詰めなんだよ、ドラゴンさん。


ボクはとても落ち着いていて、それでいてとても高揚した気持ちで引き金を引いた。


まだまだ距離は離れていたけど6発全て命中。着弾点はだいぶバラバラで誘爆せず、大きな爆発は2回に分かれたけど十分なダメージを与えられた様だ。


素早く次の弾丸を装填。


また板の隙間からドラゴンを狙う。


今の攻撃が思ったよりも効いたようで、ドラゴンは前のめりに転び、翼を使って起き上がろうとするがよろけてコケるを何度も繰り返していた。


「いいんじゃなぁ~い?」


またしても独り言。独り言って気分が乗ってる時に出るもんなのかな?


このポイントに用意したありったけの弾丸を撃ち込んだ。さすがにだいぶ弱ってきたのか、ドラゴンは翼で体を覆うようにして耐えている。その翼もすでにボロボロになっている。


ボクの攻撃が止んだのを察したのか、ゆっくりと翼を開きこちらを睨んだ。

その体は全身かなりボロボロになっており、あと一息でこの戦闘が終わる事を感じさせる。


それでもなおドラゴンはこちらに向かって歩いてくる。その両目は死を間近に感じている物ではなく、自分より弱い者に与えられた屈辱に対する怒りに満ち溢れているように見える。


左足を引き摺りながら、真っ直ぐにボクを見て歩みを進める。距離はもはや20メートルと言った所まで縮まっている。でもボクに焦りなんか微塵もない。彼には理解出来ていないだろうが、ボクには確信を持っている。ボクの勝利は目前だよ。


ボクはくるりと踵を返し、また走り出す。次のポイント、最終ポイントとなる罠を設置した場所へ。

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