初陣②

目的のアライフまでの距離を詰める。慎重に、出来るだけ急いで。その間も周囲をドローンで確認する。どうやらアライフはあの3体以外は居ないようだ。


もちろんSAにコンバートしている状態で走ったとしても息切れなんてしない。ましてや動悸が激しくなる事も無い。でもなんだか心臓の鼓動が早くなる様に感じる。これは緊張感と言う、精神が肉体に及ぼす影響を脳が再現しているからだろう。実際は本体の体はコンバートしている間は仮死状態にあるから、鼓動が早くなったりはしない。


でもすごくドキドキする。なんでだろう?


すぐに目的のアライフまで1kmの位置まで来た。


ドローンを低空飛行させ、この辺一帯のビルを見回らせる。あのアライフを狙撃するのに適した場所を見つけなくては。


ドローンが示した場所は3か所。アライフからの距離は一番遠いが、ここからは一番近い場所に決めた。


今は廃墟となったビルの5階。アライフとその場所の間には高い建物もなく見通しが効く。距離が遠いのが難点で、銃弾が当たるかどうかが問題だけど、裏を返せば、銃弾を外したとしてもこの距離なら逃げ切れるだろう。


何より生きて帰るのが最優先だ。


狙撃場所に決めたビルまで到着した。幸い建物自体の崩壊はそれ程進んでいない。もちろんエレベーターなんて機能していないから非常階段を5階まで登る。SAで登るから体力的に大変な事は無いけど、やっぱり階段はめんどくさい。


5階にたどり着いた。ここはワンフロアが全てひとつの部屋になっていた。確かオフィスって言うんだったかな?特に荒れることも無く綺麗に並んだデスク。その上にPC。でも今はそれらには用はない。


真っ直ぐ標的のアライフが居るであろう方角の窓際へ向かう。


もう一度慎重にドローンとボクの視界とで目標のアライフを確認する。


距離は約800m。


標的は3体。


SAのスコープをカスタマイズしていたから、ライフルのスコープを覗かなくても直接目視で確認出来た。

あ、じゃライフルに付いているスコープは要らないじゃないか。


ライフルに付いているスコープを取り外しながら周りを見渡す。


窓のすぐ傍に、このフロアで唯一豪華で大きなデスクがあった。なんでこれだけ大きいのかな?誰が座るための物だったんだろ?


高さが窓枠よりも少し高く、ライフルを置くだけの広さもあった。丁度いいや、こいつを使おう。


騒々しく音を立てながら豪華なデスクを窓ギリギリまで引っ張ってくる。


「さて……と」


ライフルを豪華なデスクの上に置き、改めて標的を確認する。


『良く観察して良く考えるんだ』


お父さんがいつも言ってたっけ。


標的のアライフは大柄。動きは遅い。頭を下げ、地面を探る様子からして、おそらく地面を這う小さ目なアライフを探して食べているんだろう。まさか今自分が狙われているとは夢にも思っていない様子だ。


アライフって夢見るのかな?


3体の中、1体だけが少し離れた位置にいる。たぶん運良く食料を見つけたんだろう。食べる事に夢中なようだ。


コイツから狙っていこう。


GRG13の引き金に指をかける。


この距離だ、少しのズレも着弾地点では大きなズレになっているだろう。引き金を引くのにも最新の注意を払わなくては。


『引き金は引くんじゃない、絞るんだ』


お父さんが言ってたな。そう意識した方が銃身がブレないらしい。


絞る……絞る……。


頭の中で何度も唱えながら、じっと標的のアライフを見る。


そして、引き金を絞るように引いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る