第6話 道化師

 吾郎は、制服フェチという性格から、ついつい風俗系に流れがちであり、結構の風俗に手を出したりしていた。

 しかし、中には、いわゆる、

「ぼったくり」

 と言われるようなところにも、迂闊にも入り、5万近くも吸い取られたこともあった。

 実際には、悔しさで胸をかきむしりたくなったが、元々、知らずに飛び込んだ自分が悪いのであって、下手に逆らうと、怖い兄さんが出てきて、ボコボコにされる恐れがあった。それこそ、

「○○ポッキリ」

 などというのほど、胡散臭いものはないと思いながらも、なぜに手を出したのか、その時の心境を思い出すことができない。

「まるで、夢を見ていたかのようだ」

 と感じた。

 それにしても、高い授業料であった。そう思うしかないのは分かっているが、すぐは、どうしても、むしゃくしゃしてしまった。

 しかし、

「熱しやすく冷めやすい」

 という性格の吾郎は、すふに、

「やっぱり授業料が高かっただけだ」

 と、意外とアッサリと諦めた。

 だが、欲情の虫は収まらなかったのだ。

「このまま、帰るのは、俺の気が済まない」

 と、思い、馴染みのお店に出かけていった。

 その時はちょうど、フリーだったのに、あまり客がいない日で、普段であれば、指名できないような子が、ちょうど開いていた。

「じゃあ、この子で」

 ということで入った。

 確かに、あの日は、会社でポカをやってしまい、上司からこっぴどく叱られた日だった。悪いのは、完全に自分だったので、文句を言うわけにもいかず、しかも相手は直属の上司、何も言えるはずもなかった。

 ふらりと風俗街にやってきて、最初はソープにでも行こうかと思ったが、ネオンサインが普段い比べて眩しく感じ、どうにも足が向かなかった。

「こんな日は、暗いところの方がいいんだろうか?」

 と、暗い方に導かれるように歩いたのだった。

 それが悪かったのだろう。暗闇に吸い寄せられる虫を、虎視眈々と狙うクモのように、気が付けばクモの巣に捉えられ、逃げられなくなったのだ、

 最初は女神に見えた女が次第に、女郎蜘蛛へと変化する。風俗街においてなので、まさに、

「女郎」

 である。

 どんどん、ビールを追加したり、お障りいくらなどと、勝手にこっちが何も言わないのを見て、追加していく。

「ヤバイ」

 と頭の中では思っているのに、女郎蜘蛛の糸から逃れられなくなっていた。

「もうどうでもいいt思った時には、6万円」

 さすがに、値段としては想像通りだったが、酔いが覚めたのは、値段を聞いたからではなかった。ハッと女の顔を見た時、本当の女郎蜘蛛の化身に見えたからだ。

「こんな女に、この俺が」

 と思うと、逆らうこともできない立場に、悔しさがこみあげてきた。

「一発でも、誰か関係者をぶん殴っていいのであれば、6万くらい、くれてやる」

 というくらいに思ったのだが、それができない自分に苛立ったのだ。

 何と言っても、何もできなかった自分が悪いのだ。こんな店に誘い込まれて、身ぐるみはがされなかっただけでも良かったと思えばいいのか、ただ、自分でも分からない、身震いが襲うのだった。

 もう、こうなったら、

「口直ししなかい」

 馴染みの店に行って、リベンジしかないと思ったのだ。

 一歩間違えれば、それこそ、返討に遭うだろうに、そんなことも思いつかず、またしても、フラフラと、以前に行ったソープの方に歩いていった。

 そのあたりでは、もう、ほとんど客引きはやっていない。つまりは、風俗街でも、足を踏み入れてはいけないところに、フラフラと入り込んでしまったということなのだろう。

 店の前に、いわゆる、

「黒服」

 と言われるような、お兄ちゃんはいるが、決して声をかけて来ようとはしない。

 それだけ、その頃から、警察の目が厳しかったのだろう。ちょうど時代的に、オリンピック招致などを国内で決める候補地が、ある程度まで絞られてきて、この歓楽街がある街も、まだオリンピック候補に残っていた。

 ただ、その時に日本代表になった候補日は、結局、外国の都市に敗れてしまい、日本開催が及ばなかった。

 結局その20年後に、東京開催という形で実ることにはなった。

 ただ、下手に候補地などになると、候補地になった時点で、法律が厳しくなる。

 特殊風俗営業は、基本的な法律として、

「風俗営業法」

 というものがあるが、実際に施行させているのは、

「風俗営業法で決まっている範囲内で、決める各都道府県の条例」

 となるのだ。

 だから、他の県とは関係なく、県で決まった法律が、風営法に準拠しているので、そのまま法律として生きるのだ。

 つまり、県によって、決まりが違う。

 例えば、県によっては、

「県内で、ソープを営業してはいけない」

 というような条例があったり、

「○○市○○区では、パチンコ、ゲームセンターなどを経営してはいけない」

 というような法律があったりするのだ。

 しかも、ソープなどというと、ほとんどの県では、ある一定の場所以外では経営してはいけないようになっている。

 それこそ、吉原、玉ノ井などのように、いわゆる、

「ソープ街」

 というところでしか、営業ができないようになっている。

 やはり、一般市民が間違って入らないようにするためなのかも知れないが、ソープなどに関しては、結構、その法律は厳しいものだったりするのだ。

 さらに、新規事業として、それまでソープを経営したことがない企業が、新たに事業拡大でソープを経営してはいけないことになっている。他に店舗があって、2号店経営などという場合はいいのだという。

 だから、老朽化の場合はしょうがないのかも知れないが、基本的に店の大規模改造は許されない。

 事情があって、店を閉めたところに、あらたに別のソープの店を経営する場合は、ちょっとした店内改装程度に収めておかなければならないという。

 もっとも、経営者もそこまで金があるわけではないので、そんなことは、百も承知ということであろう。

 そんなことがあり、ソープ街というのは、他の世界とは隔絶された世界だと言えるだろう。

 それこそ、昔の遊郭のようなものである。

 その日は、いつものソープに二回目に、まさか顔を出すことになるとは思ってもいなかった。

 それは店員も同じことで、馴染みの店ということもあって、店員とも顔見知りで、最初来た時、

「ああ、すみません。今すぐにご用意できる子がちょうどいないんですよ」

 と、実に残念そうな表情をした。

 なるほど、受付のパネルで、すぐに行ける子という表示が普通ならあるのに、その日は一つもついていなかった。

 そもそも、その日は、ちょうど金曜日だった。多いのも無理はないことで、自分が受付で、店員と話をしている時、ちょうど女の子の準備ができたのか、受付から、店員が待合室に入っていった。

 普段は、待合室で待つ方なので、店員が動き回っているところを見ることはない。

「そうか、こんな感じで動いていたんだな」

 とその時は感じたものだった。

「まあ、すぐがダメなら、しょうがないな」

 といって、店を出てきたのだが、まさか、その後すぐに、ぼったくりに遭って、搾り取られてくるとは思ってもいなかっただろう。

 しかし、店員が、吾郎が舞い戻ってきた時の、憔悴した様子っで、ある程度のことは察したのだろうか?

「ちょうど、ランカーの女の子が、この後、キャンセルが入って、空いたんですが、いかがですか?」

 といってくるではないか。

 なるほど、その子は、電話を掛けても、予約できるその時間から、5分も経たないうちに、あっという間に埋まってしまう。

 後で知ったところによると、本指名という、いわゆる、

「リピーター」

 客に対しては、女の子が優先的に入れるという、

「姫予約」

 というのをしていたそうだ。

 だから、あっという間に埋まってしまう。

 もちろん、姫予約ができるには、何度もリピートし、女の子がよほど気に入らないと、ダメであった。

 しかも、最初から敷居が狭いのだ。まず、そこに入るのが、本当を言えば、一番難しい。

 その時のように、キャンセルが出て、そこにうまく埋めることができるかということで、実績を積むしかないのだろう。

 だが、いくらランカーの女の子とはいえ、そこまでして、予約しようとは思わない。

 確かに、最初は、抜けられない沼に嵌ってしまうほど、中毒のようになるかも知れないが、いくらオキニとはいえ、何度もその子だけに通っていると、絶対に飽きが来るものだ。

 そうなると、その子に対しての遠慮と、他の子に入ることで、入った子が、いじわるされたりしないとも限らない。

「キャバクラのお姉ちゃんのように、ナンバーワンである私の客を取った」

 と言わんばかりにである。

 本来であれば、

「ランカーで、これだけリピーターで毎回完売しているのに、一人くらいの客が離れたとしても、別に意識することはないじゃない」

 と、普通なら思う。

 しかし、風俗嬢というのは、かなりプライドが高い女性が多いという。それこそ、アイドルグループの中で、センター争いをしているのと似ているのかも知れない。

 そう、風俗の女の子は、客から見ればアイドルなのだ。客は、アイドルを応援する、ファンであり、営業を助ける、悪い言い方をすれば、

「金づる」

 なのだ。

 それを思うと、それまでの吾郎は、最初からランカーの女の子を狙う気はしなかった。今までであれば、

「ランカーの子が、ちょうどキャンセルが入って、空いてるんですよ。ラッキーだったですね。もうこんなことはありませんよ」

 と言われたとしても、吾郎は、

「じゃあ」

 とは言わないだろう。

 それだけ冷静に考えているからで、

「もし、その子に入れるラッキーだったとしても、もし、彼女に嵌ってしまって抜けられなくなることを考えてしまう。もし、同じように、指名合戦を繰り広げた時に、以前からの常連さんが強いに決まっているだろう」

 と考えた。

 女の子としても、常連さんを比べた時、古株の昔からの人を優先したくなるのは、風俗嬢に限らず誰もそうだろう。同じ立場で見てしまうと、必ずそこに不公平が出るとすれば、やはり古い人からというのが、人情であるに違いない。

 だが、その日は、半分、

「どうにでもなれ」

 という気持ちでやってきていた。

 しかも、最初に来てから、入れなかったために、他に行って、ぼったくられたのだ。この店でリベンジを考えるのは当然だろう。

 しかも、おあつらえ向きに、普段は入れないという女の子が空いているという。

「ラッキーですよ」

 などと言われると、入らないわけにはいかないが、そもそも、前のぼったくりでも、

「お客さん、いい子いるよ」

 といって、強引に引き込まれたのが原因だったではないか。

 この店でダメだったこともあって、向こうでも自暴自棄だったのだろう。自覚はなかったが、少しは放心状態だったことだろう。

 しかし、明らかに違うのは、向こうはまったく知らない店で、ここまでひどいとは思わなかったということであり、こっちも店は店員も馴染みの、少々のことであれば、都合をつけてくれるような店である。

 そういう意味で、

「ひょっとすると、俺の様子を見て。店員が気を利かせて、俺に話を持ってきたのかも知れない」

 と思うと、むげに断るのも、違うと思うのだった。

 結局、

「じゃあ、その子で」

 ということで、ランカーの女の子にすることにした。

 ここで、まさか、普段なら簡単に入れるような女の子を選ぶというのも、何か情けない気がして、どうせなら、

「毒を食らわば皿まで」

 というではないか、

「ダメならダメで、今日はそういう日だったということで諦めるしかない」

 と、感じるのだった。

 ちょうど、女の子は、すぐに行けるということで、待合室では、5分ほどの待ち時間だというではないか。

 予約をしてから来ても、普通でも、それくらいは待たされる。

 もっとも、そんな待ち時間も、結構いいもので、その時間に、精神的な戦闘態勢を整えるのであった。

 待合室に入ると、他の客は、一人いるだけだった。

 その人は、こちらを見ようともせず。ケイタイの画面を見つめている。初めて見る顔だったが、そもそも、吾郎が来る時というのは、それほど客が来ない時間を最初から見計らってくるようにしていた。待合室に他の客がいるというのも、あまり気分のいいものではないと思っているからだった。

 その客は、ちらりとも見ないことから、

「この人も常連なんだろうな」

 と感じた。そして、ランカーが空いたにも関わらず、その人を指名しなかったということは、最初から、

「俺は、オキニがいて、その子を指名したんだ」

 と言いたかったに違いない。

 だから、逆に自分にその白羽の矢が向いたということだろうが、こうなったら、せっかくなので、ランカーに入ればいいと思うのだった。

 自分よりも前に、最初に待っていた客が呼ばれた。

 妥当な順番であるし、女の子と会う前に、待合室で一人になるというのも、悪いことではないということで、吾郎としては、

「よかった」

 と思ったのだ。

 客が誰もいなくなってから、それまで2分くらいだったかと思っていたのに、そこからが、今度は少し長く感じられた。

 それまでの2分から考えて、

「そろそろ3分経ったのでは?」

 と思って、入り口を見ると、誰かが来ようとする雰囲気はなかった。

「どうしたんだ? そろそろじゃないのか?」

 と、普段ならイライラし始めるのだろうが、その日は最初から、リベンジのためということと、どこか放心状態がまだ残っていたということもあって、一歩冷静になれたのだ。

 そして。そのまま時計を見ると、本当にまだ3分どころか、1分も経っていなかったのだ。

「俺の感覚はどうしちまったんだろう?」

 と思い、それが、そもそもの放心状態から、時間の感覚がマヒしてしまったということから来ているのか。それとも、二度目のこの店で、日にちの感覚すら飛び越えたかのようになり、意識が朦朧としているかのように思えたのかではないかと感じていた。

 だが、冷静になれているおかげなのか、それほど焦りもなく、待ち時間が、それほど苦痛ではなかった。

 しかも、他に誰もいないということも幸いしたのか、自分の様子を誰にも見られていないと思うと、だいぶ、精神的に楽だった。

 と自分が落ち着いた気分になると、面白いもので、

「お客様どうぞ」

 といって、受付に案内された。

 普段であれば、緊張の一瞬で、もし、これが本指名の相手であっても、久しぶりに恋人に会うかのような新鮮な気持ちになれたのだ。

 しかし、この日は、何か新鮮な気持ちになっているような気がしていたのだが、実際には、受付までの道のりに、足が吸い付いてしまったかのように、足取りは重たかったのだった。

 受付までくると、いつものように、注意喚起が行われる。そして、いよいよ、

「カーテンの向こうに女の子がいますので」

 という、正直聞き飽きたセリフであったが、実際には、

「何度聞いてもいい」

 と思うのであった。

 いよいよ女の子とのご対面、

「俺には手の届かない、高嶺の花だ」

 と思っていた相手である。

 カーテンが開いて、そこに笑顔で立っている女の子を見ると、一瞬、拍子抜けした。

 ランカーというくらいで、予約困難嬢が、普通に笑顔で迎えてくれているではないか。どちらかというと、鼻につきそうなくらいの上から目線で見られるのではないかと思っていただけに、それは本当にいい意味で、裏切られたと思った。

「どうぞ、こちらに」

 といって、荷物を持ってくれる。

「暑かったでしょう?」

 といって、絶えず声をかけてくれるのを見ると、

「なるほど、これがランカーというものか」

 と心の中で関心したが、自分のお気に入りも、他に入った女の子も、その最初に限っては、それほど大差はなかった。

 ただ、ランカーだと思っていた相手が、ここまで、他の子に合わせるような低姿勢に出られると、それこそ、自分がまるで、竜宮城にでも来たような気分にさせられる。

 ある意味、このやり方が、彼女のランカーたるゆえんなのかも知れない、

 何しろ、こちらは、予約が困難なランカーに相手をしてもらっているという、ある意味引け目のようなものがあるために、錯覚してしまうのも、無理もないことだった。

 そういう意味では、ランカーという肩書があるだけで、普通の接客でも、他の女の子の倍の効果があるということなのかも知れない。

「なるほど、これだと、差が縮まるはずなどないよな」

 と感じるのだった。

 だが、それは、この時の吾郎のような心境でないと、たぶん感じないだろう、

 他の人はランカー相手で、しかも、そのランカーが、自分のために奉仕してくれ、自分の腕の中で、悦びの声を挙げると思っただけで、ゾクゾクするのだ。

 完全に、名前負けして、

「最初から臆している」

 といってもいいだろう。

「俺って、そんなにあの時、冷静だったのだろうか?」

 と思ったのは、実際にプレイに入り、重なった時に、

「あれ? 特筆すべきところはないな。これで、ランカーというのはどういうことだ?」

 と感じた。

 しかし、最初から術中に嵌っていると、こんな錯覚にコロッと騙されてしまう。

 特筆すべきところがないと思っても、

「それこそ、俺の錯覚でしかないではないか?」

 と感じるに違いないと思うのだった。

 やはり、そもそもの来店のきっかけが、リベンジという目的だったので、他の人や、いつもの自分とは、随分精神的にも違っている。しかも、その前に詐欺に遭ったかのように、ぼったぐられたではないか?

 それを思うと、最初から他の人とは、精神的な開きがあるのは、分かり切っていたことだった。

 そういう意味で、

「普通に予約できるのなら、予約するかも知れないけど、わざわざ無理して、彼女の予約合戦に名乗りを上げる気にはならない」

 と思うのだった。

 彼女との対面は、他の女の子と何ら変わりはない。それまで、

「これから体面する女の子は、ランカーの予約困難嬢なんだ」

 という思いから、かなりの緊張もあった、

 そして、すでにその時には、1時間まえの、悪夢は忘れていた。そういう意味で、

「ああ、来てよかったな」

 と感じたのだ。

 だが、対面してみると、今までの初対面の女の子と何が違うというのだ? もちろん、まだ遭ったばかりで、サービスを受けたわけではないので、

「きっと終わってから、またすぐ会いたいと思うことになるんだろうか?」

 と思うのだった。

 いつの間にか終わっていて、最期に相手にそう感じさせるのが、ランカーなのだと吾郎は考えていた。だから余計に必死になってまで、今までランカーに遭おうとはしなかったのだ。

 もし、そこまで必死になっていると、その子に対して、最初から必要異常な期待を持つことになり、彼女の方では慣れているのかも知れないが、男の視線が、必要以上にギラギアしていたり、特別感を持っているのを、感じていたりすると、女の子としては、やりやすいだろう。

 騙すというと語弊があるが、黙っていても、客はついてくれるなどと思うのだとすれば、そのうちに、精神的に必ず息詰まることになるのではないかと思うのだった。

 だって、他の子は、自分に自信がないことで、必死になって、自分を人との差別化にしたいと思うのだ。

 それは、自分に自信がないから、余計に感じることで、逆に自信があると、その人はきっと、

「敵は男性ではなく、自分の中にいるのかも知れない」

 と感じるだろう。

 敵というとこれも語弊があるが、

「人間、絶えず誰かを仮想敵として照準を合わせていないと、自分がきつくなるだけではないか?」

 という話を聞いたことがあったが、どうなのだろう?

 なるほど、確かにそうなのかも知れない。だから、自分に自信のない女の子は、敵をあくまで、相手だと思い、自分は陰に徹すると考えるのだろう。しかし、目の前にいるランカーの彼女は、自分に対して、自信があることで、

「男は、皆私に夢中」

 という、自惚れまで出てくるのだ。

 しかし、不安が消えたわけではない、余計に募ってくる。なぜなら、

「不安要素がないはずなのに、どうして不安がこみあげてくるのか?」

 という、言い知れぬ不安を感じさせられるからである。

 そんな時に感じるのは、

「自分のことが、抜け殻になったかのように感じる」

 ということであった。

 そんな時、彼女は、

「私は、何かのピエロなのかしら?」

 と思うことだった。

 ランカーに祭り上げられてはいるが、本当にランカーの器なのだろうか? 自分に自信が持てたとしても、消えない不安。それが自分を、ピエロと思わせるからだった。

 つまりは、

「客寄せパンダ」

 本当はそんな力なんかあるはずもないのに、スタッフによって仕立てられ、ランカーだということで一気に客に、

「手の届かない高嶺の花」

 を想わせて、彼女を広告塔として、利用する。

 それが、彼女にとっても、ピエロということになるのだろう?

 ピエロというのは、道化師ともいえる。道化師といってしまうと、ピエロほど、

「サンドイッチマン」

 というほどのものではない。

 もっと幅広いと思うのかも知れないが、それだけ、派手さというのはないのかも知れない。

 それを思うと、

「自分は、ピエロではなく、道化師なのかも知れない」

 と、そんな風に感じるのだった。

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