一般人、兄と戦う
必死に言い訳を考えていると、アルバさんに予想と全く異なる言葉をかけられた。
「さすがランバート家の子だな。レイド坊ちゃんと同レベル……いや、それ以上の才能だ」
案外怪しまれたりはしてないな。なんでだ?
「僕もカカシは一日で壊せたけど……ここまで早くはなかったね」
「グランも俺以上かぁ……。俺二日かかったからなぁ」
予想以上に兄様達が化け物だった。まぁそりゃ慣れるしこれだけできて当たり前だと思うわな。
レイド伯爵が戦っている描写は「じぇねしす☆くらいしす」の作中にはなかったが、もしかすると魔王レベルだったのかもしれない。
「えっと、僕身体強化魔法使ってこれなので……。剣の才能なら兄様達の方が上なのでは?」
本心からの言葉である。俺はそもそも最強クラスの剣術を模倣までしてこれである。
「……ちょっとまてよ、グラン坊ちゃんはもう身体強化魔法まで使えるのか」
アルバさんがかなり近寄って聞いてくる。近い。
「え、ええ一応」
軽く引きながらそう答えると、アルバさんはとてもうれしそうに俺の手をとってぶんぶん降ってきた。
「グラン坊ちゃんは間違いなくSランク級に成長する逸材だな! 俺からレグナードには言っておくから、今日から魔法も平行で鍛えてこうぜ!」
「あ、はい。わかりました」
これはありがたいな。俺、攻撃魔法の訓練とかしたかったし。もっと早く魔法を使えるようになったことを言っておけばよかったか。
あ、ちなみにアルバさんが父の事を呼び捨てにしてるのは父がそうお願いしてるからだ。なんでも、アルバさんは父が冒険者をしていたころの先輩らしい。Sランク冒険者同士が先輩後輩関係なんてすごいよなぁ。
「グランも身体強化魔法が使えるんだね。僕と一緒だ」
「俺もだぜ!」
どうやら身体強化魔法は兄様達も使えるらしい。本当にすごいなランバート家。才能の塊か?
「まぁそれが使えるんだったら素振りなんてどうでもいいわな。よし! グラン坊ちゃんも模擬戦に参加するか!」
……まじ?
「僕も賛成だよ。グランはきっと僕を越えてくれるだろうし」
「俺も賛成! レイド兄とだけだと癖がついちまうからな!」
兄様二人も賛成してるし、頑張るかぁ。まだ実践とかできるほど<暗帝流剣術>を再現できてるわけじゃないんだけど……。
「お手柔らかにお願いします」
「うし! そうと決まれば早速! まずはグラン坊ちゃんとアレン坊ちゃんだな!」
アルバさんの指示で、俺とアレン兄様は位置に着いた。
「グラン! 遠慮せずかかってこいよ!」
「わかりました! では行きますよ!」
アレン兄様が位置について剣を構えた瞬間にわかった。アレン兄様の剣は<流浪流剣術>だ。主に冒険者が好んで使う剣術だな。扱いやすく、威力に優れているが、守りの手段が少ない剣術だ。アレン兄様らしい、攻撃型の剣術といえる。扱いやすい分技の数は少ない。俺からすれば、強力だと思えるのは上位3つの技のみ。
後は身体能力の差をどう埋めるかだな。アレン兄様も身体強化魔法が使えるのだから年相応分に身体能力は離されている可能性は高い。
諸々考えた結果俺は今回速度重視で攻撃を行うこととした。<流浪流剣術>には小回りが利きずらいという欠点もあるからな。
「はぁ!」
「まだまだ軽いぜ!」
俺が上段で軽く切り込むと、アレン兄に俺の剣は軽く弾き返される。子供相手に悪いとは思うが、こっちは頭脳は大人なものでね。それが狙いというわけだ。
剣をはじいて剣を振り上げてしまったアレン兄様には隙ができている。
俺は弾かれた剣を素早く戻し。速度を上げてアレン兄様の隙を突きに行く。
「っそれが狙いか!」
「くっ!」
アレン兄様は俺の剣をはじいた際に上へとあげた剣を素早く持ち替え、俺が攻撃しに行く場所を予測、しっかりと受け止めてきた。
技の発動もない小競り合いだが、今のでアレン兄様の身体能力はある程度把握できた。
俺は素早く後方に引きながら、技の発動用意をする。<暗帝流剣術>其の三。『夕霧の一閃』を。
アレン兄様がもう一度構えを取り直そうとしたその瞬間に俺はかの技を再現する。
『夕霧の一閃』、それは縮地の応用に近い技だ。一瞬で相手の背後に回りながら切る。まぁ今回は木剣だから、胴を打つ形になるかな。
「うおぉ!?」
しかし、その剣はアレン兄様に防がれた。俺は一瞬でアレン兄様の後方まで来たが、打てたのは木剣だけだった。
……嘘だろ。この技「じぇねしす☆くらいしす」だと防御不能技だったんだけど。俺の再現度が足りないか。
俺は素早く距離をとってアレン兄様と向き合う。
「やるな、グラン。レイド兄様と戦うためにとっておいた新技、ここで使わせてもらうぜ」
「新技ですか」
んーいやな予感。『牙烈の剛剣』『断魔の速剣』『刹那寂滅』以外であって欲しいなぁなんて。
「行くぜ、新しく覚えた奥義! 『牙烈の剛剣』!」
嫌な予感的中したぁ!! ちょっと待って!! それ俺に防げる威力してないから!!
◆◆◆
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