一般人、剣を持つ
魔力の循環速度を高めると魔力を少しずつ魔力を失う変わりに身体能力が強化されることに気が付き、常に使用し始めて一月が経った。
最初のうちは魔力が足りなくなることもあったが、今では魔力の量が増え、常に展開している軽い身体強化で消費する魔力よりも回復する魔力の方が多くなった。
他に、攻撃魔法以外の闇、空間の魔法はほとんど全て扱えるようになった。
まだ攻撃魔法は一つも扱えないけどな。
そんな折、父からお声がかかった。
「もうじきグランも6歳になる。そろそろ貴族として必要な剣の訓練をしよう」
「剣、ですか」
たしかにこの世界では……まぁこの王国だけかもしれないが貴族ならば剣術を扱えみたいな慣習があったはず。
おまけに8歳から12歳の貴族の子供は剣術の少年大会に出る必要があったはずだ。それまでに稽古をするというのは悪くないな。
魔法の影響で身体能力も相当に高くなっているからそれを扱う技術は覚えないと損だ。
「そうだ。レイドもアレンも、訓練は6歳から行っている。今ならレイドも冬季休暇中でうちにいるからな。2人にいろいろ教えてもらうといいだろう」
レイド兄様は王都の学園に通っているが、冬の長期休暇の間にランバート伯爵領に帰省してきている。確かに兄様達と稽古できるのはいいな。特にレイド兄様は将来国王の護衛となる才能あふれた人だ。いい訓練相手になるだろう。
「わかりました。僕も剣の訓練を行います」
「よし、では明日から早速朝は庭園だぞ」
父はうれしそうにそういった。まぁランバート伯爵家、武家だし戦える事が大事なんだろうな。
◇◇◇
というわけで翌日。俺は前世では見たこともないほどどでかい庭……の隣にある修練場に来ていた。
父様……庭っていったよね? 俺少し庭楽しみにしてたんだよ? 外でるの初めてだから。
遠目から見る庭はきれいだが修練場には攻撃を試す用のカカシ以外まるで何もない。ちょっと寂しい。
「グランも今日から訓練かぁ。追い抜かされないように頑張っていかないとね」
「おう、グラン! 俺についてこれるかな!?」
レイド兄様は今日もさわやかだし、アレン兄様は今日も元気だな。2人とも容姿に優れているのでさぞかしモテるのであろう。ランバート家の血筋ってすげぇ。
「ランバート家の一員として、強くなれるように努力します」
「いい気合だな、グラン坊ちゃん」
俺が気合を入れて宣言をすると、そこに顔の古傷が目立つ40代くらいのイケおじがやってきた。この人はランバート伯爵家の私兵騎士団長、アルバさんだ。平民であるため苗字はない。
この人実は結構すごい人で、元Sランク冒険者だったりする。それを言ったら父もなんだけどね。
「とりあえずグラン坊ちゃんは今日は素振りからだな。これ、グラン坊ちゃん用の木剣な」
「ありがとうございます」
まぁ最初から戦ったりなどできるはずもないので俺は今日は体づくりの基礎からだ。身体強化魔法を常に使っているから必要ないといえば必要ないけど、まずはこれで剣に慣れよう。
「レイド坊ちゃんとアレン坊ちゃんは準備運動の後、今日も模擬戦だな。アレン坊ちゃんもそろそろレイド坊ちゃんから1本とれるように頑張れよ」
2人の兄様はいつも模擬戦をしているらしい。今後は俺もそこに加わわるのかな?
「覚悟しろよレイド兄! 今日こそ打ち取ってやる!」
「かかっておいで」
と、兄様達の模擬戦が始まったところで、俺も素振りを始める。
案外、木剣が軽いからか、20~30回以上振っても全然疲れないな。だったら少し試して見ようかな。
俺は「じぇねしす☆くらいしす」で登場したすべての剣術の型に関する詳細を覚えている。それを実際に俺が使えるかどうかのお試しだ。
ただ、<近衛騎士流剣術>とか、もしできてしまったらどこでそんなの覚えた? となってしまうので、ここは「じぇねしす☆くらいしす」の中でたった一人の人しか使っていなかったおそらく独学であろう型を試そうと思う。
これなら最悪そんなのどこで覚えたんだといわれても、自分で考えましたと言えるからな。
その型の名前は<暗帝流剣術>。まぁぶっちゃけて言えば「じぇねしす☆くらいしす」における俺が使っていた剣術である。
裏ボスが使うだけあって、相当にイカれた内容の剣術だった。俺は今からそれを試そうと思う。
大きく息を吸って、上段に木剣を構える。そして体をひねるように、斜めから剣を振り下ろす。
動きはただの模倣だが、それでも最強だといわれる剣術の一つだ。
試し切りのカカシが音もなく真っ二つに切り裂かれる。
……正直ここまでとは思ってなかった。
「グラン坊ちゃん!?」
元Sランク冒険者は伊達じゃないのか、俺の引き起こした出来事にアルバさんはすぐに気が付いた。
そのアルバさんの声に驚き、兄様達もこちらに気が付いたようである。
さすがに剣を握って1日でカカシ破壊とか異常だよな。
……参ったな、どう言い訳しよう。
◆◆◆
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