一般人、夢を見る
僕の名前はグラン・ランバート。ランバート伯爵家の三男で、多分、兄弟の仲で一番才能がないと思う。
しゃべるのも苦手だし、兄様たちみたいに魔法を使えるようになる未来も見えない。
剣を振るのは怖いし、できればやりたくない。貴族の三男という立場では将来必ず独立しなければいけないから、何か一芸に長けていなければならないのはわかるんだけど、それも僕には厳しい話だと思う。
今は読書をしている最中だ。
まだ家庭教師とかが付く年齢じゃないんだけど、暇だったから文字は自分で覚えた。
厳しいとは思うけど、僕は文官としてどこかの貴族に登用してもらって自立しようかなと思ってる。そのために今は独学でいろいろ勉強中だ。
きっと社会に出たら二人のできた兄様たちと比べられることになると思う。馬鹿にされないように、僕にできるだけの事をしておかないと。
と、その時僕の部屋の扉が勢いよく開かれる。
「あれ、グランは今日も勉強してるの? 偉いね!」
「シェリィ!?」
僕の部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのはシェリィ・シュナイダー。
ランバート伯爵家と仲の良い、シュナイダー侯爵家のご令嬢だ。シュナイダー侯爵が良くうちに来るからか、シェリィもよくうちに来る。
年齢が同じだからか、僕たちは一緒に居る事が多い。
「勉強なんていいから、遊びましょう!」
「わかったよ……」
今日の勉強は少し、おあずけかな。
◇◇◇
天蓋のある大きなベットで俺は目を覚ました。相変わらず、このベットだけには慣れんな。
それで、今のは夢、か? いやにはっきりとした夢だった。目が覚めた今もおぼろげになることはなく、はっきりと覚えている。
夢じゃなくて、この体に残った記憶、かもしれないな。
というか、シュナイダー侯爵、ね。
シュナイダー侯爵というと「じぇねしす☆くらいしす」では主人公と軽く敵対する貴族だ。隠しヒロインを攻略するルートになった時には戦うことにすらなる。
ぶっちゃけて言えば、俺の前哨戦が彼になる。俺ほどではないが、侯爵という貴族で執務が多い領主の身としては強過ぎるレベルだった。推奨レベルは80。つまり、魔王と同レベル。
どういった経緯で主人公に対して敵意を持ったのかは作中では明かされていないからな。危険な人物かもわからない。
どうしたものか……。
というか、今の段階で魔王レベルと敵対することになった時点で詰みである。どうもできないっていうのが答えだ。
まぁできるだけ何とか出来るようにするために、しっかり修行して早めに強くなろう。
父から魔法を扱うための蔵書をいただいて、早2週間。俺はすでに魔力操作をほぼ完全にマスターしていた。これでおそらくは魔法が使用可能だろう。
試して見るか。
とはいっても魔法の使い方はわからないからもう一度本を読みながらだな。
曰く、魔力を変化させながら体の外に出す感覚で、魔法を扱うことができるらしい。
やってみるか。
魔力を操作して体の外に出そうとすると、二種類の門のようなもので妨げられた感じがした。
この門があれか、属性適性か!
この門に適合するように魔力を変質させて、魔力を体の外に出せば……。
俺の手の上に真っ黒な球体が現れる。
魔法を使えるってわけか。
いろいろ試行を重ねていくうちに、門の形もある程度変更できることに気が付いた。これで魔法の種類も変更できるんだな?
今は室内だから、攻撃魔法は扱えないし、もう一つの適性である空間魔法で空間を操る感じを試して見よう。
裏ボス戦の時の俺は確か空間魔法でほとんどの攻撃魔法を亜空間に飛ばしたりしてたよな。武器も空間魔法の収納から幾つもだしてきてたし。
まぁ空間を削る魔法を一番多用してきたけど。あれ全体攻撃な上にHP結構削れるから厄介だったなぁ……。
それはさておき多分ファンタジーでよくある空間収納的なものができるはずだ。それを試してみよう。
一応読み終えた初級魔法の本を収納魔法の試しにしよう。
さっき使ったのは別の門の形を変形させて、魔力を通す。感覚的にはこれで異空間への入り口を作れるはず。
俺の目の前に空間の揺らぎが見える。これが異空間への入り口だな。ここに、本を入れると……。
本が消えた。さて、これで収納は問題ないな。これで、取り出せるかどうか。
一度異空間への入り口を閉じ、そしてもう一度異空間の入り口を出す。
ここからイメージしたものを取り出すイメージで……。
俺の目の前の空間の揺らぎから本が現れる。先ほど俺が収納した本だ。
よし、これで空間収納、覚えたぞ。容量とかは直感ではあるが、俺の魔力量に比例してると思う。
まぁ俺の魔力が他人と比べて多いのか少ないのかもまだわからないし、今の魔力量でどれだけしまえるのかもわからないから実質わからないっていうのが正しいけどな。
さぁ、これで魔法を覚えたぞ。これで魔法の発動にかかる時間を短縮したり、魔力量を増やしたりの本格的な修行が始められるな。
やる気が出て来たぞ。
◆◆◆
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