けっこう似合うだろ?

文化祭当日。

 午前中はクラスの方で男女逆転喫茶を手伝っていました。

 客の入りは水瀬のイケメン執事男装でかなり良く、何人も待ちが出る程でした。

 俺はそんな水瀬の横で地味に可愛いメイドとして接客をしていました。

 寿、霧谷、坂田のグループには南雲と一緒に写真を撮られました。きっと今後もこれをネタに色々言われることでしょう。

 午後、俺は地味―ズの相方、笹森と共に他のクラスの模擬店を回ります。

「お前、それ着て校内回るとか恥ずかしくないのか?」

 俺はクラスからの指令で男女逆転喫茶の看板を持って、メイド服で歩き回っています。

「いや、別に。けっこう似合うだろ?」

「気を付けろよ、女装は癖になるらしいからな」

「大丈夫だって」

 そんな会話をしながら、二人で模擬店を回っています。

 DFの松野はお化け屋敷でフランケンシュタインになっていましたし、MFの田所はプラネタリウムの解説役をしていました。

 文化部の部活棟に行き、文芸部発行の雑誌を買い、家庭科部でパウンドケーキを頬張り、ギリシア神話同好会の展示室に向かいます。

「あれ? 睦月いないじゃん」

「すみません! 睦月君は今、クラスの方行ってて」

 前髪で目が隠れた生徒が、おどおどとした口調で睦月の不在を教えてくれます。

「ん? 影山君じゃん」

「あっ、笹森君」

「こちら去年、同じクラスだった影山君」

「俺は御手洗 渉。よろしく」

「よ、よろしく」

 ギリシア神話の展示には、どれも上手い絵が付いていました。

 ゼウスにポセイドン、アフロディーテ、何処かの漫画やアニメで聞いたことのある名前が並んでいます。個人的にはヘラクレスの冒険の章に心躍りました。

 これを睦月や影山君が頑張って準備したかと思うと、単純に尊敬します。

「これ描いたのって影山君? 睦月?」

「あっ、うん、僕」

「絵、めっちゃ上手いじゃん!」

「そ、そうかな。ありがとう」

 影山君が照れたように軽くはにかむ。

「冴先輩! 店番ありがとうございます!」

 睦月が車椅子の女の子と一緒に部室に入って来ました。

 冴、とは影山君の下の名前のことでしょう。

「あっ、昭夫先輩と渉先輩だ!」

「おお、睦月、来たか」

「サッカー部の人達?」

「うん」

「初めまして、睦月の姉の美月です。いつも睦月がお世話になってます」

「これはご丁寧に。笹森 昭夫です」

「御手洗 渉です」

 美月ちゃんに地味ーズからの自己紹介です。

「睦月君、クラスの方と他には色々回れた?」

「うん。たこ焼きとポテトと唐揚げ買ってきました! 皆で食べよう!」

「おっ、いいな」

 俺達も睦月の買ってきてくれた食べ物を分けてもらいました。

 屋台の品物って、ちょっと高いですが、普通に買うより美味しいの謎ですよね。


 その後は体育館で演劇部の劇を見たり、バンド演奏を聞いたりして文化祭は幕を閉じました。

「やっぱりステージに立つって派手だよなあ」

「お前もベースやってんだろ。バンド仲間集めてステージ立てばいいじゃん」

 そう、笹森は何故かベースをやっているのです。

「ステージなんて派手なとこ立てる訳ないだろ」

「じゃあ、一生誰にも聞かせずにいくのかよ?」

「それはどうかな。いつか彼女が出来た時にバースデーソングを弾き語りってのもオツなもんだろ」

「彼女、出来るのかなあ、俺達に」

「いつか出来ることを祈ろうぜ」


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