私だって負けない!

            ◆


「私の本気を見て欲しい」

 私は体育祭が終わると、集まった応援団の皆に、明日の試合を見に来て欲しいことを伝えた。

 団員の顔は様々だ。

 複雑そうな顔、私を応援してくれるような顔、いつも通りの顔……。

「じゃあ、明日はよろしく頼むわね」

 私は「解散」と言って家路に着く。


 帰り道、幼馴染の仁が私に話しかけてくる。

「俺も明日は応援に行くぜ、青葉!」

「そう、ありがとう」

 軽く挨拶を済ませ、それぞれの家に入る。

 

 家には妹の琴音の方が先に着いていた。

「琴音、あなたに頼みがあるの」

「何?」

「明日、応援のトランペットソロを、あなたに任せたい」

「え、私が⁉」

 琴音は驚いていたが、私は知っている。

 彼女が一生懸命、トランペットのソロパートを練習していたことを。

 琴音は一年生とはいえ、二年生にも、その実力は引けを取らない。

「わ、私に出来るかな?」

「大丈夫よ、自信を持って!」



 次の日。

 市民運動競技場の女子更衣室。

 試合前に軽くストレッチをしてからピッチに出るのが私のルーティン。

「よし」


 前半の終わりは1点先制の良い波のまま、終わることが出来た。

「よし! いい調子だ! 後半もガンガン攻めてくぜ!」

 寿が皆を盛り上げる。頼もしいキャプテンだ。


 後半スタートの笛が鳴る。

 誉中もガンガン攻めて来る。

 キャプテンの花野が上手い。

 的確に指示を出している。

 花野が放ったパスが相手FWのゴールラインにドンピシャに決まった。

「あ」と思った頃には、遅かった。

 相手FWの放ったシュートは綺麗にゴールポストに吸い込まれていった。


 追加点が取れないまま、後半32分。

 私にボールが回ってきた。

 すると、この時を待っていたとばかりにトランペットの音が聞こえた。

琴音のトランペットだ。

江の島東中応援歌のメロディが私を励ます。

 私だって負けない、負けたくない。

 男子にも負けないようにテクニックを磨いてきた。

「水瀬~、行け~!」

 寿の声と応援団の声が私を熱くさせる。

 ゴール前、キーパーと1対1。

 シュートコースは、こっち!

 視線トラップで逆サイドを突き、ゴールを決める。

 応援団の歓声が聞こえた。


2対1で江の島東の勝利。


「水瀬、すごかったぞ!」

「青葉先輩、カッコ良かった!」

「ありがとう!」


江の島東中は地区大会ベスト8まで駒を進めた。


試合後。

「青葉、シュート、カッコ良かったぞ!」

 仁が興奮気味に言う。

「お姉ちゃん、やっぱりサッカーが似合うね! 次も応援に行くから勝ってよね!」

「ええ、勿論よ」

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