後ろがガラ空きだぜ!
◇
江の島東中体育祭は赤組白組とかじゃなく、クラス対抗戦で行われる。
最終的に一番高いポイントを獲得したクラスが優勝となる。
優勝しても優勝旗にクラスが刻まれるだけで、特別な商品とかはない。
まあそれなりに頑張るというのが俺のスタンスだ。
俺は2年3組、サッカー部だと孝太郎と笹森と同じクラスだ。
クラスごとに分けられたブルーシートの上に腰を下ろす。
「水瀬さんのトランペット格好良かったねえ」
孝太郎が俺の隣に座りながら言った。
「トランペット、中々派手だな」
これは笹森。地味ーズは派手なものには敏感だ。
「だな。俺、楽器はてんでダメだから何か出来る奴が羨ましいぜ」
「俺、地味にベースの練習してるんだ」
「え、すげえ。今度の文化祭ステージとか出るの? もしかしてバンド組んでたり?」
「いや、一人で。ステージに立つなんて派手なこと出来る訳ないだろ」
「いつか聴かせてくれよ」
「機会があったらな」
「あ、笹森君、玉入れの選手集合だって。行こうよ」
「ああ、そうだな。地味に玉入れてくるぜ」
「おう、いってらっしゃい」
俺の出る種目は借り物競争と部活動対抗リレーと騎馬戦だ。
今は孝太郎達の応援をする。
二人は一生懸命、玉を拾っては入れている。
二人とも、中々上手いんじゃないか?
玉入れは二分間の制限時間の中で、入れた玉の数がそのままポイントとなる。
玉を数えてみると60個入っており、60ポイントをゲットした。
次は俺の出る借り物競争だ。
借りるものが書いてある紙の所まで走り、中身を確認する。
「好きな人」
「ああ、こういうのね、はいはい」
俺は冷静に、二年三組のブルーシートに向かった。
「孝太郎!」
「え、僕?」
孝太郎は訳も分からぬまま俺に付いて来る。
係の生徒に紙を渡し、確認してもらう。
「BLですか?」
係の女生徒は目を輝かせながら俺達を見る。腐女子か。
「違うわ! 友達として好きってことだよ!」
「わ~、祐翔君、ありがとう」
「チッ、ラブコメの定番として入れたのに、あなたみたいな人に当たるなんて残念です」
「はいはい、悪かったね。ラブコメじゃなくて」
借り物競争は無難に終わり、二年三組は20ポイントを獲得した。
昼食を挟んで一発目は、部活動対抗リレーだ。
俺と司、睦月、島本はユニフォームに着替えに部室に向かった。
「ついに俺達の練習の成果が試されるな」
「ああ、頑張ろうぜ」
部活動対抗リレーは一位を取ったら、その選手が所属しているクラスに10ポイントずつ入るようになっている。
一位を狙うしかない。
俺はアンカーのスタートラインに集合する。
すると、野球部のユニフォームを着た見知った顔があった。
「よう、お前もアンカーだったか」
「まあな。俺は野球部のエースだからな」
水瀬の幼馴染、岩本仁だ。
「負けないぜ」
「それは、こっちのセリフだ」
「位置に付いてよーいドン!」
号砲が鳴り、第一走者の睦月がスタートする。
やはりドリブルをしながらの走りは、ハンデであり、何もない陸上部には負ける。
「ていうか、ズルくね、陸上部。ただでさえ速いのにハンデなしかよ」
「確かに陸上部は身一つで走るからな」
岩本と愚痴を言い合っているうちに、バトンは第二走者の司に渡った。今は三位だ。
司はチーム一の俊足サイドバックだ。ドリブルの技術も高い。サッカーの実力だけ見れば、キャプテンの俺よりも司の方が高い。それでも部長の俺を立てながら縁の下の力持ち的役割の副部長をやってくれている。感謝感謝だ。
司が野球部を抜いて、サッカー部は二位になった。
「島本! 後は頼んだ!」
「はい!」
第三走者の島本にバトンが渡る頃には、一位の陸上部にも迫ってきていた。
「頑張れ、島本!」
島本も頑張ってくれたが、野球部に俊足がいて抜かされてしまった。
「すみません、部長!」
「大丈夫だ、抜かしてくる!」
俺は先にスタートした岩本を追いかける。
野球部はバッドをバトン代わりに持って走っている。
「バッド振り回すなよ、危ねえな」
何とか岩本に追いつき、抜かし抜かされのデッドヒートを繰り広げる。
もう一位の陸上部はゴールしてしまっている。
それでも、目の前の相手に負けられないのが男ってもんだ。
ほぼ同時にゴールし、審判の判定に委ねられた。
「二位はサッカー部!」
「よっしゃああ!」
「クソッ、負けたぜ」
クラスにポイントは入らないが、野球部に勝てて嬉しかった。
次は騎馬戦だ。
俺はサッカー部の孝太郎と笹森、クラスメイトの加藤君の騎馬で、上に乗って帽子を取りにいく。
うちの学校の騎馬戦は学年ごとに行われ、5クラスが一気に争う。
「寿祐翔! お前の帽子を取る!」
「岩本! またお前か!」
部活動対抗リレーに引き続き、岩本とマッチアップだ。
岩本が手を広げ、俺に向かって来る。
俺も応戦し、向かって来る岩本の手を払いながら、自分も帽子を狙う。
「寿ぃ! 後ろがガラ空きだぜ!」
目の前の岩本に気を取られて、後ろから来る南雲に気付かなかった。
気付いた頃には帽子は南雲に取られていた。
「えええええ!」
南雲の漁夫の利で騎馬戦は終わった。
結果発表。
総合優勝は3年4組だった。
俺達2年3組は全然敵わなかった。さすが3年生だ。
「負けちゃったけど楽しかったねえ、体育祭」
ブルーシートを片付けながら、孝太郎が話かけてくる。
「だな。騎馬戦で南雲に帽子取られたのが悔しかったけど」
「後ろから迫って来てるなんて気付かなかったよ~」
ブルーシートを畳んで先生に渡す。
孝太郎と適当に話しながら教室に帰った。
今日は疲れるだろうから部活は無しの予定になっている。
明日は試合だから、しっかり体を休めないとな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます