人生これからだろ!

           ◆


 寿達と話終えた後、私は応援団の元へ向かった。

 今日は屋上で声出し練習からだ。

「団長! 今日はこっちなんですね」

「ええ。今日は皆に大事な話があるわ」

 私は皆を集めて自分の気持ちを素直に言葉にした。

「まずは謝るわ。最近、応援団の活動に参加できてなくて、ごめんなさい。皆の知っての通り、私はサッカー部と兼部しているわ。私はサッカーが好き。一度はサッカーを止めて、応援団に専念しようとしたわ。でも無理だった。私はサッカーがしたい。無責任な言葉だって分かってる。でもサッカーの大会の間だけはサッカーに専念させて欲しい。この通りよ」

 頭を下げる。

「「「団長……」」」

「お姉ちゃん……」


 その後、副団長に引継ぎをし、声出し練習、体育祭でやるマーチングバンド練習を見て、皆を先に帰し、一人屋上に残った。

 感傷に浸っていると言えばいいのだろうか。

 本当にこれで良かったのかは分からない。

 他に、もっとやりようがあったのではないか。

「はあ……」

 溜息が漏れる。

「待て! 早まるな!」

「え、何⁉」

 私は屋上のフェンスから手を離し、声のした方へ振り返る。

「み、水瀬⁉」

「寿⁉」

「とにかく早まるな! 人生これからだろ!」

「はあ、何言ってるのよ!」

 寿に続けて、霧谷、睦月、島本まで屋上に入って来る。

「青葉先輩、死なないで~!」

「はあっ、死⁉」

「おいおい、二人とも落ち着けって。水瀬も死のうとした訳じゃないだろ。屋上からの景色見てただけだよな?」

「え、ああ、そうね」

「え、そうなの?」

「これくらいじゃ死なないわよ」

「良かった~」

「それと、大会が終わるまで私はサッカー部に専念するわ。それを今日、応援団の皆に宣言したの」

「俺としては頼もしいけど、水瀬は本当にそれでいいのか?」

「いいのよ。もう決めたから」

「じゃあ、これからもよろしく頼むぜ、水瀬」

「ええ、こちらこそ」

「よし、じゃあ記念にコンビニで肉まんおごってやる」

「何の記念よ」

「水瀬サッカー部専念記念」

「何よそれ」

 思わず笑ってしまう。

「肉まん俺も~」

「ああ、いいぜ。島本も司もおごってやる」

「俺にも? 払うのに」

「部長らしく気前よく行かせてくれよ」

 帰り際、学校の側のコンビニに寄る。

 寿は本当に肉まんをおごってくれた。

 皆が礼を言って、歩きながら肉まんを食べる。

「そういえば部活動対抗リレーはどうなのよ?」

「う~ん、まだ伸びしろはある感じ」

「頑張りなさいよ。応援してるから」



 体育祭の日がやって来た。

 私は体操服の上に一張羅の学ランをはおり、更衣室を出た。

 応援団はオープニングアクトとして、マーチングバンドの演奏をする。

 私もトランペット吹きとして出演する。

 これが終われば、私は応援団の活動から一旦、退くことになる。

 いつも以上に音に気を配って、本気で演奏する。

有名な「ドラゴンクエスト 序曲」の3分51秒の行進。

皆の音を聴きながらメロディーラインをリードする。

体育祭を初っ端から盛り上げ、マーチングバンドは退場する。

トランペットをしまい、次は選手宣誓だ。

「宣誓! 我々、江の島東中生徒一同は、スポーツマンシップに則り、正々堂々と全力を持って戦うことを誓います!」

 準備体操をし、開会式は終わりを迎えた。

 

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