◇ 寿 祐翔  ◆ 水瀬 青葉

恥ずかしい限りだわ

             ◇


「俺、ゴミ捨て行ってくるわ」

「あ、寿さんきゅ」

 掃除の時間、俺は集めたゴミを持って、外のゴミ捨て場に向かった。

 ゴミを捨て終え、教室に戻ろうとした時だった。

「あ、水瀬じゃん」

 声をかけようかと思ったが、お取込み中だったので止めた。

 水瀬と、誰だ? 

 知らない女子生徒が水瀬と話していた。

 何を話してるかは聞こえない。

「気になるだろ」

「ま、まあ一応は。……ていうか、アンタ誰?」

 知らない男子生徒が、いつの間にか俺の隣にいた。

「俺は岩本 仁(いわもと じん)。青葉の幼馴染で、野球部さ」

「水瀬の幼馴染?」

「ああ。青葉のことなら何でも聞いてくれ」

「じゃあ今日の水瀬家の朝ご飯は?」

「バターをたっぷり塗ったトーストかな」

「何で分かるんだよ、怖えよ」

「そんなことよりもだ、お前はあの子のことが知りたいんじゃないのか?」

 岩本は水瀬の横にいる人物を指す。

「そりゃそうだよ。あの子誰?」

「彼女の名前は水瀬 琴音(みなせ ことね)。青葉の妹で応援団所属」

「へえ、水瀬、妹いたんだ。しかも同じ応援団」

「そう、琴音ちゃんは姉である青葉を目標に応援団に入部」

「へえ。で、何話してるんだろ」

「気になるか?」

「うん」

「俺も気になる。もっと近付いてみよう」

 俺と岩本は水瀬達に近付き、そろそろ声が聞こえてきた。

「お姉ちゃんは、応援団よりサッカー部の方が大事なんでしょ」

 俺達にも関係する話だった。

「だから両立させるって言ってるでしょう」

「出来てないから言ってるの。今日もどうせサッカー部に行くんでしょ」

「それは……」

 水瀬が口ごもる。

「もういい! 応援団は私達だけでやってくから」

「琴音、待っ」

「あ」

 琴音ちゃんを追いかけようとする水瀬とかち合った。

「アンタ達……」

「ごめん、聞いちゃった」

「青葉、すまん」

「まあ聞いての通り、妹と喧嘩中よ。恥ずかしい限りだわ」

「そんなこと言うなよ。俺は一人っ子だから喧嘩できる姉妹がいて羨ましいぜ」

「そうだぜ、青葉。琴音ちゃんとも、すぐに仲直りできるって」

「どうだが……。実際、問題解決にはならないのよ。サッカー部の試合の日と他の部活の試合の日は被っているわ。サッカー部だけにかまけていると応援団の活動は出来ない」

 成績優秀、スポーツ万能、頼りがいもあって面倒見もいい、水瀬青葉。

 そんな彼女が今、悩んでいる。

 俺に出来ることは何だ?

「水瀬がやりたいようにやればいいんだよ。サッカー部は俺に任せてくれても全然構わないぜ」

「私がやりたいように……」

「俺としては青葉には応援団に専念してほしいけどな。やっぱ青葉の応援には力があるよ」

「私は今サッカーが出来て、すごく嬉しいの。だから大会の間はサッカー部に専念したい。でも応援団長としての責任もあるわ」

「その素直な気持ちを応援団の皆にも話してみたらどうだ? きっと分かってくれるだろ」

「でも……」

「責任感あるのは水瀬の良いところだと思うぜ。でも、それで自分のやりたいことに蓋をしちまうのはダメだろ。もっと自由に行こうぜ」

「そうね。これから言ってみるわ」


「という訳で、今日は、水瀬はいません。でも水瀬から練習メニューを預かっているから、それをやるぜ」

 俺はサッカー部室のホワイトボード前に立って言った。

「ちょっと待て、祐翔。そろそろ今度の体育祭の部活動対抗リレーの選手を決めようぜ。先生に早く選手決めろって言われたんだよ」

「ああ、そうだった。それがあった」

 体育祭は今週に迫っていた。すっかり忘れてた。

「どうする? 誰か出たい奴いる? 4人でやるんだけど」

「サッカー部は毎年、ボールをドリブルしながらのリレーになるな」

 司が捕捉で説明を入れてくれる。

「はいはーい。俺やる~!」

 睦月が元気よく手を挙げる。こういう時有り難い。

「じゃあ一人目は睦月で。他には?」

 手を挙げる奴が中々いない。

「じゃあアンカーはキャプテンの俺がやるとして~。後は一年生と二年生それぞれ一人ずつ」

「俺やるよ」

「司さんきゅ」

 こういう時、司はよく助けてくれるのだ。

 俺がキャプテンをやる時も、すぐに副キャプテンに立候補してくれた。

「え~、じゃあ一年生は~?」

「俺、やります」

「おっ、島本か。有難う」

 MFの島本は美術館巡りが趣味の物静かで優しい奴だ。

「よし、これで決まりだな。サッカーの練習終わったらリレーの練習するから、よろしくな」

「分かった」

「頑張るぜ」

「はい」


 サッカーの練習が終わり、リレーの選手が残った。

 何度か実際に走ってみて、何とか形にはなってきたが、まだまだ練習の余地はある。

「バトンパス難しいぜ」

「ああ、もっとスムーズに出来るといいんだけど」

 サッカーボールのパスをした後、バトンパスもしないといけないので、やることは多い。

「ま、何とかなるだろ。今日はこれくらいにして、そろそろ帰ろうぜ」

 部室に向かおうとした時だった。

 ふと校舎の屋上に人影が見えた。

「屋上で何やって……」

 最悪の答えが、俺の頭の中に浮かんだ。

「待て、早まるな!」

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