決めてくれ!

 試合当日。

 市内のサッカースタジアムへバスで移動する。

 前日までのミーティングで白銀学園の選手は頭に入っている。

 まあ細かいことは考えずに、俺は点を取りに行くだけだ。


 スタジアムに着き、選手控え室でユニフォームに着替える。

「はあ~、緊張してきた」

「大丈夫か、祐翔」

 霧谷が寿の背中をさすってやっている。

 俺は不思議と緊張はしていなかった。

 負ければ終わりのトーナメント、しかも相手は格上の白銀学園。

 勝つイメージは出来てる。

 俺が点を取って勝つ。それだけだ。

「頑張ろうな、旭!」

「南雲先輩だろが」

 いつものやり取りをしながら、ピッチに向かう。


 白銀学園は応援団もスゴかった。うちの3,4倍はいそうだ。アウェイ感。

「来たわね」

 水瀬は先にピッチに到着していた。

 自然と皆で円陣を組む。

「相手は私達を格下と思って舐めてかかってくるわ。そんな奴を一泡吹かせてやりましょう」

「「「「おおーーーーーー」」」」


 前半21分。

「旭、俺、俺!」

無視する。

 ドリブルでゴールまで一直線だ。

 相手DFをかわし、キーパーと1対1。

 シュートを放つ。

 ボールは俺の狙った所に向かったが、コースを読まれていたのか、キーパーに弾かれる。

「くそっ」

 キーパーのゴールキック。

「カウンター気を付けて!」

 水瀬の声が響く。

 相手MFの山口にボールが渡り、ドリブルで駆け上がる。

 山口はドリブルの名手だ。うちのMF陣が次々と抜かれ、DFの霧谷とマッチアップ。

 山口はパスをするかのように味方に視線を送ったかと思えば、それはフェイントで股抜きドリブル。DFの要、霧谷も抜かれる。

 勢いに乗ってキーパーの坂田と1対1。

山口が放ったループシュートは坂田の頭の上を抜け、ゴールポストを揺らした。

 先制点を取られた。


 そのまま試合は動かないまま、ハーフタイムを迎えた。

「え~、負けてるってことでいいのかな。こういう時、何て励ませばいいのか分からないけれど」

 顧問の日吉が頼りない発言をする。

「代わりにキャプテンの俺が励ますわ。まだ負けてねえから、ガンガン攻めていこうぜ!」

「そうよ、気を落としたらダメよ。これから逆転するんだから! FWにボール集めていくから、よろしく頼むわよ」

「「おう!」」

「はい」

「南雲、一人で何でも決めようとしないで。私達はチームよ。睦月と槙をよく見て、パスを出した方が良いなら、そうして。頼んだわよ」

 水瀬が俺に念押しをしてくる。

「ああ、んなこと分かってるよ」

 俺のするべきことは点を決めることだ。

 FW三人で勝ちに行く。

 

 後半14分。

DFの柴田がマンマークしてくる。

ドリブルで抜けそうもない。

「くそがっ、そろそろ離れやがれ」

「離れる訳ないんだよなあ。FWは全員マンマークがうちの主義なんでね」

「だったらFWを増やすまでよ。私も攻撃に参加するわ。南雲!」

 俺は水瀬にバックパス。

 柴田が水瀬のマークに向かった隙に、俺はマンマークから抜け出した。

 それを見た水瀬が、もう一度、俺にボールを戻す。

 またすぐに柴田が俺に向かってくる。

「旭!」

 睦月がフリーになった。

 一瞬の内で考える。

 俺は何を迷ってるんだ! 

 勝つんだろ、皆で!

「睦月!」

 俺は睦月にパスをし、睦月はそのままゴールへダイレクトシュート。

 勢いのある強いシュートがゴールポストへ吸い込まれる。

「うおおおおおお」

 これで同点だ!

「ナイスアシスト!」

 寿とハイタッチをする。


 後半40分。

 ゴールを決めた睦月のマークがキツくなっている。

 守備力に優れた柴田がマンマークだ。

 逆に俺の方のマークは、それ程だ。

 イケる!

「睦月!」

「旭! 決めてくれ!」

 睦月からの横パス。

 白銀のディフェンスラインを崩し、俺はゴールまで一直線。

 キーパーを視線で狙う位置と別箇所に誘導し、シュート! 

 決まった‼

「よっっしゃあああ」


そのまま点差は変わらず、2対1で江の島東中が勝利した。


「さっきのゴール、スゴかったな、旭、先輩」

「まあ先輩付けてるし、それでいいか」

 俺と睦月は拳を合わせる。

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