ウェルカム、トゥー俺ハウス!

 練習終わり。

「じゃあ俺ん家、案内するから!」

 妙にノリノリな睦月が何かムカつく。

「ウェルカム、トゥー俺ハウス!」

 学校から1キロほど歩いて、着いたのは少し大きめな一軒家だった。

「おじゃまします」

 槙が睦月に続いて家の中に入っていく。

 入るのか、てっきり場所の確認だけかと思っていた。

「睦月、お帰りなさい」

「美月、ただいま!」

 車椅子の少女が出迎えてくれる。

「あれ、そっちの人達は、もしかしてサッカー部の?」

「うん、先輩の旭と同じ一年の槙」

「睦月の双子の姉の美月です。睦月がお世話になってます」

「ああ、まあ……」

 睦月と違って丁寧にお辞儀をしてくれ、俺は困った。

「俺の部屋来いよ!」

 そろそろ帰りたかったが、睦月に押され、渋々、部屋に上がることになった。

 睦月の部屋は意外にも片付いていた。

本棚にはホメロスの『オデュッセイア』などギリシャ神話の本や漫画が並んでいた。

そういや、こいつギリシャ神話同好会なんて変な同好会に入ってるんだっけか。

「おやつとカルピスあるぜ」

「ありがとう」

 出されたからには頂かないといけないので、俺はカルピスに口を付けた。

「……っ、濃いっ、カルピス濃いっ」

「本当だ。睦月、お前、良いとこの坊ちゃんかよ~」

「えっ、これくらい普通だろ」

「いや、うちの倍くらい濃いね」

 睦月と槙がわいわい言っている隣で、俺は所在なく出された菓子を食っていた。

「どうする? ゲームする?」

「やんねーよ! ったく明日は早いんだろ。早く帰って飯食って寝るんだよ!」

「じゃあ、明日は朝6時に俺ん家の前集合な」

 いつの間にか勝手に集合時間と場所が決められていた。

「じゃあ、これで解散?」

 睦月の部屋で寛ぎかけていた槙が言った。

「うん。じゃあな、玄関まで送る」

 玄関まで見送ってくれた睦月を後にし、俺は槙と二人になった。

「おい、お前、本当に明日からジョギングやるのか」

「水瀬コーチに言われたからやるしかないでしょう」

「あいつの言うことなんて別に聞かなくてもいいだろ」

「でも、やらなかったら、きっと水瀬コーチに怒られますよ。睦月だってノリノリだし」

「くそっ」

「とりあえず、明日、来て下さいよ。じゃあ、今日はお疲れさまでした」

 槙とも別れ、俺は家路に着いた。


 家に着いて即シャワーを浴びる。

「くそくそくそがっ」

 気に入らねえ。

「ちょっと旭~。五月蝿いわよ~」

「うるせえ! ババア黙れ!」

「ちょっと、お母さん、でしょ~」

 風呂場の扉が開けられる。

「お、おいっ、入ってくんじゃねえ!」

「シャワー終わったら、ご飯ね! 今日は旭の大好きなハンバーグよ」

「うるせえ!」

「全くもう、反抗期なんだから」


 次の日。早朝。

 俺が睦月の家に到着した頃には槙も着いていた。

「よう」

「おはようございます」

「おはよ~」

 欠伸をしながら睦月が玄関から出て来た。

 皆、サッカー部のジャージ姿だ。

「じゃあ、どこまで走る?」

「学校まで往復で」

「いいんじゃないですか、それで」

 それから俺達は学校までの往復2キロのジョギングを開始した。


 始めの方は口数の多かった睦月だが、俺がペースを上げ出した頃から無口になっていった。

 喋る余裕がなくなってきたのだろう。

「はあはあ、疲れた」

「こんなんで、へばってんじゃねえよ」

 睦月は、あまりスタミナはないらしい。

「旭が突然速く走り出したからだろ。付いて行くの必死だったんだからな」

「別に無理に着いてこなくてもいいだろうが」

 実際、槙は自分のペースを保って走り続けていたので、俺達からは遅れていた。

「お前ら朝飯食ってきた?」

「ああ」

「うん」

「そっか。美月がおにぎり作ってくれたんだけど、食ってく? 走って腹減っただろ」

「いや、俺は走った後は食えんわ」

「僕も」

「じゃあ学校に持ってけよ。2時間目終わりとかに腹減ると思うから」

 俺と槙は美月ちゃんからのおにぎりを受け取って、睦月家で着替えをさせてもらい、置かせてもらってきた荷物を持って、学校へ向かう。

「じゃあ学校で」

「ていうか、お前、車登校かよ⁉」

 睦月と美月ちゃんが車に乗っているのが見えた。

「ああ、美月ちゃん車椅子だから、それのサポートですよ。階段とか美月ちゃんおぶってあげて、その後、車椅子も運んでました」

「そうか、大変なんだな」

 同情する。

 俺が同じ立場になって、同じことが出来る自信がなかった。

 そこだけは認めてやるよ、睦月。

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