あんた達は、もっと強くなれる!
月曜、サッカー部部室。
「お邪魔するわよ」
水瀬青葉がノックもせずに部室のドアを開ける。
「きゃー、覗きー」
練習に向かおうと着替えていた寿が体操服で体を隠す。
「水瀬? どうしたんだ?」
着替え終わっていた霧谷が青葉に話しかける。
「私、今日からサッカー部に入部するわ」
「「「「「え~~~~~~~」」」」」
その唐突な入部宣言に皆が驚きの声を上げた。
「コーチ兼、応援団長兼、選手よ」
「何で水瀬が⁉」
「一兄さんに頼まれたのよ。あなた達を世話するようにって。大丈夫よ、コーチングの知識は持っているわ」
「でも、水瀬って俺達は弱いから一緒にやりたくないって言ってただろ」
御手洗が思い出したように言う。
「昨日の試合を見て、その考えは改めたわ。あんた達は、もっと強くなれる! そのために力を貸すわ」
「まあ、部員が多いのに越したことはないな。よろしくな、水瀬」
「ええ、よろしく」
「二年生は水瀬のこと知ってるから一年生の紹介をするぞ。ほら、お前ら順番に自己紹介して」
「FWの槙 知昭です」
「名前だけじゃなく趣味とかも言ってみ」
「えっとガーデニングが趣味です。園芸委員会にも所属してます」
「DF、松野 光央です。趣味はプラモ作りです」
「MFの田所 誠志郎です。趣味はアニメを見ることです」
「同じくMFの島本 大輝です。趣味は美術館巡りです」
「へ~、お前らそんな趣味があったのか。初めて知ったわ」
寿が感心したように言う。
「分かったわ。私は水瀬青葉。応援団と兼部になるけど、よろしくね」
「「「「よろしくお願いします!」」」」
「そういえば練習試合で点決めてた子がいないわね」
「睦月のことか?」
「睦月って言うのね」
「睦月なら今日はギリシャ神話同好会って言ってました」
同じクラスの槙が思い出したように言った。
「そんな同好会が存在したのね」
「ああ」
「そんなことより、今日は、これからのサッカー部の目標を共有しに来たのよ」
「サッカー部の目標?」
「寿、あんた部長の割に何も考えてないのね」
「まあ部長って言っても、何かするわけじゃないし。先輩からテキトーに指名されただけだし」
「これからは部長として、もっとしっかりしていってもらうわよ」
「へーい」
「で、目標だけど、全国中学生サッカー大会が、次の10月から始まるじゃない?」
「始まるのか?」
「何で大会のことも知らないのよ」
青葉は呆れたように溜め息を吐いた。
「今までのあんた達では初戦敗退が関の山だったわ。でも私が入ることで、あんた達をもっと上に行かせてあげる」
「すごい自信だな」
「サッカーは理論と気合よ。私に付いて来なさい」
「水瀬かっけえな」
「まずは地区大会突破! その先は県大会、そして全国大会よ!」
「「「「おーーーーー!」」」」
対戦相手を決めるくじ引き大会。
市民ホールの会議室に寿と霧谷は来ていた。
「何か緊張するなあ」
「大丈夫か、祐翔」
霧谷が寿の背中をさすってやる。
「司あ、大事だよなあ、くじ引きは」
「まあな」
「次、江の島東中、お願いします」
「は、はいっ」
係の人に呼ばれ、寿は緊張しながら、くじを引く。
Aブロック1番、分かりやすい位置に「江の島東」のパネルが付けられる。
「対戦相手どこかな……」
しばらく、くじ引きをぼーっと見ていると「よっしゃあ」という声が聞こえた。
Aブロック2番が埋められる。
対戦相手は「白銀学園」。
去年の地区大会優勝校。
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