したいんでしょ、サッカー

練習試合当日。

 睦月は来なかったが、地味ーズが助っ人の帰宅部・山田君を連れてきてくれた。

「ありがとう、山田君!」

「助かった!」

 練習試合は江の島東中で行われた。

 対戦相手は江の島西中、隣の中学だ。

「久しぶりだな、寿」

 相手キャプテンの中島が握手を求めてきたので応じる。

「ああ、いい試合にしようぜ」

 キックオフだ。


 土曜の部活の合間に試合を見に来たり、サッカー部の知り合いだったり、ギャラリーが集まってきた。

 ギャラリーの中には水瀬一もいた。

「やあ、睦月君。やっぱり気になって見に来てるんじゃないか」

「これは美月が見たいって言うから」

「すみません。私が無理言って連れてきてもらったんです」

「そうなんだ。出たくなったら、いつでも出るといいよ」

「でも助っ人は決まったみたいで」

「勝負は何が起こるか分からないんだよ」


 南雲と中島がそれぞれシュートを決め、1対1となった。


 前半が終わろうとする頃だった。

「痛って」

「どうした、山田君⁉」

「足をひねっちゃったみたい」

 仕方なく山田をベンチに下げ、残った10人で試合を続けることになった。

 サッカーは11人でやるスポーツだ。それを相手より人数の少ない10人でやろうとすると役割が足らなくなる。

 そこから江の島東の攻めは崩れていった。


 その隙を突かれ、江の島西にもう1点を取られた。

 その様子を睦月達も見ていた。

「このままじゃ負けちゃうよ、どうする?」

「仕方ないだろ、負けても」

「睦月がいるじゃん」

「俺は……」

「何、迷ってるの? したいんでしょ、サッカー。私に遠慮なんてしないで!」

 睦月は走り出していた。

(今まで本気でサッカーをすることから逃げていた。それは美月に悪いと思っていたからで……。でも美月は行けと言ってくれた。サッカー部の奴も待ってるからと言ってくれた。だったら、やるしかない!)



「選手交代!」

 睦月は山田からユニフォームを半ば奪う形で着て、サッカーコートに入る。

「睦月!」

「来てくれたんだな!」

「俺にボールを集めてくれ!」

「分かった!」

 睦月が華麗なドリブルで相手DFを抜くと、あっという間にゴールに辿り着いた。

 キーパーとの1対1。

 睦月は目線を左ゴール隅に向ける。

 キーパーが、そちらに目線をやった瞬間、逆方向にシュートを撃つ。

 2対2。同点だ。

ちょうど前半が終わる笛が鳴った。

 

 ギャラリーの間を縫うように学ランの集団が現れた。

「間に合ったようね」

 プーとトランペットの音が響く。

「青葉ちゃん!」

「一兄さんも見に来ていたの」 

 この二人は従兄妹だ。

 青葉は、またトランペットを構えて吹く。

 江の島東応援歌だ。

 他の応援団員が合唱をする。

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