待ってるから!

「やあやあ、サッカー部の皆!」

 顧問の日吉が久しぶりに部室にやって来た。

「どうかした?」

 生徒からもタメ口で話されている。

「優秀な顧問の、この僕が練習試合の約束を取り付けてきたよ!」

「一人足りないのに、どうするんだよ!」

「え~、そんなの誰かテキトーに引っ張ってくればいいじゃん。じゃあ、とりあえず今週の土曜でシクヨロ」

 特に練習も見ずに帰って行った。

「ああ、もうどうするんだよ!」

「また東条睦月に当たってみるか?」

「俺らも他の奴に助っ人でもいいから声かけてみるよ」

「ありがとう、地味―ズ」


 寿達、昨日の4人はまた川原に来ていた。

 そこには昨日と同じように睦月と水瀬一がいた。

「あっ、いたいた! サッカー部に入ろうぜ!」

「また、お前らか」

「やあ、君達、昨日ぶり」

「一さん! 今日も睦月と一緒なんですね」

「うん。何か放っておけなくてね」

「俺は別に頼んでない」

「おいおいおいおい、この御方は元日本代表の水瀬一だぞ。贅沢過ぎると思え」

「あはは、そんなに崇められると照れちゃうな」

「だって一さんは日本代表の中でも大活躍だったじゃないですか⁉」

「ありがとう」


「そういえば練習試合が決まって、今週土曜までに睦月をサッカー部に入れるから、よろしくな!」

「だからサッカー部には入らないって言っただろ」

「何でだよ? ギリシャ神話同好会以外の理由で」

「それは……」

「美月ちゃんへの遠慮かい?」

「!」

睦月は核心を突かれたような顔を見せた。

「美月? ああ、双子のお姉さんか」

「あの車椅子の子か」

「部活に入らないけど、サッカーはやりたいんだよね? だから今もボールを蹴っている」

「俺はっ!」

「部活に入れば本気でサッカーをやることになる。大会とかも出てプロのスカウトも来るかもしれない。そうなればサッカー漬けの毎日だ。サッカーが出来なくなった美月ちゃんに悪いと思っているんだろう?」

「五月蝿い! とにかく俺はサッカー部には入らない!」

 睦月は駆け出して行った。

「睦月! 今週の土曜! 練習試合! 待ってるから!」

 寿は走る睦月の背中に向けて、声をかけた。


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