第三話 別れて出会ってそして始まる―3
そんな日々が続くある日、僕の部屋を何者かが蹴破った。
その何者かは、数日間飲食をしていない僕を見ると、すぐに駆け寄って来た。彼の身に着けている鎧が、彼が一歩を踏み出すたびに騒がしく音を立てた。
「大丈夫かい!?」
「………」
僕はしゃべろうとしたが、何日もしゃべらないままだったのですぐに言葉が口から出てこなかった。
彼は扉の外で心配そうにしている僕の両親に目を向けた。
「どうしてこんなになるまで放置していたんだ!?この子は私が預からせてもらう!!」
彼は僕のことを抱きかかえると、何とか制止しようとする両親の手を押しのけ、家の外に出た。
窓越しに外界の光は感じていたが、外に出てみると、あの部屋とは比べ物にならないほどの光量に出迎えられた。
眼が明るさに順応したころ、僕は彼の腕に抱えられ、大勢の鎧を着た軍団の前に出された。
「見よ!!!」
彼が僕のことを掲げた。
「かのオーユリ国は赤髪の少年を虐げ、不当な環境に置き、衰弱させ、あわよくば殺そうとしていた!!こんなことが許されていいわけがない!!」
彼はかなりずれたことを言っている。別に国がどうとかは知らないし、そもそも僕が衰弱したのは僕自身のせいのように感じる。
騎士は言葉をつづけた。
「よって、この少年をわが国で保護しよう!!」
その瞬間、今まで黙っていた観衆が雄たけびを上げた。各々が剣や槍や斧などを掲げ、騎士の言葉を称賛している。
騎士は僕を左手で抱えなおし、右手で腰に付けていた剣を抜き、掲げた。
「今一度、宣言する!我が国は邪国オーユリを支配し、不当に虐げられている者たちを残らず救って
見せよう!!」
再び、観衆が雄たけびを上げた。
「その足掛かりとして!!」
騎士は掲げた剣を村の方に向けた。
「このオーユリに堕ちた村を今一度無に帰そう!!時使いよ!」
騎士の呼びつけにより、一人の女性が観衆の内から出てきた。彼女は深くフードをかぶっており、顔までは分からなかったが、背丈は僕より小さく、もしかしたら年下なのかもしれない。
時使いと呼ばれた彼女は、彼女の背よりも大きな杖を構えた。
「―――時は、時間とは即ち絶対不変のこの世の理なり。時空の神よ、数多の分岐よ、不変を曲げ、理を侵すことを許したまえ―――
彼女がそう唱えると、初めは変化が見て取れなかったが、次第に家々が倒壊し、遠くに見える風車も倒壊し、やがて人工物が無くなり、残るは植物と数人の村人となった。
「な、なんだぁ!こで、こんじゃきかんかんぺぇでさぁ!」
「お父さん、慌てすぎて訛りが出ちゃってるよ!」
僕の家の隣の家から、農夫の格好をした男と茶髪の少年が出てきた。
「けんじゃくめぇ…なんだいこれは!あのぴかぴか達がやったんか!?」
「多分絶対逆らったら無事じゃすまないよ!早く逃げよう!」
その瞬間、少年は父親らしき男の手を取り、もう片方の手で何かの印のようなものを作った。
「―――
光の環のようなものが二人を包みこみ、少しすると二人の姿は僕たちの前から消えていた。
目の前で起きたよくわからない、本当によく分からない出来事を、僕達はぼうっと眺めていた。
「……え?なんだったのいまの」
「……いや、
時使いが騎士の問いかけに答えた。答えたというより、応えた感じだが。少しの間、沈黙が流れたが、騎士がそれを打ち破った。
「ま、まぁいい。今日はもう帰るか。目的は果たしたことだし。」
騎士は僕の方をちらりと見た。
「各自、隊列を組み前哨基地へと帰還せよ!」
「はっ!!」
兵士らは僕の村を後にした。
僕は、自分の故郷を滅ぼされたのにもかかわらず、特に何も感じることはなかった。両親は生きているだろうし、ミズも多分…。僕は特に何も財産なんかは所有していなかったので、彼らに連れられて行くことに何の抵抗もなかった。
しかし、あの巨木の木陰からの景色が味気ないものになってしまったことには少し思うところがある。
もし叶うのなら、もう一度あの木陰でミズと過ごしたいな、と思った。
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