第22話 数分間の攻防
自分の首元に向かって威力を調整した魔法を数発打ち込む。
首輪を破壊したことで距離を取ろうとしているサキュバスとは反対に、大量に放たれた行動阻害系魔法の弾幕を掻い潜りながらじわじわと距離を詰める。
麻痺やら失神やら、一見する分にはカラフルできれいだなーくらいにしか感じない弾幕だが、実際のところは特定の魔法に対する防御で凌げないようにするためとかいういやらしい意図が込められているのだとか。
さすがサキュバスだ、いやらしさじゃ他種族の追随を許さないな。
……なんて、怒りで沸騰しそうな頭でそんなことを考え、なんとか平常心を保つ。
魔法吸収がある以上遠距離での打ち合いもできず、近づいて殴るしか勝ち筋がない脳筋ではあるが、それはそれとして冷静さを保つのは必要だ。
ステップを踏み、追尾してくるタイプの魔法をフェイントで振り払い、サキュバスへと肉薄して……
「当たりませんよ」
振るった拳はサキュバスがバリアを張ったことで無効化され、俺が反動で移動できない間にサキュバスは再度距離をとる。
弾幕の密度が先程よりも高くなった……にもかかわらずいくら攻撃しても当たる様子がないのにしびれを切らしたのだろう、壁や天井の隙間まで埋めるほど巨大な気絶魔法が放たれる。
「そっちこそ……効かねぇよ!!!!」
魔力を集中させ、気絶に対する耐性を特化させた右腕を一振り。できた隙間に体をねじ込み、二の矢三の矢と待ち構えていた魔法を回避して、再度距離を詰め始める。
先程と同様に角を全力で殴りつける……と見せかけて、横を通り抜けサキュバスの背後を取った。そのまま尻尾を引きちぎろうとして……掴みかかった手を払われ、そのまま足を掛けられそうになる。
「チッ、近接もできんのかよ!!」
「私も婦女子ですから、身を守るための護衛術はそれなりに」
「ハッ!お前はむしろ襲う側だ、ろっ!!!」
近接戦をしている最中にも構わず発射される魔法を避け、角の根元に向かって手刀をするも躱される。そうして体制を崩したところに蹴りを食らい、大きく吹き飛ばされて再度距離を取られてしまった。
場所がエロトラップダンジョンであるおかげか、怪我をしたり痛みを感じたりということこそないものの、距離を取られると面倒なことに変わりはない。
弾幕もさらに密度が上がり、距離を詰めるのにも苦労するほどになる。中には不可視のものまで混ざっているが、見えないということにリソースを振った分、むしろ回避しやすい。
そんな弾幕を掻い潜り、サキュバスへの攻撃をあえて外し、先程の近接戦を考えれば多少のリスクで特大のリターンが取れそうな隙を見せる。そこにカウンターを合わせようとして……
そして、また距離を取られた。
カウンターを悟られたか?それとも……距離を取った方がよかった?だとしたら一体それはどんな状況だ?
俺を倒すならさっきの隙を突けばよかった。魔法が俺に当たらないことは向こうも悟っているだろうし、わざわざ距離を取ったところで戦いが少し長引くだけ……
こっちのスタミナ切れ狙い?いや……時間稼ぎ……!!??
「命令だ!いますぐこのダンジョンから脱出しろ!!!!」
みずなに向かって指示を飛ばした瞬間、サキュバスの動きが先程までとは打って変わり、機敏な動きで俺たちとの距離を詰めにかかる。
俺の予想が当たったか、はたまた他に都合が悪い理由でもあったのか。どちらかは別にどうでもいいが……。
サキュバスが間合いに入った瞬間、背を見せて走っていた状態から振り返り、がら空きの腹に渾身の一撃をぶち込む。
角度も位置も完璧に決まり、後ろに大きく弾き飛ばされたサキュバスを視界に捉えながら、万が一の時のため、配信のマイクとカメラを落とし、外した指輪を魔力で保護して呑み込んで……
その間に俺をすり抜けてみずなの方に行こうとしていたサキュバスに対しスライディングで足を掛けに行く。
回避のためにジャンプしたところで足を掴み、バランスを崩したサキュバスの体を地面にたたきつけ、うつ伏せに倒れたことでむき出しの
みずなが転移していくのと、起き上がろうとしたサキュバスの角に蹴りを入れてへし折ろうとするのと、三つ同時。
突如として、俺の真後ろに先程までなかったはずの巨大な魔力が発生する。
転移トラップと入り口の距離からして、余裕をもって30秒。それだけあれば、みずながダンジョンから脱出するには十分なはずだ。
最悪の場合障害物にできるように、サキュバスを挟んで向かい側の位置に立ち、警戒を最大限に高める。音はない、目で見ることもできない、だが、俺の魔力探知はその異常なほどの魔力をはっきりと伝えてくる。
魔力がさらに強大さを増した。ねじれ、歪み、渦を巻いて、俺の魔力すら絡めとろうとしてくる。何とか抵抗しているうちに、魔力が一点に集まって―――
―——小さな風切り音とともに、上裸にゆったりとしたズボンを着ただけの男が出現する。
「……おいゼロ。なんでてめぇが倒れてんだ?おい?」
サキュバス―――ゼロと呼ばれたそいつにその男が近づいた瞬間、俺は無意識のうちに一歩後ろへと下がっていた。
「お父さま……もうしわけ……」
男がサキュバスの後頭部に触れ、舌打ちを挟んでこちらに向き直る。
―——間違いなく、格上だ。エロトラップダンジョンの外で、かつ万全の状態であっても、勝率は5割5分あればいい方というレベル。まず間違いなく、このまま戦ったところで勝てる見込みはない。
「お前、名前は?」
「……白雪」
声の震えを隠しながら、問いかけに答える。
「へぇ……本当の名前は?もう一つあんだろ、言ってみろよ?」
……!?バレた?なんで?…………どこまで?気づかないうちに何か魔法を使われていたのか?……いや、どうだっていい。もう時間は十分に稼げた。
「俺の本当の名前は―――———」
腹の中にある指輪に魔力を充填し、発動する。そこそこ気に入ってる服だったが……しょうがない。
「———ヒミツだ、じゃあな」
一瞬視界が光に包まれて、次の瞬間にはみずなの後姿を視界に捉えた。
……最後の最後で想定外はあったが、いつか必ずあのサキュバス……ゼロには落とし前を付けさせなければ。……ただ、今はそんなことよりもみずなを優先しよう。催眠を解除して、とりあえず今はゆっくりと眠らせてやりたいし、俺も眠りたい気分だ。
〈《》〉
「……ゼロ」
「はい、お父さま。どのような罰でも甘んじて……」
「気にするな、あれはお前じゃ手に負えねぇよ」
「そ、そんな、私はまだお役に……!!」
「気にするな、っつっただろ。それよりも、だ。ちょうどいいのを何個か見繕ってきた。今のうちに補充しておけ」
半裸の男が手をひと振りし、姿を消す。いつの間にか、サキュバスのすぐ近くには3人の人間が意識を失った状態で倒れていた。
「……ふむ、では19、20、21と……」
サキュバスが彼らの額に手を当てると、その姿は幼い少女のものへと変貌する。理知的な顔の男も、妙齢の女性も、左手のない老人も、元の面影すらない姿となる。
「いえ、せっかくのお父様からのプレゼントですし、ちゃんと名前をつけてあげましょうか」
3人の少女となった者たちの体が、骨の軋む音とともにその様相を変化させる。
「……それでは、これからよろしくお願いしますね、エル、エム、エヌ」
背丈が180を超える姿の者も。
逆に、少女の状態からこれっぽっちも体の大きさが変わっていないものも。
その中間程度に姿を変えたものも。
みな頭に2本のツノを生やし、腰から伸びる1本のしっぽをだらりと垂らしながら、口を揃えて言葉を発した。
「「「はい、お母様」」」
と。
TSロリ系健全エロトラップダンジョン配信者、通常ダンジョン配信者とのコラボで無双してバズる まるるる @maru1113
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