第17話ㅤ戦いの中で目覚める友情ってアツいよね

ホラゲー配信をやってから一週間ほど。ついに、魔力がそろそろダンジョンに潜り始めても問題ない程度———索敵と身体強化やら洗脳催眠対策やらを回しつつ、ある程度の戦闘までなら問題なくできるくらいまで回復した。


「雪ちん復活おめでとう!」


時刻は夜の9時ごろ、さすがに今日はもう遅いので、明日活動を再開するという告知をSNSで投稿する。


とはいえ、休止中もゲーム配信をやったりであまり活動休止という感じは無かったのだが……。


「それでね、良かったら活動再開記念でまたコラボしない?私明日空いてるし!」


三日ほど外泊していたみずなが、俺の回復を祝うとともにそんなお誘いをしてきた。気分的には乗りたいところだが……久しぶりのダンジョンで、慣れない一般の方に行って迷惑をかけるというのは出来れば避けたい。


「とりあえず一発目はソロでやろうと思ってたから……明後日以降の配信予定は立ててないし、そっちならみずなの方に合わせるよ」


「わかった!だったら……明々後日とかで大丈夫?」




〈《》〉




「というわけで、明後日にみずなとコラボしまーす、配信は俺の方の枠を使うことになりました〜」


・復帰の挨拶より先にコラボの告知するのまじ?

・ちゃんと挨拶しろ


「ちょくちょくダンジョン外で配信してたじゃん……ああもう悪かったって、54.11組白雪、本日無事に復帰しました。ご心配をおかけした視聴者の皆様、大変申し訳ございませんでした」


・そんな心配してないけどね、一昨日も配信してたし

・そんなちゃんとした挨拶じゃなくていいのに


「めんどく……おっと失礼なんでもございませんよHAHAHA!さてさて今回は一応復帰配信なのでね、特に変なことはやらずにプレーンな配信をお届けします!突入!」


・そんなのじゃ流されんぞ

・めんどくさいって言った!めんどくさいって言ったぞこいつ!

・逆に変なことってなんだよ・・・


「そりゃあ真実の首輪着けたりエロトラップダンジョンからなんか物持って帰ったり友達を運びながら6時間ダンジョンをさまよったりよ……あ、プレーンな配信って言ったけど肩慣らしみたいなところもあるので、今日は浅めの階層に籠りますね。最近索敵とか身体強化全然使えてなかったですし、時間も10分くらいで終わると思います」


・みっじか

・本当に復帰の挨拶だけするみたいな・・・あいさつ飛ばそうとしとったやんけ!

・ホラゲー配信の続きしよう


「ホラゲーはしばらくやりません」


・逃げんな

・やれ

・なんで本業ほっぽり出してダンジョン配信なんてしてるんですか?


「こっちが本職じゃい。……あ、ホラゲー配信で思い出したんですけど、ようやく髪が光らなくできるようになりました」


そう言いながら、ゲーミングと発光状態、光っていない状態を交互に切り替える。実はあの配信の後ゲーミングからしばらく戻すことができず、なんとかするための試行錯誤で魔力を丸々一日の回復分ほど浪費してしまったのは秘密だ。


ただ、光らないように調整すると、光ることによって気づかない程度に浪費してしまっていたのか魔力の回復速度が若干早くなった。この分なら、数か月もあれば元は取れそうだ。この場で披露するつもりはないが他にも副産物があったし、案外悪い消費ではなかったかもしれない。


・おー

・よかったやん

・逆に今までできなかったのかよ・・・


「意外と難しいんだぞこれ……つってももうマスターしたみたいなもんだし?ま、余裕だったというか?やっぱこれがセンスってやつなんだよね……明日からは気持ちよく寝れるわ」


・草

・よかったね・・・

・なんかメスガキ罵倒的なのが飛んできそうでワクワクしてたのに全然違くて悲しい


「どこをどう解釈したらそうなるんだよ……やーいはーげ」


・はい炎上

・これはさすがにライン超えちゃってますわ・・・

・いくら何でも擁護できないよこれは・・・

・覚悟しときな、明日には白雪じゃなくて燃え尽きて白灰になってるだろうから

・一週間後の23時に殺しに行くからな覚悟しとけよ


「回復したしむしろ俺の方から出向いたるわ。住所晒せコラ」


・草

・いつにもまして強気やね

・ひえっすんませんした・・・


「フン、雑魚が……今のゴブリンの方がまだ強かったわ」


・デコピンで頭まるごと消し飛ばしたやつ?w

・わざわざ近づいたのなんで?って思ったらコメント煽るためかよw

・強さが比較できない倒し方やめーや


「所詮魔力のない視聴者なんて有象無象ってわけよ……あっまって低評価とアンチコメで荒らさないでいつもご視聴いただき誠にありがとうございますゆるして」


・何もしてないのになんか勝ってしまった、自分の才能が恐ろしい

・ゴブリン<白雪<視聴者<ゴブリンの三竦み出来上がっちゃったねぇ・・・あれ?つまりゴブリンに勝てる視聴者が最強ってこと!?

・ん?今何でもするって・・・


「言ってねぇよハゲ」


・はい怒った

・白雪分からせ隊、出陣!

・攻撃的な発言及び特定個人への侮辱行為で通報しました

・低評価の数がどんどん増えてくねぇ・・・


あかーん!!!




〈《》〉




視聴者からの総攻撃が始まってから1時間ほど。


「……はい、では本日の配信はここまでといたします。さよーなら」


・目死んでて草

・わからせ成功やな・・・!!

・これに懲りたらもうハゲネタはやるんじゃないぞ


1時間、1時間だ。当初の予定の実に6倍である。魔力の回復速度が段違いだし、どうせ配信終了後もダンジョンの中で慣らしをするつもりではあったが……。


「隠し札の練習は配信中じゃできないもんなぁ……。にしても……」


対策をとるのが遅い気もするが、俺もバズって一気に有名になったことで、危険な人物から狙われる可能性はいままでと比べて非常に大きくなった。配信をしている以上そこで対策を練られる可能性もあるため、視聴者には見せない隠し札を用意しておく必要がある。


……ということを、孕ませ棒を取りに行くときの車内で社長に言われたのだ。危険な人物も何もそれを言っている本人がこの世で最も俺を危険な目に合わせた人間である。……まぁ、言っていることは真っ当だったので指示通りにすることにしたわけなのだが。


で、その隠し札というのが……


「まさか髪の毛で戦う時が来るとはねぇ……」


みずなにキモいと言われたあれである。場所がエロトラップダンジョンなこともあって、自分で操作していなかったら攻撃してしまいそうだ。


そんな髪の毛、意外と強い。10本くらいの束一つでゴブリンの首くらいであれば刎ね飛ばせるし、毛先をまとめて突き刺すように使ったり、ふわりと角度をつけて攻撃を受け流したり……。これで魔力タンクとしても使えるのだからまさしく万能だ。万能すぎてそのうち全身髪の毛のカミカミ人間とかが出てくるかもしれない……活舌悪そうだな。


配信モードがまだ切れていないのか、しょうもない思考を右に左にとっ散らかしながらエロトラップダンジョンの一層を徘徊し、索敵範囲に引っかかったモンスターを片っ端から髪の毛でジェノサイドする。


「触手じゃん」


ああいや、まるで俺自身がエロトラップダンジョンに出てくる触手型モンスターみたいだなという自虐ではなく。索敵範囲内に触手のモンスターがいただけだ。ということはつまり。


「目と目があったら触モンバトル!」


目はあっていないしなんならこちらが一方的に発見しているだけだが……素通りしようとしてもバトルは始まるものだ。諦めな。


エロ触手 の むれ が あらわれた!


しらゆき は 髪の毛触手00、01、02、03、04…………ZS を くりだした!


20匹程度のエロ触手の群れに対して、実に1000を上回る髪の毛触手によるただの数の暴力である。タコ殴りだ。タコじゃなくてエロと髪だが。


……練習にならないので、最後の一匹は一対一で戦うことにする。


さて早速と触手の根元に攻撃を仕掛けようとすると、エロ触手が髪に体を絡みつかせ、攻撃を防いだうえにこちら……俺本体に突っ込んできた。技術の差、というやつだ。触手歴の短いこちらが、触手歴の長いあちらに触手の扱いで勝つのは難しい。だからこそ練習になるのだが。


そのまま、何度か触手と触手でタイマンバトルを行う。時に白熱し、時にこちらの髪束を中ほどから切り飛ばされ……(髪の毛を切るのはエロトラップダンジョン的にセーフだと初めて知った。どこかには剃毛トラップとかもあるのかもしれない……)


戦いを始めてから、およそ2時間はたっただろうか。俺の一撃は、相手の巧みな防御を潜り抜け、ついに根元……本体に一撃を与えた。ふと見ると、こちらに攻撃する意図を見せていない触手が俺から少し離れた位置で待機している。


一体何をしようとしているのだろうと考えて……次の瞬間には、答えにたどり着いた。


握手である。長い時間互いにわざと技をぶつけ合った俺たちは、もはや言葉がなくても(元からないが)心でつながっていた。


互いに相手を認めた戦友ライバルである俺たちは固い握手を結び……


どぴゅっと、まさしくそんな擬音とともに、俺の服の袖には大量の粘液が発射された。まあ、そんなおちゃめなところも……あれ、俺催眠かかってね?


ひとまず触手を殺す。それから自分に仕込んだ魔法をチェックしてみれば……なぜかは分からないが、ある程度複雑なものは問題ないのに簡単なものから守れない脆弱なプロテクトになっていた。精神保存の魔法を使っていてよかったとしか言いようがない。


休みの間にまた向上した魔法の技能で各種プロテクトをかけなおし、もう一度触手を見てみる。


……まだ友情を感じる。嘘だろ……つまり俺は素で触手に友情を感じていたということか?バカな、男女の友情は成立しないはずでは……?


……荷物に空きはあるし、持って帰ろう。


「帰るか……」


その後家に帰ってから食べた触手は、今までのどんな触手よりも寂しい味がした。





〈《》〉



「ええ、ええ、素晴らしいですよ。では、計画の実行は……」


一面がピンクの肉で出来た部屋の中、虚空の向こうから聞こえてきたものと同じ声のが笑みを浮かべていた。


「明後日。みなさんも準備をしておいて下さいね。18番さんの代わり……も、そのままやるんですから……」


戦いの日は、近い。

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