第15話ㅤ戦いは終わったあとが1番大変だよね
体が死ぬほど痛い。全身くまなく、徹底的に痛い。たとえ微かにであろうと俺の身体を動かすことは許されてはいないのだということを、身体自身が全力で訴えかけてきている。
「雪ちん……大丈夫……?」
「もうだめだ……おれはしぬんだぁ……」
「筋肉痛だから、さすがに死にはしないんじゃないかなぁ……」
エロトラップダンジョンから死ぬ気で脱出した大体12時間後、俺はベッドの上でのたうち回っていた……ごめん嘘ついた、のたうち回るなんてできん、痛すぎて。
エロトラップダンジョンの中だと傷つかないとは一体何だったのか、筋肉痛は筋肉が傷ついたのが原因じゃないのか?……え?自分由来のは違う?そりゃそうか、そうですよね、永遠に自爆してるだけで攻略できちゃいますもんね。
とはいえ、ここまで痛くなることは予想外だった。もしかすると痛みの無効化だけはしっかりと働いていたのだろうか?だとしたらなんてトラップだ。いや、普段なら魔力が勝手に治癒速度を上げてくれるから問題ないのだが……
そう、今、俺の魔力はすっからかんである。
身体能力が見た目相応で、魔法が使えず、目で見えるものしか見えず、全身痛くてまともに動けない……今の俺、最弱では?武器も作れないし。
「急にそんな泣きそうな顔してどうしたの?おなかすいた?」
俺は赤ん坊か。
「ちょっとかんがえごとしてただけだ……」
「そうなの?……でもやっぱり辛そうだし、マッサージしてあげる!」
グイッ、と、仰向けからうつ伏せに姿勢を変更される。待て、なんかすごく嫌な予感がするんだが……
いっっっっっっっった!!!痛い痛い痛い!!こわれるこわれる!!あががががが!!!!
あとから聞いた話だが、俺はあまりの痛みに失神&粗相をしてしまったらしい。みずながニコニコしながら写真を見せてきた。なんで撮ってるんだよ……
ここまで散々されると逆にもう何も怖くねぇな、今なら魔法少女☆まじかる☆白雪ちゃんでも何でもなれる気がする。魔法使えねーけど。
〈《》〉
あ〜、暇だ。ものすごく暇、今なら天井のシミを数えるが娯楽になりそうなレベルで暇だ。全身バキバキで動けないし、みずなは配信しに行っちゃったから話し相手もいないし、魔力も0.001毛くらいしかないスッカスカの状態だし……。
毛、毛か。そういえば初心者教育で切った髪の毛に魔力を込めたが、あれって生えてる状態でもできるのだろうか。思い立ったが吉日と、ちょうどよく目の前をふよふよ垂れていた髪にちょっとしかない魔力を送り込んでみる。
……
………………
…………………………
動いた!……動いたよな……?……やっぱり動いた!なんというか……人間と魔力の可能性は無限大だな……。
そのまま暇つぶしの道具として使い倒そうとするが、これが意外と難しい。
当たり前だが筋肉がない以上、魔力で髪を引っ張る必要があったり。非常に細くてそこそこ長いため、先端でも根元でも絶妙に操作しにくかったり。随分と夢中になっていたのだろう。
「ただいま〜……ってなにそれ気持ち悪!!」
魔力の回復と同時に練度を増し、先程5本同時に操れるようになった俺の髪の毛遊びは、みずなが帰ってくるまでずっと続いた。
「そんな気持ち悪いのか?途中から見てなくて気づかなかったんだけど……」
「ちょーーーーーっと待っててね、鏡持ってくるから……」
みずなにうつ伏せにされた身体を仰向けに直され、ちょうど俺の目線にあたる位置にスっと鏡が差し出される。
「しょくしゅだ……」
うねうね、うにょうにょ、くにょんくにょんと、擬音で表すならばそんな感じだろうか。俺の5本の髪の毛たちは、背景が剥き出しの肉のピンク色でもおかしくないような動きをしていた。
人前でやるのはやめておこう……。
〈《》〉
「ただいま〜」
ドアが空いた音を耳が捉えた瞬間、忙しなく動き回っていた髪の毛をいつも通りのストレートヘアにセットし直す。自然体のまま適当に流してるだけだからストレートという呼び方が正しいかは分からないが……
「おかえり、晩飯もうできてるぞ」
ああ、そうそう。筋肉痛は無事に良くなった。喉元過ぎれば熱さを忘れると言うやつだ、絶対違うな。そもそもまだ割と痛いし。
そんな状態なのでまともなものは作れない……かと思いきや、髪の毛100本くらい束ねたら土鍋でも余裕で持てた。さすがにこの状況で使うと怪しいので、今日の晩御飯は親子丼だが。
髪の毛はすごい。耐久性が高いし、魔力の通りもだいぶ良い。細くて長いためおそらく攻撃力も高いだろうし、体内でありながら体外という判定になっているのかなんなのか、送り込んだ魔力が操作できるのにこちらに逆流してこない。
武器だけでない、第3第4の腕や魔力タンクの役割まで果たせる超便利素材だ。あと魔力をみっちみちに詰めるとちょっと光る。色々と試してみたいし、調子が戻ったら配信外で試し斬りをしてみようと思う。
「筋肉痛は?もう大丈夫なの?」
「おう!見てのとおりピンピンよ」
「そっか、よかったよかった」
自然な動作で腕をつつかれ、その痛みに思わず声を漏らしてしまう。
再度みずなの顔を見ると、言葉とは裏腹に笑っていない目がこちらを見据えていた。
しらゆき は にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!
「まぁ待てって、な?……おい本当に待て、なんだよその手錠なんでそんなもの持っておい待てってなぁおい……!!」
「雪ちん、ちょーーっとマッサージしてあげるから、大人しくしててね……」
いやその言い方はだいぶアレな気がするというか……あ!?なんかみずなめっちゃ力強いんだけど!!??……違うこれ俺が弱いのか、魔力が足りないせいで……
「大人しくする!!大人しくするから手錠外し……足までつけんな!!はずせ!はず痛い痛い痛い痛いギブギブギブギブ!!!!!」
NO!!NOOOOOOOOOOOOO!!!!!!
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