第14話 普段なめてかかってる相手でも本気を出すと怖いよね
孕ませ棒を引き抜いた瞬間、文字通りにダンジョンが蠢き始める。
壁が、天井が、床が、まるで生き物かのようにひとつの意思の元その身を捩り、くねらせながら変化する。
「ここからはしばらく待機の時間です、退屈かもしれませんが10秒ほどお待ちください」
・10秒じゃ理解が間に合わないよ
・すごい冷静さ、さすがエロトラップダンジョン博士だね
「なんて言ってたらもう10秒たったわけですが……皆さん何が違うか分かりますでしょうか?分かったらすごいぞ」
・分からない
・知ってるけど見た目じゃ絶対わからんて
変化を止めた部屋は一見元通りの見た目だ。強いて言うなら媚薬ゴーレムの残骸が消えて無くなっている部分は違いと言えば違いだが……うん、正直に言おう。
「では正解発表!真面目に考えているところ申し訳ないですが、この部屋には違いがありません!滑稽滑稽!」
・は?
・ガキが・・・
・あまり大人を舐めるなよ
・これもしかして深夜テンション入ってる?
「じゃあどこが変わっているのかというと……」
一見何も変わっていない部屋の出入り口から、一歩踏み出す。
……瞬間、俺の周囲をおびただしい量の触手が取り囲んだ。
「このように。エロトラップダンジョン側の殺意……殺す気は無いから殺意じゃないか、えーと……ヤる気?が大幅に上がり、さらにあの部屋を出てから15分経つまで脱出用のアイテムが使えなくなります。一番使いたいところなのに」
・挿す意がたかいわね
・部屋の中で15分待機するんじゃダメなんか
・どうやって帰るんや
「出てからって言ってんだろ……帰り方ですけど今の俺だと2パターンあって、15分後に脱出装置を使うか全速力で脱出するかなんですね」
・問題なさそうだしこのまま15分待機?
・雑談タイムの始まりか
「ただ、残念ながら入り口と最奥以外は3分以内に2層攻略か撤退しないと必中耐性無視無効貫通全バフリセット効果の付いた即時失神魔法が飛んでくるので……ここだと10層なので全速力で脱出する以外の手段が実質ありません……」
・後だし情報が多すぎる
・ヤケクソ調整やめろ
・雑談タイムということで質問なのですが、今このタイミングでほかの探索者が入ってきたらどうなるんですか?
「雑談タイムじゃないですが……詳しい理論こそ解明されていませんが、設備を破壊して強奪していない人にとってわはぁっっ!!!???」
えっ!?なに!?……触手!!??あっぶね!!今触手に膝裏タッチされたんだけど……!!
「……コホン、設備を破壊して強奪していない人にとってはいつも通りのダンジョンらしいです」
・焦ってちょっと早口になってるのかわいい
・悲鳴助かる
・何されても飄々としてるイメージが崩れた。ギャップ萌え
「なにされてもって……俺そんな超人に見える?」
・見える
・むしろそうとしか思えない
・四方八方からくる触手をさばきつつモンスターの相手をし、コメントを読んで返しつつ全速力でダッシュしながら息も切らせない、トラップもあたらずモンスターからも攻撃も食らわない。どう見ても超人でしょ
言われてみれば。俺すごくね……いやいや。
・逆に何が苦手なん
・特異なこと・・・じゃなかった、得意なことと苦手なこと教えてほしい
「得意なのは策敵と回避と防御と小細工と小細工への対処で……苦手、というか不足してるのは体力ですね。あと火力。特に小細工してこない単純に強かったり多い相手にめっぽう弱いです、逆手にとれないので……あ、この階段降りたら1層ですね。なんとかかえってこれたぁ~」
・体力ないは嘘、人1人を台車で6時間運搬したことを忘れたとは言わせねえかんな
・でもケルベロス瞬殺だったじゃん
・たしかに今回がっつり逃走してるな・・・
・サキュバスちゃんとか苦手なの?ボコボコにしてたけど
「苦手度で言えばバフもりもりタイプ……サキュバスちゃんみたいなやつよりも、こういう単純にデカくて硬いモンスターが……へ?」
・フラグ回収速度-3秒
・嫌いな上司の愚痴を嫌いな上司本人にしたみたいな顔してて草
一例として挙げようと、直接触れられる距離まで近づいていたでっかいモンスターの触手に触れ……ようとした時点で、ようやくその存在に気が付く。
その姿は壁と見間違えるほど大きくそびえたっており、俺の身長(135cm)の、優に6倍はありそうなほどだ。
「って呆けてる場合じゃねぇ!!!!」
その場から全力で横っ飛びを行うと、それから1秒にも満たない程度に遅れて、元居た場所に触手が殺到した。軽く見ただけでも失神魔法やら麻痺魔法やら当たったらまずいものがうじゃうじゃ……いや、そんなことよりこいつに気づけなかった理由はなんだ?
・死亡フラグが立ってしまったな・・・
・さらば白雪ちゃん、これからよろしくオカズ雪ちゃん
「誰がオカズ雪だコラ!むしろこいつの触手刺し身にして食ってやるわ!」
・まずそう
・体壊しそう
・寄生されそう
・変な能力に目覚めそう
「さすがに大丈夫じゃねぇかな……そらっ!頭ががら空きだぞしっかり守っとけや触手野郎!」
鈍い音を響かせ、魔力でがっつり強化した蹴りがタコでもイカでもない変な触手の頭部っぽい部分にクリーンヒットする。
・痛そう
・相手の触手を足場にするのほんとにやるやつ初めて見た
全力のひっかきで肉体をえぐり取る。殴り飛ばし、踏みつぶし、思い出したかのように……というか思い出して剣で切りつけ、その肉体を傷つけていく。
「埒が明かねぇ……」
・ほんとに火力足りてないんやね
・火力というか・・・リーチ・・・?
しかし、俺の攻撃はあくまですべて表面を削り取るだけに終わってしまう。腕を丸々突っ込んでも体の半分程度しか届かなそうな巨体は、俺にとって相性が最悪であった。
このまま残りの5分を戦い続けるのもできれば避けたい。というのも、俺がコイツに気づけなかった理由には眠気と疲労からくる無意識のうちの判断力低下だけでなく、こいつ自身が仕掛けた小細工が原因であったためだ。
効果は、部屋にいるすべての存在の魔法を阻害し、魔力を乱すこと。俺がコイツに気づけなかったのは、魔力が乱れたことによる索敵能力の低下とそれに気づかない判断力の低下、その2点によるものだということである。
「短期決戦、しかないよな……」
・つってもどうするん
・自爆でもするんか?
「なわけねぇだろ……失敗しなければ自爆にはならねぇよ」
・それは自爆では?
コメントを無視し、最後の一撃のために触手の頭に取り付く。索敵分の魔力、取り付くために必要最低限分以外の魔力をすべて右腕に集め、腋が肉に埋まるほど深くまで掌底をぶち込むと、残った分の魔力で時限式の起爆魔法を設置、ごっそり減った魔力を再度身体強化に戻し、全力で離脱する。
「みとけよお前ら……3、2、1、……」
耳をつんざくような爆音とともに、触手の頭が吹き飛ぶ。
「た~まや~……さて、一応触手もちょっと回収して、帰るか……」
・本当に食べるの!!??
・か~ぎや~
なんだか意識が朦朧としてきた。早く脱出しなければ不味いかもしれない。
とはいえ、だっしゅつようのげーとはもうめのまえだ。
ほら、ぴんくいろがおれをまちかまえて……
「……!!??」
・白雪ちゃん戻ってきた!!
・お帰り、ガチで焦ったわ
視聴者たちのコメントが目に入る。ふと目の前を見れば、明らかにトラップなゲートと、その向こうに本物のゲートの姿。
……危なかった。魔力を使い過ぎたのが良くなかったのだろう、どうやら俺はエロトラップダンジョンの催眠にかかってしまっていたらしい。
普段なら弱すぎて逆に気づかないレベルの低レベルな催眠だ。
・余裕ありそうだと思ってたけど割と危なかったんか・・・
・途中から明らかに口数減ってるし思ってるよりも疲れてると思う、早く脱出して帰りな
視聴者まで優しい。そんなことをぼーっと考えながら、ダンジョンから脱出する。
「今回の配信はここまで……ではまた……」
配信を落とすと同時に、車を降りて迎えに来てくれたであろう社長の姿が目に映った。
「すいません社長、あとは……まかせました……」
お姫様抱っこの形でやさしく抱き上げられ、本格的に意識が飛ぶ直前。
どこからか、
『次はないぞ』
そう聞こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます