第10話ㅤ当たり前の異常性って外部から指摘されるまで気づけないよね

おふぁようふぉあいふぁ〜ふおはようございま〜す……それで、呼び出しってことは何かやらかしでもしてしまったんでしょうか?」


時刻は朝の10時、俺は事務所のビルに呼び出され、体感1ヶ月ぶりに社長と対面していた。


「そんなまさか。それに、もしそんなことがあったとしても昔の白雪くんならともかく、みずなくんとコラボした後の君ならわざわざ呼び出しなんてしないとも」


「……ならなぜ呼び出しを?そうなるともうわざわざ電話ではなく顔を合わせて伝えるべきことか、社長がどうしても私の面を拝みたいと思っているロリコンかの2択になってしまいますが」


「失礼だね!!??……そんな顔をしなくても大丈夫だって、悪い知らせじゃないからさ?」


そう言われ、社長から直接顔を合わせて話されたことを思い返してみる。配信が過激すぎた時に叱られたことを除けば……直近だと、服だけ溶かすスライムの捕獲依頼、感覚遮断落とし穴の魔法陣部分の入手依頼、それから無限に母乳が出るようになる搾乳器の分解持ち帰り———


ロクなことさせられてねぇな俺。破壊は簡単でも、機能が破損しないようにエロトラップダンジョンの装置を回収するってなると段違いで難しいんだぞ。


「今までのことを思い出してから言っていただいて……」


「本当に悪いと思っているって。それにあれらだって必要なことさ、火傷した皮膚が剥がれないように、さらに冷やしながら衣服を取り除けるスライム。麻酔のコストがほぼ0で大きな手術ができる感覚遮断穴。牛乳の実質的な無限生産で食糧不足問題に一石を投じた搾乳器……ふざけた名前ではあるけど、あれらが社会的に極めて有用なのは君だって理解しているだろう?」


「理解しているのと、当事者としてやりたいかは別問題ですよ………………随分と話が逸れましたね、余計なことをしてすみません。話を戻しましょう」


「そうだね、本題に移ろうか」


はぁ……、一体今回はどんな面倒事が舞い込んでくるのやら……。


「今回は本当にいい知らせだよ。実は……白雪くんに、専属のマネージャーが配属されることになったんだ!」


わー!ぱちぱちー!と、親しみやすさの中に渋さを併せ持つイケオジの見た目とはとてもではないが合わない盛り上げをする社長に、思わず呆気にとられた。


「……」


「いやー、最近白雪くん大きくバズっただろう?おかげでようやくマネージャーを付けるに値する存在だって役員共が認めてくれてね!今後は配信に一層力を入れられるとも。エロトラップダンジョンから物を取ってくる依頼もやらなくて済むはずさ!」


想定外なことに、もたらされた情報は本当に俺にとって嬉しいものだった。


マネージャーが付くというのは、マネージャーが負担する仕事分の手間でマネージャー一人分を雇う以上の利益を出せると判断されたということであるし、これからはこの前みたいにコラボ相手に悩む必要も少なくなる。そこまではいい。だが…………


「私がエロトラップダンジョンから物を持ってこなくなった時の後釜について、どうなっているか聞かせていただきたいのですが」


「構わないとも。……一獲千金のチャンスではあるが、まともな判断力を持っていればまずやるべきではないとわかる依頼だからね。成功する可能性がある程度の実力なら、まず間違いなく宝箱を探す方がローリスクで夢があると思うよ」


……迂遠な言い回しだが、つまりいない、と。


「……マネージャーの配属に関しては、またなにか進展があったら教えてください。それから入手依頼に関しては……引き続き、なにかあったら伝えていただければ」


「いいのかい?白雪くんだって100%安心というわけじゃないだろう?」


「もし自分が必要になった時になかったら困る、それに絵面が地味だとしても、周りが全然配信していないものをやるってのも、視聴者のダレを防ぐためには有効かなと思っただけですよ」


「くく……そうかいそうかい、ありがたく頼らせてもらうよ」




〈《》〉




「ねぇ雪ちん、これは一体なぁに?」


社員寮に帰ると、そこには死ぬほど恐ろしい目をしたみずなが待っていた。


いや、みずながいるのは別におかしなことではないのだ。お互い相手の家の合鍵くらいは持っているし、そもそも今日に関しては引越しの手伝いをしてくれるということで俺が呼んだ。


だが……まったくもって、こんな表情をさせている要因が分からない。お泊りということで食べ残したおつまみ類は食ってから行ったし……。


「私が何で怒ってるか、わかる?」


どうしよう……まっっっったくもってわからん……!!食器がシンクにたまってたとか?キッチンの油汚れを大分放置してることとか?……いやいや、まさかそんなことでこんなに怒るわけがないだろう。


「……ゴメンナサイ、ワカリ、マセン………………」


「……そっか、一回中でお話ししよっか」


その言葉とともに、みずなに部屋の中に引きずりこまれる。———いや、別に引きずり込まれるも何も俺の部屋なのだが———実際に家の中に入って確認しても……ああ!!!わかったこれ、みずなが怒ってる原因たぶんサキュバスの角じゃないか!!??


一般的に違法とされているものと似たようなものの原料が友人の部屋から100単位で出てきたら、友人としては当然やめせようと思うだろう。そりゃ怒られるわけだ、


「今わかったぞ、みずな、たぶんサキュバスの角のことだよな?」


「違う」


え……?


「はぁ……お酒の空き缶!多すぎるでしょ!!」


え?そんなこと?……


「ビニール1袋しかないじゃん」


「45Lの大きなやつでね!!!???最後に捨てたのいつ?これ……」


「一か月前とか……?」


「あれ、思ったより最近……まってまって、じゃあこれ一か月で全部飲んだってこと!?どんだけ飲んでるの!!????」


ええと、最近は1 、2、3、4……


「缶だけなら一日5本くらい?」


……あれ?そういや俺、こんな体になる前までは今飲んでるストロング系どころか

ほのよい一本で満足してたよな……?


もしかして、魔力が増えたことでアルコール耐性も上がったりしたのだろうか?身体能力上昇みたいなノリで……?


「1日に四合瓶1本くらいって言ってなかったっけ?明らかに多いんだけど?」


「え〜っと……そう!アルコールの量は同じくらいだから!!な!!??」


「はぁ……雪ちん……禁酒しよ……?このままだと本当に死んじゃうよ……?」


「……おう……」


「……」


「……」


「……」


「……さって雪ちん!!引っ越しの準備しよっか!!」


「……おう!」


ひとまず空き缶の詰まったビニール袋は玄関へ、確か今日はちょうど資源ごみの日なので、家を出発するタイミングにでも捨てられるはずだ。


家具は備え付けの物だから大丈夫、冷凍食品もちょうど使い切ったし、洗濯物もたまっておらず、食器は……小皿が三枚、今更ながらに自分がどんな生活をしていたのか見せつけられているような気分だ……。


とりあえず、あとは服と配信に関係する機材とたまに配信とかオフでやっていたゲーム機でも持っていけば問題ないな。掃除に関しては管理人さんがやってくれるって言っていたし、お言葉に甘えさせてもらおう。


「みずな~待たせて悪い、行こうぜ」




…………………………ちょっとした余談だが、まだ若いみずなと幼く見える白雪が二人揃って割と大きな荷物を持ち、人目を気にするように(最近バズって人気が出たため、住所バレに強く注意するよう言われている)事前に準備していた車(みずなのマネージャーが運転をしている)に乗り込む姿をたまたま見かけて、夜逃げならぬ昼逃げと勘違いした高齢の清掃員がいたとか、いないとか。




〈《》〉




「ねえ雪ちん、私大変なことに気づいちゃったんだけどさ……」


みずなのマネージャーさんの車を降り、玄関の中に入ってようやく一仕事終わったと息をついた昼下がり。みずながふと、そんなことを言い始めた。


「その……雪ちんが寝る場所のことなんだけど……」


寝る場所?そんなの昨日まで使ってた布団……が………………


「びしょ濡れじゃん!!」


びしょ濡れじゃん!結構厚めの布団で、乾くのに15時間くらいかかりそうなやつ……


「とりあえず今日はソファか床で寝るわ」


「さ、さすがに悪いから私がソファで寝るよ……」


「いいよいいよ、俺の方が体ちっちゃいんだし。明日の朝体バキバキになるぞ~」


「じゃ、じゃあ!二人で寝る……とか……」


同じ布団———ああ、みずなが使っているのはベッドだが———で、ということだろうか?


「べつにいいぞ……そもそも、昨日……一昨日の27時くらいにもうみずなと同じ布団で寝てるしな。そっちがいいなら俺からは特に何も言うことはないというか……」


「うぇ!?あれって雪ちんが私のこと布団に入れたの!?というか、そんな時間まで起きてたの!?」


「おう。……いや、起きてたというか、みずなに起こされたというか……その、みずなの頭が……」




何があったかを説明したことによってみずなに散々謝り倒され、その後、あれ魔法で布団乾かせばいいんじゃねと思いつきつつも、なんだかんだで言い出せず一緒に寝ることになりました。


感想?とっても気持ちよかったですよ、意識飛びそうになりましたもん、太ももにこうぎゅ~っと挟まれてね、首の両サイドを。


脳へ行く血流が途切れると酸欠になってふわふわするって本当なんですね。なまじ気道が確保されていて、苦しさとかがないせいで本当に怖かったです。生きててよかった。

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