第3話 お前を見下ろす俺

舗装された道を通り、すぐに学校に着いた。昇降口に着くと、翔とは別れた。残念ながら、三人で一緒のクラスではなかったんだ。

「今日、体育あるよね。しかも、跳び箱。いやだなあ」

  紬がこそこそと言った。先生に聞かれるのを嫌がっているみたいだった。

「跳び箱は、思い切るまで難しいよな」

 紬とたわいのない話をしながら、教室に向かう。教室に入ると、ざわっと空気が変わった。それを無視して、席につく。

「やあ、ルイス」

 ねっとりとした厭味ったらしい声で、れんが言った。どうしたら、こんな声が出せるようになるんだろうか。毎日さつまいもを食べているのかもしれない。しかも、甘くないやつ。

 日本は、昔ほど閉鎖的ではない。世界で一番売上のある会社が日本に移転してから、外国人の割合はどっと増えた。だから、この教室にも典型的な日本人の黒髪だけでなく、ちらほら赤毛、金髪、茶髪が混じっている。つまり、蓮が俺につっかかってくるのは、俺が外国人だからじゃない。

「何か用か?」

 俺はかばんからタブレットを出し、机の引き出しにしまう。こいつに時間を費やすのは、もったいない。

「もしかして、僕嫌われてる?ただ、僕にはない経験を持つルイスが羨ましいだけなのにさ。僕は太陽を見たことがないからね」

 教室中がくすくすとした笑いで包まれた。みんなちらちらこっちを見ては、俺が睨みつけると慌てて目をそらした。

「あっちに行きなよ。蓮」

 紬がバンという大きな音と共に、席から立ちあがった。蓮は顔を真っ赤にして、俺に顔を近づけた。

「女子に守られて、ひ弱なやつだな。お前らで、傷のなめ合いでもしてろよ。高層階に住む負け犬同士でさ」

「ああ、ありがとう。いつでも見上げてくれて良いんだぜ?成績と一緒でさ」

 あいつの顔は、朝の眠気をふっとばすにはぴったりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る