第2話 どたばた登校

自分の部屋に戻り、ばたばたと学校の用意をする。リビングに戻ったころには、母さんのメイクはいつも通りになっていた。

「いってきます!」

「いってらっしゃい」

 母さんは俺の寝ぐせをなでつけると、アパートの部屋の扉の外で見送ってくれた。俺は何度も振り返って手を振りながら、アパートのエレベーターエリアまで向かった。このエレベーターは亀のモノマネをしているのかと疑うほど、のろい。俺は、エレベーターを降りると、アパートのエントランスの端で立ち止まった。ここが、登校班の集合場所なんだ。少し待つと、エレベーターのチンという控えめな音と共に、騒々しい連中がやってきた。

「翔のせいで、遅刻しそうじゃない!」

「だから、悪かったって!」

 二人は言い合いをしながら、我先にとエレベーターを降りた。もし言われなければ、誰も二人が双子であることに気付かないだろう。しょうはこんがりと日焼けした腕を半袖からのばし、黒色のくりくりとした瞳で双子の片割れをにらみつけている。一方で、深く帽子をかぶったつむぎは、大きな眼鏡を押さえながらプイと顔をそむけた。ちょうど俺と目が合って、紬の口元が緩む。

「ルイス!」

 紬は走ってくると、遅れてごめんと息もつかずに言った。紬は責任感が強いんだ。翔も首をかきながら、謝る。

「俺も今来たところだから、大丈夫」


 3人そろって、アパートの玄関から出る。日の光の届かない地下道が通学路だ。俺たちの住むアパートのまわりの道は、ところどころLEDのランプがともっていて、辛うじて進行方向がわかる。細く暗いトンネルがぐねぐねと続き、色々なところで枝分かれしていて、すぐに道に迷ってしまいそうだ。それでも地上を好き勝手に歩くことはできないんだ。地球の環境破壊が進みすぎて、ついに俺たち人類は地上で暮らすことが困難になってしまったからだ。暑かったり、紫外線が強かったり、と人間が生活できる環境じゃない。今では、地上のかわりに地下の開発が進められている。

 俺たちは何度も道を曲がって、大通りに出た。いつ来ても、美しい場所だ。地下のはずなのに、天井には大空が広がり、雲まで浮かんでいる。多くの人が石畳を早足で行きかう一方、広場の巨木のかげで談笑する人もいる。広場の真ん中には大きな川が流れ、自動のゴンドラが人を運んでいる。でも、俺はこれらが偽りの美しさであると知っている。

 翔がぽつりと言った。

「今日も行くだろ?探検」

 考えるまでもなかった。


 

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