第23話 最優等生選挙01


 文化祭とともに、人気投票の皮を被った最優等生選挙が始まった。


 今回設定したジャンルは、

 成績に、男子の部と女子の部。

 運動に、同じく男子女子の部。

 人柄も、同じく。

 そしてそれらの合計ポイントで、男子優等生、女子優等生。

 さらに頂上に男女総合として、最優等生を置いた。


 運動と成績は、テスト結果などから判断できるだろう。

 問題は、人柄だ。

 なのでこのジャンルには、基準になりそうな投票ガイドを付けておいた。

 明るいのは、だれ?

 親切なのは、だれ?

 人助けしてそうなのは、だれ?

 などなど、実際に俺が見た、杜若かきつばたの行動を書き連ねた。

 同時に、そのエピソードを掲示板にも流して、賛同者も得た。

 その賛同者がサクラかどうかなんて、匿名掲示板では判断できないだろう。

 その辺の対策とセキュリティは、キモいマンズの青木と星野にお願いした。


 あとは、文化祭の取材と称した、メガネ新聞少女赤堀の情報操作だ。

 話を聴くフリをして、その話に関連した杜若かきつばたのエピソードをさりげなく伝えたり。

 いわゆるステルスマーケティングだが、今回はより高度で面倒な仕事だ。

 なんせ、杜若かきつばたの評判を上げようとしているとバレたら最後、すべてのベクトルがマイナスに向かいかねない。

 考えた末に赤堀がとった方法は、


杜若かきつばたさんのこんな話を聞いたんですけど、本当なんでしょうか』


 という直球勝負のような策だった。

 これは、校内新聞で杜若かきつばたあやめ特集を打った赤堀だからこそ怪しまれない方法だった。

 色々邪推される前に、最初から杜若かきつばたあやめについての取材だと言ってしまえばいい。

 この方法を赤堀から聞いた時、こいつは敏腕ゴシップ記者になると確信した。


 残る懸念材料としては運動ジャンルだが、去年のマラソン大会の第一位など、と選考基準に書くに留めた。

 運動ジャンルの男子はきっと、テニス部のエースにして県大会で三位入賞を果たした王子さま、加瀬くんがトップだろう。

 なんなら俺はこの企画を考えた時から、加瀬くんと杜若かきつばたの一騎打ちだと見込んでいる。

 そうなるのが理想形で、そこまでいけば勝確かちかくだ。


 空き教室の秘密基地では、投票フォームを通じて票が集まってきている。

 中身を見てみると、多少のイレギュラーはあれど、概ね俺の思惑通りに事は進んでいる。

 控えめにいって、順調だ。

 穿った見方をすれば、順調過ぎる。

 しかし、だいたいの場合において足元を掬われるのは、順調な時なのだ。

 気を引き締めなければ。





 杞憂に終われば良かった。

 が、事態は、俺が秘密基地を留守にしている間に起こった。


 妨害の可能性は考えていた。

 特に、杜若かきつばたの元取り巻き女子一号からしたら、やっとクラスの中心にまで上り詰めたのだ。

 ここで再び杜若かきつばたが目立ってしまえば、再びクラスの中心は杜若かきつばたに戻ってしまうかもしれない。

 妨害対策はしてあった。

 秘密基地を無人にしないように、昼食は交代で摂るように決めておいたのである。

 昼休憩は、ひとり一時間。

 正午からは弁当持参の青木と星野が、秘密基地で昼食を済ませた。

 最後の石田は、基地の外で食べてきた。

 その時、文実からの差し入れというケーキを持って帰ってきた。

 俺は自分の食事の番なので秘密基地を出て、他のクラスの出し物のホットドッグで腹を満たし、三十分ほどで秘密基地に戻る。


 が、秘密基地に戻ってみれば、そこには誰もいなかった。

 床には、お菓子やケーキの食べカスが散らばり、その向こう。


「やられたか……」


 無惨に叩き壊された、パソコンの部品が散らばっていた。

 数分後。

 運営スタッフの三人は、腹を押さえて基地に戻ってきた。


「やられ、ました」

「奴ら、ケーキに毒を」


 毒ではないと思う。おそらく下剤か何かだろう。

 だが、明らかなる妨害行為。

 そして犯人は、俺がこういう事態に備えていると、気づいていない。

 その証拠に、仕掛けて置いた隠しカメラはそのまま残っていた。


「三人とも、巻き込んですまない。保健室で休んでいてくれ」


 キモいマンズの三人の丸まった背中を見送った俺は。


「さあ、どうしてくれようか」


 なぜだろう。

 怒りで心が踊り出すのが自覚できた。

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