第19話 新聞部員少女、再び


 次にコンタクトを取ったのは、ある女子だ。


「最近どっすか。甘々な幼馴染エピソード、溜めてくれてるっすか?」


 以前、校内新聞の件で関わった、隣のクラスの赤堀亜衣。

 だが、こちらは俺一人ではない。


「やあ、初めまして、かな。隣のクラスの、加瀬です」

「どうもどうもご丁寧に、って……どぅえぇぇぇ!?」


 ちょい驚き過ぎじゃないかなぁ。


「ど、どうして闇の元締めの師匠が、光溢れる王子と!?」

「誰が闇の元締めだ。誰が師匠だ」


 俺のボッチ道は、一子相伝。

 というか、気づいたらボッチでした、まる。


「だって、アタシに真のジャーナリズム精神を教えてくれたのは、師匠じゃないですか」

「俺は何も教えた覚えはないけど」


 ジャーナリズム精神なんて知らないし。


「教えてくれましたって。世の中、敵に回してはいけない人物がいる、って」


 それは処世術では。

 しかも俺って、そんなにアンタッチャブルな存在なの?

 くそ、しばらく放置してたらキャラも変わってるし。


「うるせぇ。それより今日は頼みがある。嫌でも協力してもらうぞ」

「もちろんっす。師匠を敵に回すなんて、もう怖くて出来ませんからねっ」

「うるせぇ、今度はおまえの通学用のママチャリ晒すぞ」


 実際は、まだ何も晒していないけど。

 というか、ママチャリ晒されるのって、何か困るのかな。


「ご、ご勘弁を、何とぞ〜」


 ま、赤堀は土下座する勢いで頭を下げてるから、何か不都合があるんだろうな。


「……赤堀さんの扱い、ひど過ぎやしないかい」

「こいつには、あやめの私生活を晒した前科があるからな」

「おお、呼び捨て。ついに幼馴染を卒業っすか!」

「やかましい、言葉のあやだ」


 赤堀を一蹴して、苦笑する加瀬くんに向き直る。

 うん、本当に良い奴だ。

 俺がこれだけ黒い性格を見せて、それでも離れていかないなら、だけど。

 そんな奴、今まで杜若かきつばただけだったから。

 赤堀は黒いというか、手段を選ばないんだよな。

 今回の俺と同じで。

 そういう部分を少し直したら、きっと人気者になれると思う。

 そうだ、加瀬くんがいるじゃないか。


「おい赤堀」

「なんすか、師匠〜」

「加瀬くんのほうが、弟子入りし甲斐があるぞ?」

「え……いやいやいや。加瀬くんはイケメン過ぎて、ぜったい無理っす!」


 残念、赤堀さん。破門決定です。







 最後に運営側、教師陣の懐柔だ。

 はなから説得は無理だと考えて、的は一人に絞った。


「で、私に何をしろ、と?」


 放課後の職員室。

 田端先生はポニテを振って、くるりと振り返る。

 この先生、あれ以来本当にポニーテールしかしかしなくなった。


「俺たち生徒の自主イベントを、ただ見守ってくだされば」

「なるほど、余計な口を出すな、と」

「ずばり言えば」


 お、俺の考えが読めるようになってきたのか。

 さすが先生である。

 杜若かきつばただって、俺の頭の中を察するまでに二年はかかったぞ。

 満足そうに微笑む田端先生は、頭を少し左右に振って、後頭部のテールを揺らしてみせる。

 褒めて欲しいんだろうなぁ。

 しかし、もう簡単に褒めたりしないんだ、俺は。

 痺れを切らしたのか田端先生は俺の目をじっと見て、ついに言葉にした。


「……今日の私の髪型、どうかな」


 後頭部のポニテと自身の笑顔を見せられるギリギリの角度を、田端先生は俺に見せてくる。

 しかし、だ。

 ポニテに関する俺のこだわりを、少々甘く見られているようだ。

 俺は真剣な顔を作り、恐れながら、と申し上げる。


「少々ポニテの位置が低く、油断しているように見えます。先生のような美しい先生には、凛とした姿でいて欲しいと思う、いち男子生徒の願望です。めちゃくちゃ可愛いですけど」


 やべ、うっかり余計なことまで言ってしまった。

 でも仕方ないじゃん。もともと田端先生は美人なのだ。

 それがポニテの魔力で、可愛いにジョブチェンジしているのだから。

 呆気に取られた田端先生は俯いて、そのまま俺を見る。

 可愛い大人の女性の上目遣いって、平和の象徴ですね。


「可愛いのは、いや、か?」


 いやではない、断じて。

 しかし、今は正面切って褒めるわけにはいかぬのだ。

 世界一可愛い幼馴染のために。


「可愛さを魅せるのは、プライベートの時でしょう。職場の男性には、効果的です」

「ふむ。ならば初対面の合コンや、お見合いパーティーの席では?」

「そのポニテを解く瞬間。それがギャップになり、相手には警戒を解いてくれたという合図にもなります」


 ウソかホントか。

 ラーメンの「味変あじへんを参考に、未経験の事柄をそれらしく語ってみたが、判定やいかに。


「田中、いや田中くん。私の軍師にならないか?」

「報酬は」

「相談ごとに、ラーメン」

「……杜若かきつばたもセットで良いなら」

「決まりだ。存分にかぶくが良い!」

「ははぁ」


 ……なんだこの茶番。


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