第18話 暗躍開始
最悪の土曜日から、俺は考えた。
実の母親の現在を見て、最優等生がウソの称号だと知った
学校には来ているが、その笑顔に以前の精彩はない。
代わりに、というわけではないけど、
もう
考え続けて、三日目。
ようやく結論が出た。
最優等生という称号が無いなら、作ればいいのである。
幸いにも文化祭が近い。そこで現状をひっくり返す。
非常に安直な考えで、俺は動き出す。
まずは土台作りだ。
あらゆる力を駆使して、
あいつには、それだけの実力と価値がある。
俺の推しを舐めるんじゃねえ。
何より、あの
が、その計画は、すぐに頓挫した。
原因は、動く人間が俺しかいないこと。
要するに人手不足だ。
計画の大幅な見直しを余儀なくされた俺は、ある人物に初めてコンタクトを取った。
それが、どうしてこうなった。
「もうひっくり返しても良いかな」
「まだだ、もう少し待て」
「田中って、意外とキッチリしてるよな」
「それな」
俺が、いや俺たち四人が囲んでいるのは、とあるお好み焼き屋のテーブルだ。
真ん中には大きな鉄板の上で、豚玉とミックスが焼かれている。
不思議なことに、俺が呼んだのは加瀬くん一人。
だが、いつのまにかゲストは総勢三人にまで膨れ上がっていた。
「田中ぁ、唐揚げ頼もうぜー」
「おう、マヨネーズ必須な」
唐揚げは、メインが焼きあがるまでの繋ぎだろう。
サッカー部の、今までチャラいと決めつけてきた奴が、意外と気づかいの男だったり。
「初めてちゃんと話したけど、田中って普通だな」
「失礼だな、人をどっかのゴム人間みたいに言うな」
うっかり
「失礼なのは田中だろ、あっちは漫画の主人公だぞ」
「言われてみりゃその通りだな。深く謝罪するわ」
やはり悪手だったか。
しかし、思ったよりも会話は成立している気がする。
陰キャな俺の自己評価だから、アテにはならんけど。
学校外での
やはり
「しかし、いいよなー」
「そうそう、なんたって、あやめちゃんの幼馴染だもんなー」
「別に、狙ってあいつの側に生まれ落ちたワケじゃないけどな。偶然だ」
「うわー、余裕の発言。ムカつくわー」
おっと、また失言してしまったようだ。
「すまん、謝る」
「違うって、ただふざけてるだけ。誰もムカつくなんて思ってないさ」
最後にフォローをしてくれた、テニス部の加瀬くんに頭を下げる。
今日の最重要人物は、この加瀬くんだ。
「ありがとう。けれど、これからムカつかれる可能性は、充分にあるんだ」
これから話す内容は、自分の力だけでは成し得ない。
特に目の前の、リア充であり、テニス部の王子であり、今年の文化祭実行委員である加瀬くんの協力が、大きく関係してくる。
「軽い話、ではないようだね」
「ああ、けっこう身勝手で、大変な頼みをする」
「……聴かせてくれるかな。話は、それからだね」
やはりテニス部の加瀬くんは、非常にクレバーだ。
だからこそ、口説き落とせた時に価値がある。
「まず、
俺は、
「うわー、ひでえ母ちゃんだな」
「でも、早く寝ないと鬼が来る、みたいなもんだろ」
「いや、それよりも……
夏休み、加瀬くんは
「
「田中は、そのウソを上書きしてやりたい。そういうことだな」
「ああ。こんなことであいつの傷は癒えない。けど、絆創膏代わりにはなるだろ」
心の傷は、目に見えない。
きっと母親が家を出て行った時の
しかし、
自然と俺は、
そして、結論。
俺は、
できるのは、ケアだけだ。
「オレたちは、その絆創膏を貼る手伝い、か」
「申し訳ないが、その通りだ」
「おいおい、そんな何度も頭を下げなくてもいいから」
人に頭を下げるのは、得意ではない。
けれど、今回はそれが必要だと感じた。
「すまん」
「謝るのも、これで終わりな」
気づかいのサッカー部が、苦笑した。
そのバトンを受け取ったのは、加瀬くんだ。
「そうだね。今回は、一緒にイベントやろうって、田中がオレたちを誘ってくれた。そういうこと、だろ」
「それな。なんか楽しそうじゃん」
「今年の文化祭は盛り上がりそうだなー」
楽しそう。
盛り上がりそう。
そういう不確定要素に理由を、希望を見つけてくれる。
トップカーストなりの、或いはリア充なりの、そういう気の使い方なのだろうか。
ありがたい、な。
「それよりさ」
このテーブルで一番おとなしくしていた柔道部の男子が、恐る恐る手を挙げた。
「お好み焼き、焦げてない?」
「「「あ」」」
俺たちは、焦げたお好み焼きを食らい尽くすことを、最初の共同作業にせざるを得なかった。
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