第11話 幼馴染と夏休み01
夏休みに入って、二週間。
八月始めの太陽は容赦なく大地を焼き、そこに生きる俺たちをも焼く。
焼いて良いのは肉くらいだろうに。
いや、鳥もか。鳥も肉か。
そんなこんなで俺たちは今、富士山の麓のドライブインで富士宮焼きそばを食べている。
夏休みのたびに富士宮に訪れて食べてはいるけれど、味覚音痴の俺には普通の焼きそばとの違いが分からない。
で、どっちが美味いかと聞けば、どっちも美味しいという。
分からん。
富士山の麓だけあって、暑さも穏やかだ。
焼きそばを咀嚼し、横に置いた牛乳をぐびり。
んー、美味い。
牛乳も自宅で飲むのより濃くて美味い気がする。
ところで、我が家のご両親にひとつお聞きしたい。
「あっちにある朝霧牛のステーキって、美味いのかな」
「知らないわ、食べたことないんだから」
嘘はよくないな、嘘は。
たしかにステーキは知らないのかもしれない。
けどな、すき焼きは食べてたよな!
しかも昨日!
俺と
まあいい。どっちかといえば俺は質より量の派閥だから。
けどな、
ただでさえ、よその家族旅行に同行してるという引け目があるんだ。
変なことすんなよ、ご両親。
「いいの、私は毎年連れて来てもらえるだけで嬉しいから」
ほれ言わんこっちゃない。パワー全開で遠慮してるじゃねえかよ。
「それにお肉なら、いつもお父さんの分までお土産でもらうし」
ほほう、事情が変わってきましたよ。
てことはアレだ。
朝霧牛を知らんの、ワシだけかい!
「あんたは質より量、でしょ」
ああそうだ。でもな、それはあくまで第二候補。
第一候補は、質も量も、だっ!
まあ、いいや。
あー、今年も朝霧の牛乳がうまい……ん?
「
ストローをさしていない牛乳パックを見て、素朴な疑問を持ってしまう。
「こ、今年はいいかな、うん」
なんだなんだ、反抗期か?
「だって、ちょっと太っちゃったし」
は?
どこが太ったんだよ。全然変わんないだろ。
そんな様子に気づいた俺の母親は、
なんだなんだと思う間もなく、二人は売店の中へ消えた。
「なんなんだ」
「
「どうして初期装備にしてくれなかったんだよ、親父……」
いつのまにか近寄っていた親父が、俺を残念な子扱いしてくる。
合ってるから仕方ないけどさ。
「とにかく、女の子には優しくしろよ」
「うい」
おフランス訛りの曖昧な返事を返して、俺は食べ終えた食器を持って立つ。
「
──実の子供にも、優しくしようね。
富士宮市内、母親の実家に帰ったあとは、謎の別行動が始まった。
俺は、親父やじいちゃんと夕方まで畑の手伝い。
女性グループはというと。
「ただいまー」
「イウォンめちゃくちゃ混んでたわ」
「あ、私持ちます」
何やら笑顔の母親とばあちゃんと、その後ろを小走りしてくる
その手には、一見スペル間違いのような大手ショッピングモールの手提げ袋が数個。
ヤツら、ショッピングを楽しんできやがった。
こっちはキュウリやトマトと格闘してたっていうのに。
嫌がらせに本日の獲物、トマトを
どうだ、しっかり捕れるかな。
あと、赤いだろ。
「よっ……んむ、美味しい!」
あっさりキャッチして丸かぶりする
「ありがとね、
……アレだ。
夏ってのは、すべてが輝いて見えるのかね。
でなければ、いつも見てる
その日の夕食は、豚の冷しゃぶサラダと素麺だった。
だから朝霧牛を食わせろって。
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