第7話 正義を名乗る新聞部員少女03

 

「なら、俺が新聞を作って掲示板に貼っても、文句はないよな?」

「は? 素人のあんたが?」

「便利だよな、スマホひとつで新聞が作れるんだから」


 俺はスマートフォンの画面を赤堀へ向ける。


「そんなアプリが……え、ちょっと何これ!」


 試しに作った記事を読んだ赤堀は、固まった。

 見出しは、ある街の風景。

 文章も当たり障りのない、市内の街並みを紹介する内容だ。

 だが赤堀が見たのは、そこではない。


「あたしの家! それあたしの家じゃない!」

「そうなのか。俺は街の風景として撮影した一枚なんだが、偶然って怖いな」

「偶然なワケないじゃない! 消してよ!」

「そうか、悪かったな」


 俺は素直に、赤堀の自宅写真の記事を消す。


「気をつけなさい、それ個人情報だからね」

「ああ、けどな」


 俺は、あらかじめ作っておいた別の新聞のスクショを、赤堀に見せる。

 そこには、別の角度から撮影した、赤堀の自宅の写真がある。


「え、何枚あるのよ!」

「こういう偶然も間違いも、この先も起こるかもな。うっかり掲示板に貼るまで気づかないかもしれん」


 赤堀の表情が固まる。


「それに個人情報というなら、赤堀がやったのも、立派な杜若かきつばたの個人情報の漏洩だ」

「でも!」

「俺に説教するくらいだ。そのくらい、解ってるんだよな?」


 何も返せない赤堀に、トドメを刺す。


「悪いと理解した上で、悪いことをやってるんだよな?」


 赤堀は俯いたまま何かを呟いて、大きな溜息を吐いた。


「あーもう、ハイハイ。杜若かきつばたさんの記事はもう書かないわ。これでいいでしょ」


 あー、それならよかった。これで一件落着。

 とはいかない。

 少なくともあの掲示された新聞を見た生徒たちは、杜若かきつばたの個人情報の一端を見たわけだし。


「良いワケないんだよなー」

「え」

杜若かきつばた本人への謝罪と、それに対する許しを得てないだろ」

「そ、それは」

「あいつ、相当悩んでる様子だけどな」


 俺は、さらに赤堀を追い込む。


「え……」

「そりゃそうだろ。行った店まで公表されるなんて、杜若かきつばたにとったら、ストーカーに行動を見張られてる気分だろうな。それに」


 ここからは追い打ち、つまり保険だ。


「ちなみに、個人情報保護の漏洩は罰則がある。それにより生じた不利益に対する損害賠償も請求できる」

「え、は?」

「もっと言えば、あいつの親父さんは、弁護士だ」

「うそ……」


 赤堀は、まだそこまで調べていなかったのか。


「この状況で、もう書かない、だけで済むと思ってるのか」

「そんな」

「ま、俺は俺が作った新聞を掲示板に貼らせてもらうわ。楽しみにしと……」


 あーあ。

 赤堀さん泣いちゃった。足は震えてるし。

 やっと自分がやった行為の重大さを理解できた、のかな。

 あとは赤堀の出方次第。

 まだ同じような新聞を掲示するなら、俺も同じ事をするだけ。

 さ、任務完了したし、帰ろ──


幸希こうきくんっ!」

「ひっ」


 ──空き教室の扉が勢いよく開いて、よく知る叫び声が聞こえ、え?


「ダメでしょ、人を泣かせたら!」


 ここで女の子を、とか言わないのが杜若かきつばたの正義、なんだよな。

 てかビックリした。杜若かきつばたには内緒だったのに、どうしてここが。


「私の人脈の中の一人がね、教えてくれたの。幸希こうきくんが使ってない教室に、女の子を連れ込んだって」


 人脈ってなに。

 こわい組織とか裏で作ってないよね。


「いや連れ込んでないし、ここ待ち合わせ場所だし」

「言い訳は、めっ!」


 ツカツカと俺に近づいてきた杜若かきつばたは、俺にデコピンを食らわす。


「それと、赤堀さん」

「ひゃ」


 怒涛の勢いの杜若かきつばたに呼ばれた赤堀は、声にならない返事をした。

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