第3話 映画に行こう
土曜日の朝である。
「いやぁ、楽しみだね〜」
「……何時だと思ってるんだよ」
「んー、6時?」
まあ、時間は合ってるけど、そういうコトじゃないんだよなー。
日の出とともに俺の部屋に現れた幼馴染、
対して俺は……さっきやっと目が覚めたところだ。
テンションの差があるのは、仕方ない。
「あの、
「なぁに、
「見られてると、着替えしづらいんだけど」
ジト目と共に遺憾の意を示すが、
「何言ってんの。昔はよく一緒に着替えたじゃん」
「それ、幼稚園の頃の話なんだよなぁ……」
ガシガシと頭を掻いて、羞恥心やら色んなものやらを諦める。
ジャージのズボンはそのまま、パパッと寝巻き代わりのTシャツだけ着替えて、洗面所に向かう。
簡単に顔を洗って歯を磨き、部屋に戻るまでに約5分。
ガチャコと自室のドアを開けると、ベッドにうつ伏せに埋まった
「なにしてんの」
「んー、朝の深呼吸」
はあ、何なんだこの残念な幼馴染は。
とても男子どものアイドルにして学年主席のトップカーストとは思えない。
ベッドを占拠されてしまった俺は、仕方なく勉強机の椅子に腰掛ける。
と、突然
「よし、映画行こう」
「その前に時計を見ような」
現在時刻、午前6時半。
チケットの映画は、午後からの上映だ。
「……世の中の理不尽を感じるよ、
項垂れる
となれば、二度寝だな。
ベッドに寝転ぶと、ほんのりと甘い匂いがする。
「くそ、マーキングされた」
何度か甘い香りを深呼吸している内に、俺は再び夢の中に落ちた。
「着いたー!」
淡いグリーンのワンピースに身を包んだ
ここは港の近くにある商業施設。
一階のフードコートの大きなガラス窓からは、船着き場が見える。
「おい、あんまりはしゃぐなよ」
「わかってるよー。でも、久しぶりのお出かけなんだよ?」
「顔は毎日合わせてるだろう」
「だって、協定あるから学校では話せないし」
「仕方ないだろ、二人で決めたことだ」
しかし、高校以外では本当に昔のまんまだな。
本当の品行方正を目指すなら、普段からそういう振る舞いをしないと難しい気がする。
「……行くか」
「うん、行かれますか」
相変わらず上機嫌な
俺たちがいる商業施設の最上階は、映画館のフロアになっている。
シネマコンプレックスというヤツだ。
大小幾つかのスクリーンがあり、今回観る映画はそこそこ話題になっているようで、すでに若者たちの群れが見える。
「
「もー、幼馴染協定でしょ。わかってるって」
幼馴染協定。
高校進学の前に、2人で決めた協定だ。
俺が「
というのも。
中学でもトップヒエラルキーにいた
その2人が学校内で必要以上に関われば、奇異の目に曝されるだろう。
すなわちそれは、学校生活を送る支障になる。
俺は、ぼっちライフが一番落ち着く。
互いの利害の妥協点を探って結ばれたのが、幼馴染協定である。
簡単に言えば、学校や人前では節度ある振る舞いをする、という決め事だ。
「でも、ここは高校じゃないからセーフだよね?」
「まあ、そうだけど」
油断は禁物だ。
ここは市内で唯一の映画館。
同じ高校の生徒が来る可能性も、多分にあるのだ。
山盛りのキャラメルポップコーンと飲み物を売店で仕入れて、目当てのスクリーンへと向かう。
コーラ片手に隣を歩く
おかげで目的のスクリーンに着く頃には、ポップコーンの山盛り感はすっかり消えていた。
「ちょっとお手洗い」
狙い目は、座席中段のスクリーン正面。
映像も音も、この席が一番楽しめる。
席に着いて、少し。
コーラとポップコーンを持ったままで
スクリーンでは映画泥棒のCMが終わる頃、出入口の方から女子たちの話し声が聞こえた。
ふと顔を向けると、何人かの見知った顔が見える。
その女子たちに囲まれるよように、
──幼馴染協定その4。
外出先でも知り合いに会ったら別行動──
「協定……発動かよ」
どうやら映画は、別々に観るコトになったようだ。
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